第58話 変わったものは何だろう
「楽しそうね、日和」
「へ、そうかな!?」
「顔に全部出てるわよ」
怜奈に言われて思わず顔を触る。だって、仕方ない。今日はわたしが自分で初めて企画したお泊り会なのだから。
「改めて親睦会をしたいね」
ダークモンスターを倒した後、結局半田さんとろくに話せないまま、魔法少女たちで集まって帰った時のことだ。月詠さんが突然ぽつりと呟いたのだ。
「えっと……魔法少女同士の集まりは、さっきカフェでやりませんでした?」
「八雲が言っているのは、あくまで顔合わせだろう? もっと仲良くなろう、みたいなことはしたことがないじゃないか」
「そう言われてみたら、そうかも……」
振り返ってみれば、魔法少女として頑張ろうと戦うことばかりをしてきた。みんなで仲良くなるために何かをしようというのは、守里さんたちともしたことがない。
「あたしたちだけじゃなくて、もう一人魔法少女がいるのなら、ちゃんとした親睦会を一度開いてもいいと思うんだ」
「あんたは日和と仲良くなりたいだけでしょ」
「まあまあ。あたしは雨宮とも八雲とも仲良くなりたいと思っているよ」
「うちらはついでですよね……」
「わ、わたしもみんなともっと仲良くなりたい!」
みんなが驚いたようにわたしを見る。わたしがこんなことを言うなんて思わなかったんだと思う。みんなの視線が集まって少し緊張するけど、わたしは勇気を出して声を出した。
「せっかくみんなと魔法少女の仲間になれたから、もっと仲良くなるためにも何かしたい。……えっと、例えば……一緒に遊ぶとか」
「いいね、草加部さん」
「マジ天使……」
月詠さんと八雲さんが喜んでくれる。嫌だと言われなくて良かった。
「それならお泊り会なんてどうだい?」
「お泊り会! 楽しそうだね!」
「でも、どこでするのよ」
みんなは一斉に黙り込む。場所が無いからできないなんて嫌だ。
「わ、わたし、お母さんにうちでやってもいいか聞いてみるよ」
「ダメ。やるなら私の家にしましょう」
怜奈が食い気味に提案してくる。八雲さんが、またか、とでも言いたげな顔をした。
「雨宮の家? いいの?」
「ええ。そのほうが私にとってもいいわ」
「いつになく必死だね、雨宮」
「……気のせいよ」
怜奈が顔を背ける。
不安は残るけど、ひとまず怜奈の家でお泊り会することが決まったのだった。
「それにしても、準備くらい私一人でできるわよ?」
「ううん。わたしもやるよ。わたしが言い出したんだもん。怜奈だけにやらせたりしないよ」
「……本当に変わったわね、日和」
怜奈に褒められて顔をあげる。だけど、怜奈はちっとも喜んでいなかった。――どうして? 聞く前に、怜奈が背を向ける。
「そろそろみんなが来るから、出迎えて来るわね」
怜奈はそのまま部屋を出て行ってしまった。
わたしは取り残されて、しばらく動けなかった。
***
「本当に僕が混ざっていいのだろうか……」
「半田サン、いい加減諦めてくださイ」
「半田、気持ちは分かる。俺もみんなの中に混ざるのが恐れ多い。どちらかというと眺めていたい」
「たぶん何も分かってないだろ、咲」
三人で会話をしながら怜奈の家に向かう。怜奈の家には一度行ったことがあるので知っている。
「でも、俺はいい機会だと思うぞ。半田はこれから本格的に魔法少女の活動に協力したいと思ってくれているんだろ?」
「……まあね。兄ちゃんに会うために、一番手っ取り早いから」
「確かにな」
半田が意外そうな顔で俺の顔を見る。
「ていうか、咲って僕のこと疑わないよね。嘘ついてるかもって思わないの?」
「思わない。俺は半田が魔法少女に変身する瞬間を見たからな」
俺は半田が初めて変身した時のことを今でも覚えている。男が魔法少女に変身したことにも驚いてはいたが、それ以上に半田の本心を知ることができて俺は嬉しかったのだ。
「兄貴を助けたいという言葉に魔法のステッキは反応した。あれが半田の本音で、今の行動と違いが無いなら、俺が疑う余地なんてない」
「……そーですか」
半田がふいっと顔を背ける。琉亜が半田の顔の前に移動した。
「半田サン、照れてます?」
「琉亜ってそういうことには目ざといよな」
半田がため息を吐く声が聞こえて、俺は笑みが溢れた。
「家族って、なんだかいいですネ」
先程まで茶化していた琉亜が唐突にぽつりと零す。
「急にどうしたんだ、琉亜」
「だって、こんなふうに自分のことを心配してくれる存在がいるって良いじゃないですか」
「まあ、確かにな」
「人間の時のミーたちにも、家族っていたんですかネ」
琉亜が空を見上げた。言われて見れば確かに気になる。人間の時、俺や琉亜がどんな人間で、どんな人に囲まれていたのか。もし妖精の国の偉い人たちが記憶を消さなければ、きっと知っていたはずのことだから。――しかし。
「考えていたって仕方ない。俺たちに人間の時の記憶はないんだからな」
結局は想像に過ぎない。本来あったかもしれないものだとしても、結局今は俺の中にその記憶はないのだ。だったら、考えるだけ無駄だろう。
そんなたわいもない話をしながら、怜奈の家に向かった。
やがて、家の前に立っている怜奈の姿が視界に入った。
「いらっしゃい、守里。前に泊まりに来た時以来ね」
「そうだな。もうみんな来てるのか?」
「ええ。それと……」
怜奈は言いにくそうに伝えて来る。
「実は、姉さんの友達もうちに来ているの。だから、今夜はきっと賑やかになるけど、それでもいいならぜひ楽しんでいって」
怜奈はそう告げると、部屋の扉を開けた。




