第56話 盛りだくさん
【魔法少女について】
皆、順調に成長している。魔法少女として魔法のステッキを使いこなしている様子。引き続きサポートをしていく。
【セーフクについて】
田中裕太郎という名前の釣り人の40代男性の負の感情が利用され、ダークモンスターが生成された。ダークモンスターは□□町の駅前に出現。魔法少女マジカル☆チェルアと魔法少女マジカル☆ミクシアによって浄化される。経過観察中。
【その他】
敵のボスである半田高助と接触。今は禁止されている妖精の国が作り出した男用の魔法のステッキ(黒)を所持していた。
――高助は、妖精の国を壊すことを目的としている。
この一文を報告書に書くかどうか悩んで、既に一時間が経過した。もちろん、妖精の国のことを思うなら書いたほうがいいに決まっているだろう。けれど、俺は……今、妖精の国に不信感を抱いている。
家に帰ってきてから、半田から兄と話したことを聞いた。まさか琉亜と同じようなことを考えていたとは思わなかった。
同時に、俺は妖精の国に不信感を抱く。だって魔法少年として協力してくれていた人が、敵として寝返った理由が、評価されなかったから、だ。妖精の国にとっての魔法少女とは何なのだろうか。
「……」
何も考えずに、ただ魔法少女たちの百合を楽しむだけのつもりが、なぜこうなってしまったのだろう。こんなことを知ったところで、俺に何ができるのだろうか。
俺はただ、魔法少女たちが平和に笑っている今を守りたい。百合を見守る者として、魔法少女のサポート役として、何があっても俺は、俺だけは魔法少女たちの味方でありたい。
「咲、報告書は作り終わった? ちょっと話がしたいんだけど」
扉をノックされて顔をあげる。半田とはじっくり話をしようと思っていたが、いざ向こうから来られると慌ててしまう。
「今終わったところだ。琉亜はどうだ?」
「琉亜はお腹いっぱいになってさっき寝たよ。……じゃあ、咲。少し話そう」
半田は部屋に入ってきて俺の前に座る。
「まず、魔法少女たちの前で僕を呼び出したやつ。なんでみんないたのに僕のことを呼び出したの?」
「あれは、その……魔法少女たちが半田に会いたいと言ったから……ごめん」
「……まあ、いいよ。あれは僕もちゃんと聞いてなかったし。じゃあ、次の質問。――今日、僕の兄が敵にいるって、咲は知っていて呼んだの?」
「偶然だ。半田の兄だとは知らなかった」
これは本当だ。今まで現場には一度も姿を現したことがないので、今回見たのが初めてだった。半田が「兄ちゃん」と呼ばなければ、半田の兄だと気づくこともなかっただろう。
「じゃあ、僕の兄が敵なのは知ってた?」
「……それは……」
知っていた。知っていて、黙っていた。どう伝えたらいいか分からなくて、ずっと悩んでいた。まさかこんな形でバレるとは思いもしなかった。
「咲は、知っていて黙っていたの?」
「……ごめん。どう伝えたらいいのか分からなかったんだ」
「まあ確かに友達の兄が敵だって言いづらいよな。……そっか。咲はそれで悩んでいたんだ」
半田は覚悟を決めたように俺の目を見据える。
「咲。男の僕が許されるのかは分からないけど、今後は僕も魔法少女として戦闘に参加したい。……少しでも兄ちゃんに会える確率をあげたいんだ。兄ちゃんを連れ戻したいから。――ダメかな」
「……ダメではない。けど、本当にいいのか? 前よりも大変だぞ」
「いいよ。どうせ大学とバイト以外、僕はやることなんてないし」
半田が寂しそうに笑う。
「兄ちゃんに会えた時、生きていてくれたのが分かってホッとしたんだ。けど、僕を拒絶するみたいに背中を向けるからさ、……だったら、無視できないくらい向き合おうとするしかないだろ?」
「……そうだな」
きっと、半田はたくさん考えたのだろう。どうしたらいいのか、何をするべきなのか、――自分はどうしたいのか。たくさん考えた上で俺に相談してくれた。今の俺にできることは、半田の背中を押して少しでも前に進む手伝いをすることぐらいだ。
ふいに、携帯が鳴った。
「咲の携帯じゃない?」
半田が俺の携帯を指さす。確かに俺の携帯が音を鳴らして震えていた。
空気が変わってありがたいが、せっかく半田の本音に触れられたところを邪魔されたような気がして少しもやもやする。しかし、その気持ちは携帯の画面に表示される『日和』の文字を見たらどこかへ吹き飛んだ。
「もしもし、日和。夜遅くに電話なんて珍しいな」
『急にごめんね、守里さん。半田さんと話したいことがあったんだけど、連絡先が分からないから守里さんに掛けちゃった』
「半田と話したいこと?」
日和からのまさかの指名に、半田と顔を見合わせる。
「いいけど、何の用なんだ?」
『あのね、魔法少女のみんなでお泊り会をしようって話になったんだ』
「お泊り会?」
『うん。守里さんにも後で説明するけど、まずは半田さんを誘いたいの。半田さんがいないとダメだから!』
分かった、と返事をして半田に携帯を渡そうとするが、半田が慌てて首を全力で横に振る。
「半田、日和が変わってほしいって」
「無理無理、無理だって! 男子大学生が女子中学生に囲まれるとか、もはや犯罪だって!」
「? みんなで仲良くするだけだろ」
「これだから妖精は! 日本ではそうはいかないの!」
『半田さん、お願い。わたしの話を聞いて!』
半田は渋々といった様子で電話を手に取る。
「悪いけど、僕は行かないよ」
『そこを何とか! 魔法少女たちの親睦会だから、半田さんにも来てほしいの!』
「でも……」
『わたし、知ってるよ! わたしたちが動けない時、いつも半田さんが戦ってくれていたんでしょ? 魔法少女の仲間として、ずっとお礼が言いたかったの。ありがとう、半田さん』
半田が何も言えなくなって、口を閉じる。日和が続けて言葉を半田に投げかけた。
『だから、半田さんともっと仲良くなって、お互いに支え合いたいの。……どうかな?』
しばらくの沈黙が流れた。やがて、半田は観念したように口を開く。
「分かった。……泊まるのはあれだけど、その親睦会ぐらいは……まあ、参加してもいいよ」
『本当ですか! 絶対ですからね!』
日和の嬉しそうな声と反比例するように半田が苦い顔をしたところで、電話は切れた。
「……咲、僕捕まらないで済むかな?」
「安心してくれ。みんなのことは俺が守る」
「それ、僕のことは信用してない時のセリフだからね?」
半田が呆れたようにため息をついた。




