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公爵と情報屋 ~男装美少女は氷の公爵から一途に愛される~  作者: やまのみき
第2章 初夏

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バリー・ギブソン卿の調査 2

「わあ、ありがとう。ぜひお願いします」


「取ってくるから、そこで待っていなさい」


 せかせかと歩いていった彼女は、10分もかからずにまた戻ってきた。手に布袋を持っている。


「これです。相場どおりに買ってくれるのですか?」


「もちろん。ちなみにいつもはどのくらいの額で売ってますか?」


「この量だと、だいたい100リルくらいですね」


 確かにだいたいの相場通りの額だ。ルーシェリアはうなずき、「その値段で支払いますよ」と言って巾着を出した。硬貨を出し、家政婦頭に渡す。受け取った手のひらに載せられた硬貨を見て、家政婦頭は眉根を寄せた。


「どういうこと?」


 ルーシェリアが渡した硬貨は100リル硬貨が2枚。100リル多かった。ルーシェリアは悪戯(いたずら)っぽく笑う。


「多い分は、最初のご挨拶がわりに。次からは相場通りの額で買わせてもらうけど、今日は、新顔の僕に売ってくれたお礼です。受け取ってください、あなたが」


 小声でそう言うと、家政婦頭は苦笑した。


「まだ子供のくせに、世慣れているのですね。次もおまえに売ってあげるから、また来なさい」


「はぁい。ありがとう!」


 ルーシェリアは意気揚々と布袋を受け取り、ぺこりと頭を下げてそこを辞した。

 屋敷の敷地を抜けて通りに出ると、もうリドリーはそこにはいなかった。ずっと前にいては怪しまれるので場所を移ったのだろう。少し歩いて角を曲がってみると、そこにリドリーが立っている。


「首尾よく買い取ってきたみたいだな」


 ルーシェリアの手にしていた布袋を目に留めたリドリーが破顔する。うん、とルーシェリアも笑顔になった。


「やっぱり軍資金があると違うね、やりやすいよ。世の中、金だね~」


「こら」


 こつんとルーシェリアの額をはじいたリドリーが、「とりあえず、これでときどき子爵邸に通える口実はできたな」と笑った。


「そうだね。横のお屋敷もついでに回ってみようか。そのうち噂話なんかが聞けるかもしれない」


「いいんじゃないか? 茶葉も南街区で売れば小遣い稼ぎができるもんな」


 というわけで、ルーシェリアは子爵邸のある通りに立ち並ぶ屋敷をついでに回り、それなりの茶葉を手に入れて引き上げることができた。なじみの行商人がいるからと何軒かには断られたけれど、あとは別に誰に売っても構わないという感じのところが多かったのだ。


 ルーシェリアが買い取りに回っているあいだ、リドリーは怪しまれないように気をつけつつも子爵邸の観察を続け、子爵夫人と思われる女性が2頭立ての馬車に乗って出ていったのを目撃していた。


「この時間だと、午後の訪問といったところだろうな」


「貴族はこれからが活動の本番だからねえ……」


 たいていの貴族は、午前中は家から出てこない。遊びに出かけて夜更かしをしていることが多いから朝が遅いのだ。昼前にようやく起き出し、身支度をして食事をしたあと、女性なら午後の訪問やちょっとした買い物、男性なら紳士クラブに出かけるというのがよくあるパターンである。

 夜になると社交活動は活発になり、夜会だの舞踏会だの晩(さん)会だのオペラ鑑賞だのと、華やかな場に着飾って繰り出す。そして夜更けまで遊びに興じたのち、屋敷に戻って休む。たいていの貴族はこういった毎日を繰り返しているらしい。


「そういえば公爵様って、そういう感じじゃないね」


「あのかたはまだランドール様の喪が明けてないからな。半年間の喪が明けないと大っぴらに社交界の行事には出にくいだろう」


「そっか。でも、それがなくても、あんまりぴんとこないな。公爵様がそんなふうに遊んでばっかりいるところって」


 部外者もいいところのルーシェリアではあるが、何度も公爵邸に通ううちに、気づいてくることもある。ティリアンはどうやらずいぶん真面目な貴族らしいというのもそのひとつだった。

 爵位を継いで日も浅く、慣れない仕事に忙殺されているというのもあるだろうが、秘書や弁護士と仕事をしていたり、貴族院に出かけていたりと、やるべき責務にきちんと取り組んでいるという印象がある。


「確かに、公爵様は華やかに遊び歩くって感じじゃないな。なんか質実剛健というか、流行の最先端みたいな洒落(しゃれ)た服より軍服のほうが今でも似合いそうだ」


 リドリーも同意し、「いとこどうしでも、伯爵様とはだいぶ違う感じだな」と笑った。

 パーセル伯爵のほうは社交的な性格らしく、クラブだの夜会だのと家を空けることがやたらと多かった。依頼を受けていたときも、報告などに訪問しても不在なことが多く、何度も空振りしたあげく「日時を指定して呼ばれるまで行かない」というやり方になったくらいだ。貴族院に登院する日を除けばたいてい屋敷にいることが多いティリアンとはずいぶん違う。


「やりやすいのはやっぱり公爵様のほうだね。しかも行けばお茶を出してくれるし」


「まったくだ。ありがたいな」


 得難い依頼人のためにもしっかり仕事をしたい。リドリーとルーシェリアは、行商人見習いの少年とその監督者をよそおいつつ、それからも交代で見張りを続けた。


第2章はこれで終わりです。

恋愛ジャンルのはずなのにこれまで恋愛成分が皆無で申し訳ありません。

第3章では、陽光に満ちた輝かしい夏が訪れる王都で、ティリアンとルーシェがいっそう親しくなっていき、それにつれてティリアンの気持ちが少しずつ動き始めます。

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