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名も無き英雄の冒険譚  作者: オレオル
ルーメンス王国

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第55話

 フレイの魔力を解き、自然体に戻った僕は、体の調子を確認する。

 先ほどよりも、毒の周りが遅くなっているのを何となく感じる。

 毒の回りの速さは魔力を纏う時と比べて自然体の方が明らかに速度が遅くなっていた。

 どうやら僕の予想は正しかったようだ。

 しかし、状況は相変わらず最悪であることには変わりなかった。


 「そろそろ終わりにしてやるよ。」



 予想以上に手こずる羽目になったニーゼルは、この状況に納得が出来ずにいた。

 狂気の牙(ヴァーンズ・ファング)の幹部として数々の難しい任務をこなしてきた彼にとって、今回の依頼内容は、ありふれた人攫いで障害となる要素など何一つもないはずだった。

 そんな中、名を聞かない冒険者に計画を邪魔され、油断していたとはいえ一瞬でも追い詰められたことは、彼のプライドに深い傷をつけていた。

 この傷を癒すためには、諸悪の根源であるアレクを始末することしかないとニーゼルは感じていた。



 「そう簡単に行くかな……。」


 僕は痺れる手足に何とか力を込めて黒剣を握り込み、虚勢を張る。

 緊張が少しでも緩めば今にも倒れそうな程、手足の感覚は無くなりつつあり、黒剣を満足に振れるのもあと数回と言った所だろう。

 互いに最終局面であることを理解しているからか、中々踏み込めずに睨み合いが続く。

 僕は体を蝕む毒が回り切ってしまうのではないかという焦りを抱きながらただその時を待つ。

 額から汗が流れ、頬を伝い顎先へと流れ、遂には雫として落ちる。

 そして、汗が地面に着くのと同時にニーゼルが踏み込んできた。


 「『幻影舞踏(ファントムワルツ)』!」


 ニーゼルがスキル名を叫んだ途端、ニーゼルの姿が二人、三人と数をどんどん増やしていく。

 最終的に五人に増えたニーゼルは、散り散りになり全方向からの一斉攻撃を仕掛けてきた。

 意を決して迎撃の構えを取り、ニーゼルを迎え撃とうとしたその時、ふとある場面がフラッシュバックした。


 『君ならその技術を生かした戦い方が出来るはずだ!』


 それはフェンネルさんに稽古をつけてもらった時に言われた言葉だった。

 あの時の僕はどういう意味か分からなかったが、今は何となくわかる気がする。

 師匠の元で修業していた僕は、ずっと負(・)け(・)な(・)い(・)為(・)の(・)剣(・)を教えられてきた。

 当時は勝つ事と負けない事の意味を自分で見出すことは出来なかったが、ようやく少しはつかめた気がする。

 師匠との剣の打ち合いでは、いつも滅茶苦茶なスピードでもはや打ち合いとは言い難いほど滅多打ちにされていた。

 僕はそれに対抗するためにずっとダメージを最小限にする為の体の動かし方や剣の振り方を考えて来た。

 きっとフェンネルさんが言っていた技術とはこの事だったんだろう。

 負けない為の剣を攻めに応用するならきっと……。

 

 「「「「「これで終わりだクソガキ!!」」」」」


 残りの全魔力を目に集中させてニーゼルの一挙手一投足を見逃さないように感覚を研ぎ澄ます。

 五人のニーゼルはどれも見た目は完璧で見分けるのは困難だったが、挙動と気配を頼りに本体を見極める。

 一人、また一人と偽物の刃が体に届いては、煙になって消えていく。

 そんな中で一人だけ明確に気配を感じ取れる存在が正面にいた。

 他の偽物には臆せずに本体の攻撃を紙一重のタイミングで刃を躱し、黒剣を逆袈裟に振り抜く。


 「うおぉぉぉぉ!!!『逆天撃』!!!」


 僕の目指すべき剣術、それは反撃(カウンター)だった。

 師匠から習った負けない剣の目指すべき場所が見えた気がした。

 黒剣がニーゼルの脇下から肩にかけて切り裂く。

 無意識の内に技を叫び、僕は格上であるニーゼルに勝利を収めることが出来た。


 「く……クソが……。」


 致命傷を負ったニーゼルは、その場に倒れ込んだ。

 刃についた血を払い黒剣を鞘に仕舞、杖の要領で体の前に突きながら彼の元へゆっくりと歩く。

 今度は正真正銘本体だったようで、ニーゼルは仰向けになって浅い呼吸をしていた。

 

 「僕の……勝ちだ……さぁお前たちの計画を教えろ!」


 満身創痍で今にも倒れそうだが、重要な情報を聞かずに倒れるわけにはいかない。

 深く呼吸しながら意識を保ち、ニーゼルに狂気の牙(ヴァーンズ・ファング)の企みを問い質す。


 「ふっ……お前みたいな若造に負けるなんてな……熱くなっちまった時点で勝ちの目は無かったか……。おいガキ、三日後に俺たちは王都や周辺の領地を襲撃する……止めれるもんなら止めてみろ……。」


 ニーゼルは苦しそうにしながらも、どこか愉快な様子で笑っていた。

 

 「何がそんなに可笑しいんだ……。」


 僕はどうしてニーゼルが笑っているのか分からず、思わず問い質してしまった。

 そしてすぐに、こんな犯罪者の心の内なんて知る必要なんてないと少しの後悔をした。

 ニーゼルは苦しそうな呼吸と共に、自分の身の上と組織について話し始めた。


 「俺は……組織に拾われた人間だった。暗殺者(アサシン)ってのは何かと誤解を持たれる職業だったからな……誰も冒険者として俺を雇ってくれる人間なんていなかったんだ……。路地裏のスラムで暮らしてた所をボスに拾われた……。相手がどんな悪人だったとしても……殴られ蹴られ、人としての尊厳が無かった日常から解放されたんだ。当時の俺にとって……ボスはヒーローだったんだ。」


 ニーゼルの口から語られたのは、職業の差別を受けた過去だった。

 これまでモンスターを相手にするだけであれば、相手の背景なんて考えもしなかったが、彼の過去を聞いて、他人事と割り切ることが出来なかった。

 無職である自分と暗殺者(アサシン)であるニーゼル、全く同じとは言えないが、人生の歯車がかみ合わなければ全く同じ境遇だったのかもしれないと考えてしまったのだ。


 「組織は家族みたいなもんだ……勿論あくどい事をやってる自覚はあった……。だがな……決して女子どもを無暗に襲う様な組織ではなかったんだ。最初は私腹を肥やしている悪徳貴族や商人、国の危険人物の始末と大義名分があった。だが最近になって組織の方針が変わり過激な任務が多くなった……今回の件だってそうだ……。違和感を感じていながら……目の前で小さな子どもたちを見殺しにする自分に嫌悪感が走ったぜ……。この結果はきっとツケが回ったんだろうさ……。」


 自責の念を一人で呟き掠れた笑いをするニーゼルに、僕は何も言う事が出来なかった。

 非難しようと擁護しようと、彼にとっては薄っぺらい言葉になってしまうと思ったからだ。

 勿論狂気の牙(ヴァーンズ・ファング)を許すつもりは無いが、人にはそれぞれ自分の中に正義があるのだと、彼の話を聞いて感じた。


 「王都を襲撃するのは最高幹部とボスだ……王城に努めている有力貴族の子息令息を狙うらしい。全員俺なんかとは比べ物にならないバケモノだ……俺と戦ってそのザマなお前じゃどうにもならないかもしれないが……それでも頼む。ボスの暴走を止めてくれ……俺は止めることが出来なかった。これ以上俺みたいなろくでなしが生まれないように……頼む……。」


 段々と声色が弱弱しくなっていき、最後に僕に頼み事を残して息を引き取った。

 僕はニーゼルの話を聞いて、この世界における天職の重要性を改めて認識させられた。

 彼にも僕の師匠の様な人間が手を差し伸べていたらこんな組織に所属しなくて済んだのだろうか。


 「こんな連中は世の中に五万といる、一人一人に同情したって世界は変わらないぞ。」


 僕の考えを見透かしたようにフレイが現実を口にする。

 

 「分かってるよ……。」


 僕は重たい手足をゆっくりと動かしながらその場を後にした。

 ふらふらとよろめきながら、木々にもたれかかり、毒に侵された体へ必死に鞭を打つ。

 アステルたちの元へ歩いている途中、ニーゼルが過去を話していた時の表情が頭から離れなかった。

 

 「なぁフレイ、天職ってのは一体何なんだ?僕は小さい頃、神からの祝福だと教わった……けどアイツはその天職で苦しんでいた……。」


  僕の質問に、フレイは少し考えて自論を展開した。


 「オレは神の意向なんざ知らねぇが、少なくともお前ら人間が思っている様な高尚なもんじゃないってことだけは断言してやる。そこから先の答えは、小僧自身がたどり着くべきだ。」


 フレイはそれ以上詳しい事を話し手はくれなかった。

 普段の軽薄で軽い口調からは想像がつかない程、真剣な声色をしていた。

 悪魔だから神が嫌いなのではなく、もっと深い何かがあると感じさせるものだった。 

 暫く歩いたところで、ついに緊張の糸が切れたのか、急に足に力が入らなくなった。

 前のめりに倒れ込み、浅い呼吸を繰り返す。

 早くアステルたちの元へと戻らなければ。

 這いつくばり手を伸ばし少しでも前へ進もうとする僕にフレイは呆れた様子だった。


 「無理をするな。これ以上は小僧の体が持たんだろう。」


 フレイの言葉を聞く余裕もなく、僕は意識を保つことが出来なくなっていた。

 そして意識が飛ぶ瞬間、幻聴だと思うが、子どもたちと村まで逃げていたアステルの声が僕の鼓膜に届いた。

ようやくきちんとした戦闘描写を書くことが出来ました。

もっと楽しくワクワクできるお話を書けるように精進していきます!


面白いと思ったら高評価と☆そしてブックマークをお願いします!

私のやる気が猛烈に上がります。

感想や質問なども書いてくれると嬉しいです。

アドバイスや誤字は優しく教えてください。

次回でまたお会いしましょう!!


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