第62話 息抜き
怜奈さんの家に遊びに来た。きっとみんなで楽しく遊ぶ。そう思っていたけれど……。
「なんだかシリアスな雰囲気でス」
このお泊り会、常にどこか緊張感が漂っている。何かを間違えたら壊れてしまいそうな、そんな緊張感。
「なんでこうなってしまったんでしょうネ」
「さあね。あたしも、もっとわいわい楽しいものを想像していたんだけどね。みんな、何かしら事情があるのかもしれないね」
「月詠サンはミーを抱っこして満足そうでス」
「うん。可愛い子が傍にいるだけであたしは楽しいからね」
口ではそういうものの、顔にはバッチリと寂しいと書いている。きっと月詠サンも張り詰めた空気を感じ取っている。けれど、その空気を作り出す人たちの心に踏み込めるほどの仲じゃない。
だからもどかしくて、寂しいのだ。たぶん、きっと。もし、月詠サンがミーと同じ気持ちなら、という条件付きだけども。
「何難しい顔をしているの?」
「わっ! 急に撫でないでくださいヨ。だってみんな楽しそうじゃないでス。ミーはもっと、楽しいことがしたいんですヨ……」
月詠サンがミーの顔を覗き込む。
「あたしは一緒に遊んであげるよ。琉亜と友達だからね」
「月詠サンは友達がいなそうですもんネ~?」
「うん、いないよ」
「……素直に受け入れられると、反応に困りますネ。……わっ」
月詠サンがミーをぎゅっと抱きしめる。
「だから琉亜はあたしの友達でいてね」
「……だ、大丈夫ですヨ」
なんとなく含みを感じて怖い……。月詠が微笑む。
「あたしたちはただ、お泊り会を楽しんでいよう。ね?」
「ハ~イ。……でもせっかくみんなでいるから、もっと楽しいことをしたいですネ」
ふと月詠サンが何かを思いついたように微笑んだ。
「あたし、カードゲーム持ってきたんだ。みんなを呼んで一緒に遊んでみる?」
「やりたいでス!」
「あ、琉亜!」
「月詠サンは遊ぶ準備をしていてください!」
ミーは背中で返事を受けてみんなを呼びに行った。
***
「はぁ……うちに人を呼ぶとかできるのかな……」
琉亜ちゃんに頼まれて雨宮さんのお姉さんのお友達に声を掛けに向かう。うちに頼むとか、琉亜ちゃんは本当に分かっていない。まあ、交流が浅いから仕方ないっていうか、わざとじゃないのは分かるんだけどさ。こんな陽キャみたいなことはうちには全く似合わないんだけど。
雨宮さんはお皿洗いしているし、それ以外の話しかけやすそうな人に声を掛けよう。例えば、雨宮さんのお姉さんの友達にいた、あの小さな女の子とか――。
「あの……」
「ひゃいっ!?」
「あ、ごめんなさい」
振り返ると、思い浮かべたあの子がいた。腕にはぬいぐるみを抱えている。
「えっと……ころねちゃん、だっけ?」
「うん。ころね」
「はうっ、かわいい……。あ、えっと……うちに何か用?」
「あの……」
女の子はもじもじと恥ずかしそうにする。……あー、かわいい。
長い白髪。同じくらいなのに小柄な体型だからうちでも押し倒せそうなか弱さ。綺麗な顔立ちだけどあまり表情が動かないところが、いろんな表情を引き出したくなる欲求を刺激される。草加部さんとはまた違う小動物感があってかわいい。
見つめていると、薄い唇がようやく音を紡ごうと動いた。
「半田……さん? の、こと……教えてください」
「半田さんって……黄色い髪の女の子のこと?」
「うん。お姉さん、あの人のお友達なんでしょ」
お友達。言葉選びが子どもっぽくてかわいい。
「ああ、うん、まあね。……でも、どうして半田さんのことを知りたいの?」
「えっと……前に、あの人に助けてもらったから。……魔法少女? に、変身していた時」
「そっかー……うん……?」
今のころねちゃんの発言に引っかかる。
魔法少女が持っている魔法のステッキで変身した後で解除したら、時間が巻き戻る。だから魔法少女のことを覚えている人はいないはず。咲は前にそう説明してくれた。
だけど、ころねちゃんははっきりと覚えている。……うん、なんで?
「えっと、ころねちゃん……? どうして、魔法少女のことを知っているの?」
「そ、それは……」
ころねちゃんは気まずそうに黙り込んで下を向いてしまった。……どうしたものか。考えたくはないけど、敵だから覚えていたっていう可能性だってある。……本当に思いたくないけど。
「あ、あのね」
ころねちゃんがしゃべり始めたので耳を傾ける。
「ころね……半田さんと仲良くなりたいの。……半田さんに助けてもらって、心がふわってして、あったかくなって……。だから、半田さんともっとお話しして、仲良くなりたいの」
――これ、もしやころねちゃんは恋をしているのか?
うちのオタクセンサーが光る。もしかしたらころねちゃんは、魔法少女姿の半田さんに恋をしているのかも。
しかし、困った。半田さんの魔法少女姿は女の子だけど、普段の半田さんは大学生の男の子らしい。にわかには信じられないけど、咲が言うならきっと本当のことなんだと思う。
果たして背中を押すべきなのか……。
「お願い、お姉さん」
ころねちゃんがうちの腕を掴んできた。そして、目をうるうるさせて見上げて来る。
「ころね、半田さんともっと仲良くなりたい。……手伝ってくれる?」
――100点です。かわいさの前で人は無力だ。こんなの手伝わないわけにはいかない。
「あ、あのね……今から雨宮さん……李依奈さんの妹の部屋で、みんなで遊ぶんだけど、ころねちゃんも一緒に来てくれる?」
「っ……うん!」
ころねちゃんは満面の笑みを浮かべる。
うち、この笑顔が見られただけでお泊り会に来たかいがあったな。




