ナガレボシ2号と初仕事
果たして、失ったコルベットの心配は必要なかった。
というのもミッション完了してから2週間後、新造されたコルベットが新たに俺の手元にやってきたからだ。
「ルーキー研修中に大破して本体が死亡しなかったてパターンはあまりないんだけども、基本的にルーキーシップは壊れるもんだから、ルーキー時代の保証は手厚いのよ」
「なるほどなー、でもなー。ミッション前そのままの装備のコルベットってどーなんよ」
「それがルールだし?」
ようするに、これからソロでお仕事する可能性が高いというのに、攻撃性能より妨害とフリート補助に特化された武装のこの船に乗り続ける必要があるってことである。
最もラーヒズヤの艦だって偵察と諜報用だし、ハーヴェイの艦は中距離狙撃用であり、ヤハタ・スピリッツたるカチコミ戦法を活かせるのはガラッティの船くらいなものであるが。
いずれにせよ、コルベットでガチバトルはちょいと分が悪い。
アンドロイド体という人間の操作制度を超えた肉体に、オーバーロード・システムを併用しても多勢に無勢というのを覆すのは難しく、相応の危険を伴うものだ。
報酬は、ドルや円ではなく太陽系通貨――つまり、系外星系と交換レートが設定されている共通通貨であり、結局のところはドルベースの通貨でもある――で配布された。
研修終了後は、基本的に宇宙の住人として振舞うことになるため、地球上の通貨ではちょいと不便であるというのがその理由である。
元々ほとんどの食事や滞在費は福利厚生の一環で無料となっており――それらは報酬受け取り前の税金的な手数料で賄われる――のんびり生きるだけならば何の不便もないわけだ。
ついでにいうと、この金をドルか円に換えて、地球で暮らせば数年は遊んでいられる。
が、ミルキーウェイ銀河生活においてははした金に過ぎない。
通貨単位SED(太陽系ドル)は1000米ドルで1SEDである。
SEDを他の銀河勢力の通貨に両替するとこれまた手数料がかかるのだが、実はディスカバリー持ちにしてくれるのでそこはご安心。
例えば10,000SEDを握り締めて地球に帰還すれば、1千万ドル所持というソコソコな小金もちになれるわけだが、ミルキーウェイ銀河においては弾代程度の資産規模でしかないのである。
……この、格差よ。
ともかく、この数週間は俺も含めて全員が休暇に当てている――地球というか日本時代では考えられなかったことだ!
命を元手に大金を稼ぐという仕事とは元来そういうものであり、小説の中だけでしか知りえなかった"冒険者"のあるべき姿のうちの一つがこれかもしれない。
俺以外の同期たちは艦船を普通に使えるため、里帰り……といってもアンドロイド体にフルダイブすることでの地球帰還だが、をしていて、俺は毎日暇を持て余していたわけだが、これでいつでもお空を飛べるという寸法である。
そんなわけで、新造艦受領のため、シルビアと会話しているというわけだ。
「シルビアはそろそろ仕事とか行かなくていいのか?」
「アタシはフリーダムなんで……」
そこで目をそらされると心配しかないんだが。
ちなみに、火星ステーションに戻ってからも幾度となくシルビアに喧嘩を売っているのだが、目下連敗街道まっしぐらである。
当初はガラッティやハーヴェイからも「なんでコイツまだやりあおうとしてんの」って顔をされたし声もそうかけられた。
アンダーソンも白目を剥いていたが、なんのことはない。
負けっぱなしが嫌いなだけのわき役なんだ、俺は。
そもそもタマヨリでさえただのAIとしてではなく肉体がないだけのナマモノとして最初から見ていた俺にとっては、仮初の肉体を駆っているシルビアにいたっては完全に人と同等の存在にしか見えなく、故に勝てるまで負け続けるという不毛な山登りを可能にさせているのだ。
まあ、ここら辺自体は蛇足である。
「止む無くというか本来歓迎すべきなんだが2週間も休んでいると不安で仕方ないしやることなくて死にそうだったから俺は仕事行ってくる」
「これだから社畜は……」
「金稼いで系外行きたきゃ働くのが一番って奴だ」
「これだから社畜は……」
ちなみにこの2週間、俺は関係各所へ事あるごとに「船の完成まーだー?」と聞いて回っていた。
早く仕事したかったからである。
ちなみに"普通"なのは俺の同期たちの行動らしい。
お陰で、俺の周囲の人間からの評価は「これだから社畜は」で一致してしまっている。
「仕方ないじゃない、社畜としての生き方しか知らんのだ」
「もっと怠惰を知るべきね」
「それが将来の目標だな」
肝心カナメのセリフは互いに言わない――タマヨリも聞いているからだ。
"長女"としてのシルビアは、タマヨリのデンジャラスな性格をよーく把握しているのだ。
つまり、あのバカは最善を尽くしてしまうと知っているのだ。
船に乗り込み本日のフライトの準備を始める、とほぼ同時にダニエル・アンダーソンから通信が入ってきた。
「マジでもう仕事すんのかよ。昨日深夜までシルビアと殴り合ってただろうに」
「おう、もうシミュレータは飽きたしな」
「これだから社畜は……」
「ここ2週間マジで毎日のように言われるから知ってる」
炉に火を入れ、艦内コンピュータが起動をはじめ、艦内がにわかに騒がしくなってくる。
ステーションのサーバに入っていたタマヨリも、そろそろこちら側に移動してくるころだ。
「んー、そういやアンダーソン。やっぱりフルダイブ繰り返している3Mよか老けて見えるなあ。実際は多少ではあるものの3Mよか若いんだろ?」
「なんだ、知らんのか。これアンドロイド体だぞ」
「は?」
「言ったろ。人生一回じゃ短すぎるが二度目をやるにゃ苦行すぎるってよ。一回目が長くなる分には損はねえよ」
「じゃあ、そのフケヅラは?」
「元々だクソッタレが!」
通信を切られた。
「いったい何の用だったんだってばよ」
「ツッコミで忘れてた、この間お前にネタ知られたついでだ。仕事として墓参りに代わりに行っといてくれ。所在地の座標はタマヨリに送っとく」
「あー、月面基地へのデリバリーついでだし承った」
今日の仕事、月面基地へのデリバリーである。
「てなわけだネコミミ君。君らの船と比べるとしょっぼい船だが準備はいいかい?」
「もちろんさ、キミとシルビアの殴り合いは中々に楽しかったよ!」
あの日以来話す機会が幾度かあったスレンダーかつパイオツカイデーな綺麗なおねーちゃんことネコミミ種族の男である彼の名は、地球人ではまともに発音できないためネコミミ君と呼んでいる。
そして、ネコミミ族の男はみんなそんななのか?と不躾な質問をしてみたらすごいいい笑顔でこう答えられたのだ。
「ボクらの見た目におっぱいつければ地球じゃサイキョーって聞いて肉体改造してきたんだ。実際どうなんだい?」
である。
ああ、多分、おそらく、いや間違いなく、サイキョーなんじゃないかな?
ちなみにこのネコミミ族のメスはマッチョマン系の見た目らしい……メスは強し。
このネコミミ族たちのオスは戦闘ではなく営業や外交を得意としていて、メスがガチムチの戦闘種族という役割分担を担っている。
彼らの人当たりの良さはDNAレベルで刻み込まれていて、その見た目はやはり、とても……少なくとも地球の一部地域の住人に対しては"非常に効果的"なものだと推察できる。
例えば日本に棲んでいる我が友人に"彼"を引き合わせたら、下手をすると即成仏するのではないか、と思えるほどだ。
今地球にいる同期共にも仕事でではあるが地球に向かうとメッセージを送っておいた。
あっちでちょいと酒を飲みかわすのも悪かないだろう。
「ネーミングのワンパターンを怖れるな……パイロット、ヤマト・ナツキ"ナガレボシ"発艦します」
「了承しました、ヤマト。今後は堕ちないようにね」
「アイアイ!」
このコルベットにこれ以上大仰な名前は必要ないだろう。
でもこのコルベットにこの装備なら名前はこれだろうという先入観しかないからこれしかないのだ。
『さーてヤマト、今回はタクシー業に墓参り代行ですか。死ぬ思いはしなくて済みそうですねえ?』
「こんな仕事しか受けられないが、こんな仕事じゃ毎日頑張らにゃフリゲート買えねえんだ。サクサク行くぜ」
『これだから社畜は』
「ハッハッハ、この船は賑やかでいいねえ!」
オスもメスもないAIと、オスなのにメスみたいな見た目の乗客に、おっさんなのにビショウジョアンドロイドの俺の3人(?)を乗せたナガレボシが火星ステーションを飛び出していく。
ワープドライヴにジャンプドライヴを乗っけたフリゲート艦、ソイツを購入するまでこのデリバリーを続けるとしたら……残り365回!
え、マジで?と思ったが、まあ何とでもなるべと考え直す。
一度に複数の仕事を請けて、複数いっぺんに解決して、総数365回なら365日はかからないのである……多分!
精神的、脳みそ的な疲労は避けようがないが、肉体的な疲労はアンドロイド体には無縁の物。
下積み時代のパイロット稼業は、つくづく俺のような社畜向きにしか感じない。
やれるだけやってみようかと気合いを入れなおしてタマヨリに声をかけつつ、今日から始まる本格的なパイロット稼業にいそしむため、グラヴィティ・アクセラレータのスイッチをONにした。
本編完了、オッツオッツダルヴァ!




