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ステーションよ、俺は帰ってきた

「こちらニュービー・フリート、現在のコマンダーはヨハン・ハーヴェイ、ランディングの許可を要請する」

「こちらみんなのアイドル3Mだよー。いいぞさっさとランディングし給え」

「「「「えぇ……」」」」


当然ながら3Mはディスカバリー火星ステーションのボスなので、俺らフリートが火星ステーションに近づいていることくらいとっくに知っている、

知っていて当然だし、知っていてくれなければ困るわけだが、管制のシートをぶんどって、ネタぶっこみながら通信していいという法はあるのかないのか、ソレガワカラナイ。


「と、とにかくランディングの許可は得た。各々誘導通りに侵入、AI手動でランディングしてくれ」

「「「アイアイ・サー」」」


前述の通り、手動でランディングするなんていう馬鹿は、このフリートには存在しない。


「あ、スマンコマンダー。俺の乗艦的な意味でコルベットのランディング・パッドじゃ無理なんだが」

「ああ。シルビア用のランディング・パッドに誘導されるはずだ。あいつ生きてる扱いだし」

「ならええか、足の踏み場があればいいんだがな」

「そう祈っておくよ。では、ブリーフィングルームで会おうぜ」


現コマンダーであり、元副官であり、同期であり気のいい友人の一人でもあるハーヴェイと少しの間の別れを告げ、シルビア用とされるフリゲート艦用のランディング・パッドを目指す。

ステーション侵入口に入ってしばらく、ランディング・パッドの目の前あたりまでは手動操船する必要があり、あくまで他人の船のため、傷を付けたくないから余計に慎重に操船をする。

というかコルベットしか乗ったことない俺が、いきなりフリゲートというでかい質量の船を、多少ながらも重力が発生させている超大質量のステーション構造内においてギリギリ(のように見えるが実際は結構余裕があることに後々気づいた)の幅の中、姿勢を安定させ真っすぐ飛ばすというのは本当に神経が削り落とされる仕事だった。


『お疲れ様です、ヤマト。あとはタマヨリに』

「おっけ、任せた」

『任された』


許可を出してしまえばそれまでの若葉ドライビングが嘘のような軽快さであっという間に着陸シークエンスを終えてバッチリきれいに着陸してしまう。

あとは、パッド周辺にある機器が、この船を固定する作業を待てばいいだけだ。


「んでー、シルビアの残骸はどうすればいい?」

『多分迎えが来るわー。アタシはここの鯖に残るからほっといてくれていいわよ』

「わかったわー。あ、そうだ。部屋のゴミ掃除、しといたから」

『知ってた……結構お宝貯めこんだんだけどなあ』

「ゴミしかなかったはずだが?」


何故か盛大に凹んでいるシルビアを後に、全ての作業を終え気密もかけられ安全に外に出られるようになった船外へと出る。

実際問題として、アンドロイド体の俺にとっては空気は必要ないわけだが。


「アンドロイド体がいかれたんだってー?アンダーソンから聞いたから回収しに来たよー!」


などと担架を担いでシルビアの残骸を回収しに来たネコミミ娘二人。

みたいなのが空気を必要としているわけだから当然、気密は必要になるわけだ。

茶っこい髪の毛と、そこから突き出るように尖って生えた耳を少し揺らしながら、文字通り猫のようにしなやかな動きで俺をすり抜けてかけていくネコミミたちの顔の横……つまりあるべきところに、あるべき耳がないように見える。


「は?」


え、(ガチっぽい)ネコミミ娘が何でここに?

しかし彼女たちの動きは素早く、重力を感じさせないその動き(0.3Gから元々無いようなものだが)であっという間に、シルビアだったような気がするその残骸を運び去ってしまっていた。


「やあヤマト。元気そうで何よりだ。フリゲートの乗り心地はどうだったかな?」

「ああ、3M。操作感がコルベットと違ってだいぶん重かったな、でも軽快っちゃ軽快だし悪くないね」

「だろう?」


マッチョマンらしい、表情筋まで十全に鍛え上げられたいい笑顔を向けてくる3Mの表情は、どこか誇らしげである。

もしかしたら、ヤハタ推しの系譜は彼から始まっているのかもしれない。


「あー、そういや。人種が違えば年齢って正確にわからなくなるもんだが。アンタ実年齢に比べてずいぶん若く見えるな?気苦労は普通の人より相当あるはずだが、今生身だろ?」

「ああ、知らんのか?アンドロイド体にフルダイブというか、保護カプセルに本体をぶち込んでいる間、ほとんど肉体の時間経過というか老化が止まるのだよ」

「は?」


文字通り、生物としてのほとんどすべての活動が「休眠」する保護カプセルの副次的な効能があったようだ。


ディスカバリー・パイロットの平均寿命は非常に短い。

それは、事故や戦死などで物理的に死んでしまうから当然であるのだが、パイロットを引退し3Mのように内勤へと業種転換した場合、地球人よりよっぽど長生きする羽目になる。

保護カプセル内で休眠状態にあるとき、老化がほとんど止まるというのもそうなのだが、内勤でも一度取得したアンドロイド体は返却する必要がないため、宇宙生活にありがちな肉体や細胞の変質や劣化も抑えられるから、なおさら寿命は延びるのだ。


「もちろん、新しいアンドロイド体を買う金を作るのはただの事務員じゃちと厳しいので、超長寿ってわけにはいかんけどな。生涯現役を嘯くパイロットがいるのも当然ってわけだ」

「はえー、そりゃ吃驚な副作用ですなあ。ところでさっきのネコミミは?」


正直、300年前よりは200年前のほうが、そして200年前より今のほうが地球人の平均寿命ってのは長い。

なので、系外技術で更に伸びる余地がありました!ときいても「そらそやろ」としか思わないってのはある……というかその手段がない方がよっぽど不自然と言える。


そんなことよりネコミミだ。


「ああ、アレか。あいつらは系外知的生命体種族のうちの一つで、オートマタ製造企業の社員たちだよ。呼び出したってわけじゃなくて、客先常駐でいてもらってるんだ」

「えぇ、最初からいたの?」

「基本的にパイロット区画にはいないからねえ」

「そりゃそうか」


色々と制限のある「政府」より、自由にお外に飛び立てる民間企業であるディスカバリーには、少数ながら様々な"有効的な"系外企業と取引していて、その技術者がネコミミたちのようにステーション内部にいたりすることもあるそうだ。

なので、ネコミミくらいで驚いてもらっては困る……なんて話をされたのも、研修のカリキュラムを全て終えたからなんだろうなとは思う。

地球全体として系外の勢力とあれこれするのは禁じられているが、私企業がその活動に必要な取引をするのは禁止事項には含まれていない……どころか成長を促すために資源や資金と垂れ流してでもそれをすることを奨励している節さえある。

一見してもしなくても矛盾しているのが見え見えであるのだが、「若人よ、逞しくあれ」的なそういうのがあるんだとおもう。


「話はアンダーソンから聞いてるみたいだから、まあ変なサプライズにならないのが残念だが、シルビアは予備のアンドロイド体にフルダイブしなおして君らを出迎えにブリーフィングルームに移動しているハズ。そろそろ向かってやってくれ」

「アイアイサ」


俺は3Mの前を辞し、ブリーフィングルームに向かうために踵を返す。


「ああ、それと」


ところで3Mが俺の背に向かって声をかけてくるので振り返る。


「ディスカバリーへようこそ。君を正規パイロットとして歓迎するよ!」

「コンゴトモヨロシク、3M」


お互い、ニカッと笑って別々の方向へ。

多分、3Mはフリゲート艦カサブランカのデータブロックに用があるんだろう――思えばあそこはヤバイ秘密の宝庫だった。

と思ってたら一言更に付け加えられた。


「あと、あのネコミミーズは二人ともオスだぞ」

「え、は?」


柔らかそうに突き出たパイオツがあり、グンバツなスタイルの可愛い笑顔が特徴的なあのネコミミ娘は、生物学上のオスに分類されてい・・・は?


「種族によっていろいろあるのだよ、色々な」

「えぇ……」


宇宙って、広いんだなあ。


……そんなこんなでブリーフィングルームに近づくと、扉は開けっ放しになっており――自動ドアのはずなんだが。ああ、壊されてる――声が漏れ聞こえてというか駄々洩れになっている。


「シルビア、あんた上官だがステーションの備品破壊しながら登場とかいい度胸だなオラァ!」

「ていうか無事だったのになんで情報くれないのよ!?」

「筋トレしたいんだが?」


騒がしい同期共の声だ。

多分、「サプラーイズ!」とかいいながらドア蹴り破って登場したんだろう、あのバカ(シルビア)は――目に浮かぶとしか言いようのない光景だ。


「おいっすオッツカレイ」


と言いながらブリーフィングルームに入室すると、全員が一斉に俺の方を見る。


「で、どういった経緯なんだ?」

「ああ」


ここで空気の読める系ジャパニーズである俺は、当然のようにでっち上げを口にする。


「ほら、シールドスクリーンを付け替えるためにシルビアの部屋にあったゴミを全部空気と一緒に宇宙空間に捨てただろ?だからこいつ、着る服がなかったんだわ」

「ああ、そういや罰ゲームの時に掃除しに来いって言われたから行ってみたら、コイツ全裸で寝てやがったな」

「うっそでしょハーヴェイ!?」


抗議するかのような声を上げたのはガラッティで、一方のシルビアは大爆笑している。


「軍人ならよくある光景で済むんだがな、船とかは特に」

「ここは軍じゃないんだけど!?」

「別にいいじゃない減るモンでもなしに」


一時期、男女平等って奴がフェミニストの思惑を超えて本来の平等に移行し、平等すぎたためにちょっと行き過ぎてしまった時代があったし、今でもそれを引きずっている。

一方の日本では、そういう欧米的な流行に鈍感すぎたためかその波に乗らず、今もまだ平等すぎたソレの感覚はなじめない――イタリアも日本同様、我が(パスタ)道を行く国である。


「まま、そんなわけで清く正しいジャパニーズとして、こいつを表に出すわけにゃいかなかったってだけさあ」

「ああ、ジャパニーズなら仕方ないな」

「そうね、アンタがジャパニーズでよかったわ、ヤマト」


ハーヴェイやラーヒズヤは納得をし、ガラッティに至っては感謝をし始める。

この辺りが国籍による文化の違いという奴である。


「さて、諸君。新人研修の完了おめでとさん!ようやくスタートラインね!」

「「「研修であれとかマジで先が思いやられるわ」」」


正直な感想、とどのつまりそこに行き着く。

舐めてたわけじゃない、死ぬほど苦労するとは思ってたし実際死ぬ以上の苦労として何とかここまで生き延びたのだ。

しかし、ここから先は本当の意味で、テメェの器量で稼いで行かなくてはならない。


「じゃ、報酬振り込んであるから。各自ウォレット確認するように」

「「「アイアイサ」」」


ところで、他のメンバーは兎も角俺には最大の難点があるということにお気づきだろうか。

そう、自前の船を失っているのである。

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