第63話 ご褒美タイム
「よし、俺はあがったぞ」
「守里さん、初めてあがったね……!」
「ぐぬぬ……ミーはまだです……」
「琉亜は顔に出すぎ。僕もあ~がり」
「ふむ、おかしいな……。アタシも残りは少ないはずなんだけども中々あがれないね」
「久美子お姉ちゃん、李依奈お姉ちゃんが欲しいカードをそのまま渡すからあがれないんだよ」
「大上先輩、本当助かりました♪ さあ、怜奈。どっちがジョーカーだと思う?」
「姉さんがジョーカー持ってるの!? 絶対引きたくないわね。……こっち!」
「あー、雨宮さん惜しかったですね……。ジョーカーです」
「早く上がるとやることがなくてつまらないね、八雲」
みんなでトランプをして遊ぶ。そうそう、俺が求めていたお泊り会はこれなのだ。女の子たちがきゃっきゃうふふと仲良く楽しんでいるところが見たかったのだ。先程までのギスギスした雰囲気は影もなく、盛り上がっている。
もちろん、魔法少女と敵組織セーフクの幹部たちが集まったとんでもない場だということは理解している。だけど、せっかくみんなで集まったお泊り会なのだ。今ぐらいは楽しんだって罰は当たらないだろう。
「八雲、終わった人で次のゲームを考えよう。どれにする?」
「うーん……そうですねえー……。……あ、絵しりとりとかは、どうですか?」
「いいね、面白そうだ」
「唯香お姉ちゃん、絵しりとりって何?」
「えっと、絵でしりとりをするんだよ」
唯香が紙に猫の絵を描いてころねに渡す。
「……ん?」
「うちが今、猫の絵を描いたでしょ。“ねこ”の次の“こ”から始まるものの絵を描くんだよ」
「こ……?」
ころねは、はっとしたように絵を描き始める。
「……これは、女の子?」
「ころね!」
にこっと笑みを浮かべる。――きっと俺は唯香と同じ気持ちを抱いていることだろう。
「じゃあ次はあたしが描くよ」
有栖が絵を描く。
「……有栖、これはなんだ?」
「ねずみだよ」
「ねずみ……。うちには、とらに見えるけど……」
「雨宮、次よろしく」
「月詠さん、今誤魔化しましたね?」
怜奈が呆れたように受け取る。
「さすが雨宮さん、うまいですね……!」
「そう?」
「ミーでも分かりますよ! これは、みみずくですネ! 羽角がちゃんとありまス」
「ふふん、ちゃんとこだわったのよ」
怜奈は得意げに笑みを浮かべる。
「次は、ひ……」
怜奈が日和を見て、目を外す。日和が寂しそうに手を引っ込める。……。
「俺が描こう」
強引に受け取って描く。これ以上、あの二人を見ていられなかったから。
こんな調子でみんなで紙を回して絵しりとりでしばらく遊んだ。
「うち、有名人と絵しりとりしてる……」
「あたしと絵のうまさは変わらないけどね」
「李依奈さんは、絵が上手だね」
「そう? ウチはこれくらいしか取り柄ないからね」
「次は誰の番だ?」
半田が呼びかけたところで、ころねはあくびをした。
「ころね、眠くなってきた……」
「えー……ころね、もう眠たいの? 起きて。みんなでもうちょっと遊ぼうよ」
李依奈が、目が閉じそうになっているころねの頬を引っ張る。
「ちょっと止めなよ、姉さん。夜も遅いからもうそろそろ寝ましょう」
「そうだね。雨宮の言う通りだ」
「うちも雨宮さんと月詠さんに賛成……。ちょっと眠くなってきたかも」
「……みんなが言うなら、仕方ないか」
李依奈が渋々といった様子でころねから離れる。――ころねの腕の中にいるぬいぐるみの目が細くなったのが見えた。なんとなく李依奈を睨んでいるように見えるのは気のせいだろうか。
「それじゃあ、僕もそろそろ寝ようかな」
半田が声をあげた。名残惜しいが、眠る時間が来てしまったなら仕方ない。
「俺も寝るとしよう。おやすみ。いい夢を見られるといいな」
「うん。おやすみ、守里さん」
「おやすみ、守里」
「咲、おやすみ」
「咲もいい夢を見るといいね。おやすみ」
有栖は微笑む。両手で琉亜を抱えながら。
「月詠サン、さらっとミーを一緒の布団に連れて行こうとしないでくださイ」
「おや、ダメだったかい? それは寂しいなあ……」
「……今日だけですヨ」
琉亜の返事に、月詠はにっこりと口角を挙げた。それぞれがベッドに入る。部屋が暗くなり、やがてあちこちから落ち着いた寝息が聞こえた。
――久しぶりに楽しい一日を過ごした。ヒヤッとすることはあったが、それでも楽しい思い出のほうが強い。眠るときに楽しい気持ちで寝られるとは、なんて幸せなことなのだろう。
俺は目を瞑る。今日は心地よく眠れる気がした。
***
目を瞑っては開くのを繰り返す。誰かの寝息が聞こえる度に焦る。眠りたいのに、全く眠気はやってこない。
理由は分かっている。わたしが、怜奈のことを気にしているからだ。
守里さんと話してからずっと考えていた。友達の好きと、恋人の好きは何が違うんだろうって。
怜奈に大事な人ができることは嫌じゃない。怜奈がその分笑って過ごせるようになると思うから。だけど。
怜奈に別の大事な人ができて、そっちを怜奈が優先するようになったらどうする?
「……嫌だ」
口を抑える。小さい声ではあったけど、自分でも言葉に出るとは思わなかった。
怜奈に大事な人ができるのはいい。でも怜奈に大事な人ができても、きっとわたしのことを優先してくれるんだって心のどこかで思っていた。大事な人ができたって、お話しできるんだと。守里さんの言うとおり、怜奈がわたしから離れる可能性だってあるのに、わたしはいつの間にか考えなくなっていた。
もし怜奈に大事な人ができて、わたしのことなんか忘れてしまったみたいに振る舞われたら。
「っ……」
想像するだけで辛い。わたしの持っている感情が友情なのか恋愛的な意味なのか分からない。――でも、離れたくない。
ちらっと怜奈を見る。布団で静かに横になっている怜奈は、こちらに背を向けて眠っている。寝る時間だから仕方ない。しかし、それ以上の意志が含まれている気がして、胸が苦しくなった。




