第50話 騒がしい日常
相変わらず俺は魔法少女のサポート役として仕事をしている。ダークモンスターが出たら戦いに行く魔法少女について行くし、日常生活から魔法少女のそばにいて変化はないかを見る。
ただ、一番変化があったのは俺自身かもしれない。
妖精は実は戦争で死んだ人間の生まれ変わりのようなもの。琉亜はそんな話を魔法協会本部で居残りをしている時に聞いたと教えてくれた。本当かどうかは分からないし、聞く勇気なんてない。だいたい、真実を知ったところで俺のやることは変わらないのだ。
だから、これ以上は何も考えるべきじゃない。いつもどおり仕事をこなして、いつもどおり楽しく過ごせばいいのだ。俺は自分に言い聞かせる。けれど、胸のどこかがざわざわしていて落ち着かない。引っかかっているのは、なぜ妖精の記憶を消すのか、である。
――もしかして、自分にとって都合がいいように事を運ぶために妖精たちの記憶を消しているのではないか。
頭を振って、思い浮かんだ疑問を捨てる。何ということを考えているのだろうか。琉亜に感化されて、余計なことを考えてしまっている。俺はただ与えられた仕事をすればいいというのに。こんなことを考えていることが管理官や他の偉い妖精に知られたら、俺はどうなるか分かったものではない。
だから考えないようにしたい。それなのに、脳は勝手に考えを続けようとする。
「はあ……」
俺はため息を吐く。まだ、半田に兄のことを言えずにいるというのに、どうして悩み事というのは尽きないのだろうか。
「咲センパイの幸せ、捕まえましタ!」
突然琉亜がパチンと手を叩いた。顔をあげると、琉亜が得意げな顔で俺を見下ろしている。
「琉亜、何をしているんだ?」
「ふっふっふっ、咲センパイは知らないんでショ? 人間界ではため息を吐くと幸せが逃げちゃうんですヨ!」
「そうなのか! ……なら、逃げた幸せはどこに行くんだ?」
「ム? ……半田さん!」
「僕に聞かないで。あと、深く掘り下げないで。君たち、全部信じるじゃん。妖精って純粋すぎる生き物なの?」
半田が呆れたように笑う。俺と琉亜を見る目はまるでお母さんだ。
おかしい。俺だって妖精の国にいた時はどちらかといえば年下の面倒を見る方だったというのに。半田といるとなぜか面倒を見られがちである。
きっと半田の作るご飯が美味しいからに違いない。そうであってほしい。
「ミーはそんなに単純じゃないですからネ!」
「へえ、そう。……そういえば、――」
「ナっ! それはずるいですヨ!」
半田に食ってかかる琉亜を捕まえる。
「琉亜、遊んでないで準備をしてくれ。まだ妖精の姿のままじゃないか」
「遊んでなんかいないでス」
「じゃあ準備は終わったのか?」
琉亜は無言で人間の姿になる。準備をしなければいけない、という意識だけはあるらしい。
俺は琉亜の周りを回って不備がないか確認する。
「よし、問題はなさそうだな」
今の琉亜の見た目は、どこからどう見ても日和たちと変わりない女子中学生だ。これなら外を出歩いても問題はない。
「咲センパイ、本当に行くんですカ?」
琉亜は甘えたように上目遣いで俺を見る。女子高校生の姿をしている俺と女子中学生の姿をする琉亜とでは、ちょうどいい身長差がある。不覚にも可愛いと思ってしまったが、それはそれ、これはこれだ。
俺は琉亜のおでこを指で弾く。いわゆる、デコピンというやつだ。
「いだっ! 咲センパイの意地悪!」
「文句ばっかり言うな。琉亜はまだ新しく魔法少女になった二人に会ってないんだろう。琉亜のことをちゃんと紹介しないと」
むしろなぜ行かないという選択肢が出てくるのか。これが仕事をする妖精と見習い妖精の違いなのかもしれない。琉亜は動きたく無さそうに床に沈んだ。
「ミーは別に行かなくてもいいんですけどネ。半田さんについて回るだけのほうが出動回数が少なくて済みますシ」
「琉亜」
「……分かりましたヨ」
琉亜が玄関に向かう。ようやく魔法少女たちとの待ち合わせ場所に行けそうだ。
魔法少女、という言葉を思い浮かべてふと半田のほうを見る。
「半田のことも紹介したほうがいいだろうか」
「僕はいいんじゃない? みんなが学校に行ってる間だけのピンチヒッターだし」
「しかし、半田も魔法少女という役割を担っているし、立派な仲間だ」
いくら中身が男でも、戦う時は半田も他のみんなと同じく魔法少女の姿である。戦いに協力してもらう頻度は少ないが、戦いに行ってもらうタイミングも含めて半田は、なくてはならない戦力だ。
「気持ちは嬉しいけどさ。……だって、僕以外は女子中学生なんだろ? 馴染める気がしないし、僕のことは気にしなくていいよ」
「でも……」
「まあ、いるってことぐらいは伝えてくれていいから」
半田は照れたように目を逸らす。俺としては紹介したいが、半田としてもここは譲れないようだ。
「咲センパイ、半田さんがいいって言ってるんだから、もういいじゃないですカ。早く行きましょうヨ」
玄関で琉亜がしびれを切らしたように急かしてくる。琉亜の言う通りに半田をみんなに会わせないのはどうかと思うが、本人が行きたくないところを強制したくはない。
俺は仕方なく琉亜と玄関を出て、魔法少女たちといつも待ち合わせをしているカフェ“夕やけ”に向かった。




