第54話 どうしたものか
なんとなく宙ぶらりんな気持ちのまま家の中を片付ける。元々はバイトのつもりだった。兄が魔法少年をやっていて、妖精の存在を知っていたから、行方不明になった兄を探す手掛かりを探すついでに、時給の良いバイトをしようと思っていただけだった。
ただ、兄のように魔法少年――僕の場合は魔法少女だが――になって戦ったり、一時的な預かりのつもりが妖精たちと暮らしたりしているうちに、なんとなく僕も敵と戦うみんなの一員になっているような気がしてくるのだ。――所詮、バイトのはずなのに。
だから、正直どのスタンスで関わればいいのか分からなくなっている。無関係だと言い切れるほど、浅い関係ではなくなってしまったから。かといって、力を注ぐほどの理由も僕にはない。
さて、どうしたものか。咲か琉亜がいたら、難しいことなんて考えなくていいなんて言ってくれるのかもしれないが、今はそんな言葉を掛けてくれる相手もそばにいない。
そんなことを思っていると、携帯に電話がかかって来た。――咲からだ。
今は魔法少女たちと集まって話をしているはず。いったいどうしたのか。疑問に思いながら電話に出る。
「もしもし、咲? どうかした?」
『半田。……悪いんだが、魔法少女になって来てくれるか?』
僕はピンときた。魔法少女たちで大事な話し合いをしている今、ダークモンスターが現れたから代わりに相手をしてほしい、と咲は僕にきっとお願いしたいのだ。
「いいよ、分かった。場所はどこ?」
『駅前だ。……本当にいいのか?』
「今さら遠慮なんかするなよ。今から向かうから、琉亜を寄こして」
咲の返事を聞いて電話を切る。黄色いステッキを手に取って、魔法少女に変身をした。鏡で自分の姿を見る。
「……うへえ」
ふりふりのスカートに、ポニーテール。普段の自分とは縁遠い物ばかり身にまとっていて、落ち着かない。魔法少女に変身した自分は背が縮んで体が小さくなっているので、中学生くらいの女の子にしか見えなかった。本当は大学生の男だと言っても誰も信じないだろう。
相変わらずこの格好をするのだけは慣れない。恥ずかしさをこらえて、僕はダークモンスターのいるところへ向かった。
***
敵はダークモンスター一体だけ。前回と比べて少ないし、今回は魔法少女が4人、そしてこの後もう一人やってくるのだ。きっと勝てる。
「チェルア!」
リリィがわたしの手を引っ張る。わたしは勢いのまま建物の屋上に避難する。直後、先程までわたしたちがいたところに攻撃がとんでくる。攻撃がぶつかったたてものががらがらと音を立てて崩れた。リリィに助けてもらわなかったら、今頃がれきの下だ。
「何ぼうっとしてるのよ! 気をつけなさい!」
「うん、ごめん。考え事をしてた。リリィ、助けてくれてありがとう」
「……集中しなさいよ、チェルア」
リリィが複雑そうな顔をしたのが気になる。けれど、口を開く前に叫ぶ声がとんできた。
「騙したな、咲!」
聞いたことのない女の子の声がした。振り返ると、全体的に黄色のカラーリングの魔法少女がいた。リリィ、ローゼ、ピオンの誰とも違う。
「後で話を詳しく聞かせてよ!」
「ああ。頼んだぞ、ミクシア」
黄色魔法少女――ミクシアがこちらにやってくる。
≪クルシーナぁあぁああ!≫
釣り竿の姿をしたダークモンスターはルアーのついた糸をぶんぶんと振り回した。ミクシアは難なくダークモンスターの攻撃を避けると、慣れた手つきで魔法のステッキを取り出す。そして銃の形に変形させると、光の弾丸をダークモンスターに打ち込んだ。
≪ああぁああああぁああああ!≫
ダークモンスターがダメージを食らって苦しそうに叫ぶ。
「早く終わらせよう」
ミクシアは魔法のステッキを掲げてダークモンスターに向ける。次の瞬間、――放たれた魔法の弾丸はダークモンスターに当たらず黒い塊に吸収された。
「まったく、危ないな。最近の若者はせっかちなんだから」
黒い塊が空気に溶け込んでいくように小さくなる。その後ろから、黒い魔法のステッキを掲げた男が建物の屋上にいた。
「……兄ちゃん?」
掠れた声が聞こえた。
「こっちはあたしとローゼが引き受ける! そっちはダークモンスターをお願い!」
ローゼとピオンが男の前へ立ちはだかった。わたしは頷いてミクシアを見る。
「お願い、ミクシア。力を貸して!」
「……」
「ミクシア?」
幹部の男を反応しないミクシアの腕を掴む。はっと我に返った様子でミクシアは振り返った。
「ミクシア、まずはダークモンスターを倒そう。あの男の人のことは、きっとローゼとピオンが何とかしてくれるから」
「……うん」
それでもミクシアはまだあの男が気になる様子でちらっと見たが、すぐに切り替えて魔法のステッキを構えた。
ミクシアと顔を見合わせて頷く。そして、ダークモンスターに向かって魔法のステッキを構えた。
「あなたの心の壁を壊す! いくよ、マジカルハンマー!」
「あなたの心を照らす! マジカル☆シャイン!」
二人で同時に叫ぶと、わたしの魔法のステッキはハンマーの形に、ミクシアのほうは変形して別の銃に変わった。
わたしはダークモンスターに向かってハンマーを振り下ろす。後ろの方から、銃弾が発射される音が聞こえた。
わたしとミクシアの攻撃が同時に敵に直撃する。
≪クルシーナぁああぁぁああああ!≫
みるみる紫色の体が溶けていく。ひとまず、ダークモンスターはなんとかなりそうだ。
「ちょ、待ってよ!」
ローゼの声が聞こえてそちらを見る。黒い魔法のステッキを持った男が二人を巻いて逃げようとしていた。
「っ、待って!」
「ミクシア!」
男の後をミクシアが追いかける。わたしもミクシアの後を追いかけようとして、誰かに肩を掴まれた。
「頼む、あいつに任せてくれ。あれは半田の……ミクシアの問題だ」
守里さんの声がした。ふわふわの小さい手でわたしの肩をつかみ、真剣な顔でわたしを見る。きっと、守里さんだけが知っているミクシアの事情があるんだろう。
「分かった」
わたしはそれ以上追いかけるのをやめる。
「今日も、ダークモンスターを倒すことができたわね」
リリィが、変身を解いて怜奈に戻る。わたしは頷いた。他の人たちも戻ってきて変身を解く。今日も無事に全てが終わった。
「……」
気になるのは、怜奈がたまにわたしの顔を見て悲しそうに目を伏せること。
二人きりになってから聞いてみようかな。
「……あ、半田さん」
「心配するな、日和。琉亜に後を追いかけてもらっている。半田に改めて話をしてみて、もし機会を設けられそうだったらその時また連絡するよ」
「分かった」
「今日はみんな集まってくれてありがとう。それと、緊急だったがダークモンスターを退治してくれて助かった。疲れているだろうし、今日はこれで解散しよう」
守里さんの言葉にみんな頷く。手を振って、それぞれの帰り道についた。
わたしは怜奈と一緒に帰り道を帰る。
「まったく、とんだ災難だったわ」
「そうだね」
「日和、遠慮してないで不満があるならちゃんと言いなさいね。言いづらいなら私が行ってあげるから」
「大丈夫だよ。それに、わたしはこれからはちゃんと自分で言うように頑張るから」
「……そう」
あ、また寂しそうな顔をした。どうしたらそんな顔をさせないで済むんだろう。
わたしは怜奈の顔をちらっと盗み見て、何と声を掛けたらいいのか隣を歩きながら考えた。




