第46話 四人目の魔法少女
草加部さんも雨宮も、魔法少女に変身する。
「守里、どこにいるか教えなさい」
「街中だ。怜奈の家の近くの方にいるはず」
「なんですって!」
「急がないと。行こう、リリィ」
チェルアは地面を蹴り、空へ飛び上がる。リリィも同じように後を追った。俺も二人の後を追うために妖精の姿になる。
「咲」
有栖の声がして振り返った。
「もう、今すぐ行かなくちゃダメかな?」
珍しく有栖が弱った顔をしている。このまま俺も現地に向かえば、ここで有栖が返信する様子を見届ける人はいなくなるだろう。しかし、俺には魔法少女のサポートという仕事がある。何もできなくても見届けなければいけない。
少し迷った末に、俺は告げた。
「あまり時間はない。けど、有栖は自分の願いを分かっているんだろう? 今すぐ変身するなら、ここにいる」
「……ありがとう」
有栖はほっとしたように肩の力を抜いて、嬉しそうに笑みを浮かべた。
「二人に聞かれるのは恥ずかしかったんだけど、誰もいないとそれはそれで寂しいんだよね。だから咲、聞いててくれる? あたしのお願い」
照れたように告げると、有栖は魔法のステッキを掲げた。
「あたし、……友達がほしい」
俺は目を見開く。有栖の声にはいつものようなつんとした響きはなく、弱々しい。けれど、魔法のステッキが反応した。有栖の身体が光に包まれてく。
長い髪が紫色へと変化していく。ハーフアップにまとめた髪はさらに編み込みの飾りが入り、見た目がお洒落になる。
髪と同じく紫色のワンピースは胸元にリボン、スカートにはフリルがあしらわれており、側面には牡丹の刺繍がいくつも散りばめられていていてとても清楚な衣装だ。
「絆を胸に宿しましょう。魔法少女マジカル☆ピオン」
光が消え、紫色の魔法少女が現れた。
「それじゃあ咲、一緒に行ってくれる?」
「ああ。一緒に行こう、――ピオン」
ピオンは頷いて、俺と一緒にここから移動した。
***
まるで身体が別人みたいだった。軽いし、素早く動ける。
「ピオン、危ないよ!」
チェルアの声が聞こえてそちらを見る。
≪クルシーナ!≫
封筒の化け物があたしめがけて手紙のような四角く、しかし刃物のように鋭いものが手裏剣のように飛んでくる。手紙もどきが電線をすっぱりと切って、ばちばちと音がした。なるほど、切れ味はいいらしい。
「心配しないで、チェルア」
あたしは建物の屋上を蹴り、空へ舞う。風が心地いい。
切れ味のいい手紙もどきはあたしの足の下を通り、ひゅん、と音を立てて空気を切り裂いた。冷汗が頬を伝う。もし当たっていたら、身体は簡単に裂かれてしまうだろう。
「ピオン、本当に大丈夫?」
リリィが話しかけてくる。心配そうにこちらを覗き込むので、安心させるように笑ってみせた。
「今のところ問題ないよ。それにほら、普段はできないことだってできる」
あたしは屋上に降り立ち、さっき手紙もどきが削ってできたがれきを持ち上げる。普段なら絶対に持ち上げられないのに、今は軽々と持ち上げることができた。試しに化け物に投げてみると、難なく投げることができて化け物にぶつけられた。
≪クルシーナぁあぁああ‼≫
化け物が苦しそうに悶える。
「すごい……。あたし、こんなこともできるんだ」
「ピオン、あんた意外とパワー系なのね」
「そうなのかな。あたし、自分の力の限界を試してみたい」
「一応魔法少女なんだから、魔法を使いなさいよ」
そういえばそうだった。せっかく魔法少女として可愛い格好にもなったのだ。身体的な能力ばかり試すのはもったいない。
魔法のステッキを掲げて化け物に向ける。
「魔法よ、化け物を攻撃して!」
魔法のステッキの先から、リボンが飛び出す。そして鞭のように化け物を叩いて攻撃した。
≪いでっ! やめっ! ……なんか目覚めそう≫
「何なの、あのダークモンスター。というか、ピオンは魔法まで物理攻撃なのね」
「うん、そうみたい」
「ピオン、魔法使ったんだね!」
チェルアが隣へやってくる。自分も魔法のステッキを持って、あたしに教えるように動かした。
「こうやって掲げて、頭に浮かんだ言葉を唱えると必殺技が使えるの。ピオン、やってみて」
魔法少女になっても日和――チェルアはとても可愛い。あたしは真似をして、魔法のステッキを掲げた。
「君の孤独を忘れさせてあげる。マジカル☆サンダー!」
あたしが叫ぶと、魔法のステッキから出ていたリボンが化け物に巻き付く。リボンからビリビリと音が鳴ったかと思うと、直後に電流が流れた。
≪あぁああぁああ! クルシーナ!≫
ダークモンスターが叫び、体が崩れ始める。
「……ピオンの技、エグいわね」
リリィの言葉を否定する気はなかった。実際、あたし自身も魔法を使っておいて引いてしまった。
「見事だよ、魔法少女たち。アタシは感激した」
突然女の声がして顔をあげる。
「あ、リリィをバカにした人!」
「やめなさい、チェルア」
チェルアが飛び出しそうになるのを、リリィが腕を掴んで抑える。普段は逆の構図ばかり見ていたから、魔法少女姿とはいえ、立場が逆転した姿にあたしは思わず目を見開いた。
そんなことは露も知らない敵は、あははっと楽しそうに笑う。
「元気が良くていいね。そうそう、簡単に潰れては困るよ。デラヴィ様が望むのは、決して倒れることのない正義だからね」
目を細める女に、あたしはぞっとした。まるで獲物を見定めるような目に身震いする。
「アタシは、そうだね……。アロファ、とでも名乗っておこうか。魔法少女たちよ。また会おう。きっとこれから、もっと面白くなるからね」
アロファと名乗った女は不敵に笑うと、こちらの反応を待たずにさっさと立ち去ってしまった。
化け物は倒した。化け物の中にいた人も救出することができた。しかし、あたしたち三人の頭を占めていたのは、あの女の不敵な笑みだった。
すみませんが、次回の更新は5/19になります。




