つかの間の地雷
時系列的には、5章~6章の間です。
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俺はふうっとため息を吐く。夕方に差し掛かった今の今まで街中を歩いてみたが、敵のアジトは全く見つかる気配はない。敵のボスが半田の兄である半田高助だと分かったはいいものの、それ以外の情報が全く掴める気配がない。
この街でダークモンスターが頻発しているから、この街にいるのは確実だと思うのだが、所詮は推測の域を出ない。探索を一度やめて公園で休むことにした。
「ちょっと李依奈様、待ってよ」
「待たない。ウチの下僕を名乗るならウチの手を煩わせないでください、大上先輩」
「あはっ、良い……」
何やら危なげな会話が聞こえてそちらを見る。背の高い女子高生がギャルっぽい格好をした女子高生を追いかけている様子が見えた。
その後ろから、背の高い女子高生の顔を見てはっとした別の女子高生が、背の高い女子高生の背中に声を掛ける。
「あの、もしかして久美子ちゃんですか!」
背の高い女子が久美子という名前に反応して振り返る。
「君、アタシのことを呼んだかい?」
「はい! あの、私は久美子ちゃんのファンで――」
「悪いけど、李依奈様との時間を邪魔しないでくれる?」
久美子がファンの女の子の手を振り払った。ファンの女の子が目を丸くする。
「わ、私――」
「アタシのファンなら立場をわきまえてくれ」
「ご、ごめ、なしゃ……」
鼻声の女の子の言葉など聞く気もないといった態度で久美子は背を向ける。ファンの女の子は耐えきれなくなった様子で、涙を浮かべてどこかへ去っていってしまった。
「大上先輩、ファンにあんな扱いしていいんですか?」
「思ってないくせに優しいね、李依奈様。大丈夫だよ。その程度でやめるならアタシのことなんか鼻から好きじゃなかったのさ」
久美子が李依奈の頬に手を添える。
「それよりも、李依奈様」
「触らないで。……急に何ですか?」
李依奈が手を払いのけ、久美子を睨みつける。その眼差しにすら嬉しそうに久美子は微笑んだ。
「貴方の飼い犬は、アタシだけで十分でしょう?」
李依奈が眉をひそめる。久美子はそれに気づいていないのか、あるいは気づいたうえで虫をしているのか、構わずに言葉を続ける。
「ころねのこと、諦めなよ。アタシなら李依奈様の言いつけを全部守れるよ」
「……聞いたウチがバカだった」
呆れた様子で振り返るのをやめて李依奈は前を歩きだす。久美子はまるでご主人様についていく犬のように後にくっついて歩いた。
「……」
胸がざわざわする。女の子に恋する女の子がいて、その子に振り向いてもらおうと頑張る。その姿だけを切り取るなら、あれは百合と呼べる代物だ。しかし、俺の心は不思議といつものようには弾まない。
「ウチが指示してないことを勝手にやるバカ犬はいりませんから」
「あはっ……わん♪」
二人のやりとりが聞こえてくる。心は高ぶるどころか、冷えていた。
俺は、百合が好きだ。今でも好きだし、百合なら何でも好きなはずだった。今の二人の会話なんてまさに二人だけの世界という感じがして、いつもの俺なら喜べるはずだった。
――ご、ごめ、なしゃ……。
ファンの女の子の鼻声。傷ついた顔が忘れられない。
俺が好きなのは平和な関係性だった。百合を尊いと思ったのは、そこにはお互いに大好きな相手と平和に過ごす世界があったからだ。いくらお互いが大好きだからといって、誰かを傷つけていいとは、俺は思えない。
俺はどうやら、初めて受け入れられないカップリングに出会ってしまったようだ。
「……よいしょ」
休憩はこの辺にして、敵のアジトを探しに行かなければ。二人から離れるように、俺は公園を後にした。




