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地球主人公、マイケル・メイソン・マイヤーズ

さて、話は少し変わるが『地球人は気違い種族』と銘打たれるきっかけとなった時期の話をすべき時が来た。

地球の各国政府が地球外生命体、というより太陽系外知的種族勢力たちとのコンタクトを得て、混乱しながら今後を模索していたころ、必ず来るであろう未来というのは流石に見えていた。


太陽系は明らかに遅れており、太陽系内だけで追いつくなんて夢のまた夢。

系外の技術を仕入れようにも、こちらから輸出できるような技術はなく、太陽系には汎用素材は豊富ではあるが特殊でお高い素材はない。

汎用素材(水など)はいくらでも売れるが、それは地球人にも必要なものであり、枯渇させるわけにはいかなかったが、それらを売らねば何もできないに等しいのだ。

その他、鉱物資源やエネルギー資源も同様であり、どうにかして外貨獲得を安定化させなければならなかった。


他の国も色々やっているはずだが、賢くもあくどい地球における大国のうちの一つ、日本がやったことのうちの一つが、株式会社ディスカバリーの設立である。

政府として他の国々と統合して『地球連邦政府』的なものを作って宇宙に進出するのは現段階では禁じられている。

なので詭弁を弄して、民間会社で世界中からそれっぽい人材を獲得して税金という形で外貨を獲得する手法を考案したのだ。


投入する資金源は天文学的と言われる数字にまで積みあがったアメリカ国債……を投入する前に、いくらでもまた買い増しするからという無茶な材料をもって説得する期間があったそうだが、それはまた別のお話なので割愛する。

それをもって株式会社ディスカバリーを設立し国籍問わず募集という形式をとり――建前は兎も角前述の経緯があるので、アメリカ国籍を持つ上級社員が相当数いる――、民間企業であるのでどう運営しようと税金さえ沢山納めてくれれば政府はノータッチでおじゃるという面の皮の厚さを発揮し――実際そうでないと宇宙から潰されるため――、スタートアップ企業としては馬鹿みたいな額の初期資金をもって宇宙で活動するための基盤や宇宙船を用意し、太陽系外に飛び立った初期パイロットのうちの一人に、マイケル・メイソン・マイヤーズがいた。


太陽系に棲む人類が持っている武器のうちの一つは、第四世代VR……統合拡張システムによるフルダイブである。

地球人が気違いと言われる理由のうちの一つとして、パイロット・シートに座ったパイロットが、宇宙船にフルダイブして操船するというところにあったのだ。

マイケル・メイソン・マイヤーズもとい3Mもまた、他のパイロットたちと同じように宇宙船にフルダイブをし、ミルキーウェイ銀河の各地に点在している雑用業務から傭兵稼業まで色々こなしたそうだが、他の地球人パイロットと違うものも一つだけ持っていた。

それがダニエル・アンダーソン謹製の特別製AIである。


そもそも生身を乗っけて宇宙船にフルダイブしたところで宇宙船が破壊されれば生身は死ぬ。

フルダイブして拡張されたナカノヒトの性能をフルに発揮してしまえば、パイロット・シートに乗っているだけのナカノヒトは当然その慣性による圧力に耐えきれずに死ぬ。

もちろんフルに発揮しなくとも、通常の生命体の生身とタイマンする程度なら優勢なので関係はないのだが。


それだけではなく、サーバ上のAIと同居しながらという点を加えると気違いっぷりに拍車がかかってくる。

自己成長型AIが成長しちゃったという人類的な意味の失敗というのは、SFにおいては定番である。

漏れなく過去のミルキーウェイ銀河の知的種族も似たような失敗を犯していて、自己成長型AIというのは便利ではあるものの敵になりうる微妙な存在である。

それをフルダイブをして0と1の集合体と化したナカノヒトとAIが同居しながら宇宙を飛び回るという危険が危ないデンジャラスなコーションを当たり前のようにやっている地球人にビビるのは当然の帰結である。


もちろん、初期も初期な高性能自己成長型AIを搭載した地球人パイロット組に様々な問題が降りかかることになったわけだが、多少の問題――例えばAIがナカノヒトをハッキングしちゃったとか――が起こったところで多勢に無勢もいいところなので大混乱となるほどではない。

地球に棲む地球人の数は中々の数字になるわけだが、所詮は1惑星に過ぎない勢力である――総人口であれ居住惑星数であれ、銀河規模で見てしまうと絶滅危惧種の枠の内に過ぎない。

更にその中のほんのヒトツマミの社畜が銀河のお外でお遊戯会しているだけなので、外に影響を及ぼすほどではない――故に気違い扱いはされるが咎められるほどではなかった。


そんな中、3Mが他の気違いたちと違うもの――ダニエル・アンダーソン謹製の特別製AIを持っていたことがどんな影響を及ぼしたかというと、彼は最後まで生き残り、AIはSF的な成長を遂げることは無かったのである。

彼の持っていたAIの何が特別かというと――ここで前の話に戻る――、彼のAIの元になったのがデータと化したアリス・ケリーそのものであるという点にあるのだ。


「アリスは一通り量子コンピュータの世界を楽しんだ……つまり当初の目的通りAI開発に必要なものを探る旅をしたわけだが、やはり人類より圧倒的に早い速度で思考し試行できる環境に精神が耐えきれなかったんだ。しかし自死もできないとくりゃやることは一つ。自身をアーカイヴ化して休眠することくらいだった。クソッタレな事故から、うっかり量子世界で完全なヒト同等の思考と成長を持たせることの欠点のうちの一つが判明しちまったというワケだ」


ダニエル・アンダーソンは、そう俺に語る……では、彼はどうしたか?

休眠状態となったアリス・ケリーが持つコードを解析し、不要な部分は排除しつつ、必要な要素を付け加えることによってとりあえずの解決という方式をとった。

それが量子CPUの処理を制限することによって、平時は地球人と同じ時間間隔で処理させるという力業である。


「AIっていうのは、まあエンジニアの俺たち自身がそうなんだから当然なわけだがとにかく効率主義だ。常に最大効率を求めちまう"知性体"だ。だから性能のいい演算装置(脳みそ)があるならそれを常に最大効率で扱う。だけど俺ら人間はそうやって生き続けられるようにはできちゃいない。"アリスの子供たち(自己成長型AI)"に欠けていたものは、怠惰だった」

「社畜って非効率な割には怠惰と縁がねえので俺はAIになりたいわ」


タマヨリには聞かせられない発言である――アイツのことだから気を利かせてネットワークに俺を閉じ込めとかし始めそうなのである。


高性能な量子CPUを人類の脳みそ並みの処理速度から量子CPUらしい速度まで自在に可変させるという処理は複雑で、人類には正直手を持て余すという状態であったのだが、結局己の身を焦がしながら宇宙で活躍するパイロットたちが獲得した外貨のうちから、系外種族の技術を輸入することでそれを実現させることができた。

その間に"破棄"することになった3Mの相棒たるAIの数は複数に及び――という話をするところでは、ダニエルの死にたそうな表情が全てを表している――、ともかく3Mの戦いとダニエルの忍耐は実を結ぶことになった。


そうなってくると俄然注目されたのは、ダニエルのAIを搭載した少数のパイロット――ここでは3Mしかしていないが何人かはいるそうだ――の能力である。

系外種族の上層部たちは当然、3M達が何をしているかなんて把握していたし、そこが理解できているならば『100%を発揮していない』ということもわかっていた。

地球人からすれば達観しすぎて悟りを啓き、浄土への道が確保されているような懐の広さを持っている彼らが次に地球人に対して提案したのは、ナカノヒトの生身を保護する方策であった。


「それが保護カプセルってわけだ。系外の奴らはクローンつくって業務に従事させたり、ダークマター通信で遠隔操作したり、最低限の自立行動ができるAIに随伴護衛させたりとかはするが、ナカノヒトが直接の危険に晒されるような状態を作り出すのは避ける傾向にある。だからそんなものは、彼らにとって通常必要がなかったってわけだな。掘り起こした過去の技術が元になっているそうだ」

「はえー、俺らにとっては未来の超技術も彼らにとっては過去の遺物かいな」


俺の呆けた返答には、流石のダニエルも苦笑い。

俺は数多ある物語で活躍する主人公たちのように、物分かりがよろしいわけではない……わからんものはわからんままで別に構わん。俺は俺の生活ができればそれでいい。


もちろん、生身でコックピットに乗り込み生身で戦うことにこだわりを見せる種族だっている――そしてそういう種族にとって、ディスカバリーで使われているタイプの保護カプセルは必要としていない。

俺たちが必要としたのは生身を慣性から保護してくれるものであり、戦闘民族が必要とするのは、艦船が爆発しても生身が木っ端みじんにならないように護ってくれるものであるからだ――運よく生き残れたなら、また戦えるようにである。


「しかしあれだな、マジで太陽系の外側の技術は半端ねえな?」

「ああ、人生1回こっきりじゃ何もできないに等しいぜ。こんなクソみたいな人生2回もやりたくねえのが悩みどころだ」

「いえてるわ」


追いつくなんて無理だから買っちまえと結論付けた先人にマジ感謝である。

科学者研究者開発者なんかは追いつきたいって思うだろうしその努力を日々続けているのは知っているが、俺みたいなエンドユーザーが彼らの我儘に付き合う必要も意味もないのだから。


「で、アンドロイド体は船外活動用ってことで、オートマタ製造企業から直接売り込みを受けて、よく考えてみたらカプセル飛び出して生身に宇宙服着せて船外活動なんて非効率もいいところだったから請けたってわけだ」

「ほえー」


もう、はえーとかほえーとかそういう情けない言葉しか出せないが、現在ビショウジョ・ボデーにフルダイブ中であるので、おっさん体で声を出すより様になっているのが辛い。

ともあれ、若かりし日(といってもアラサー時分)の3Mが宇宙で無双を行い、その時の稼ぎと名声と実績が、今のディスカバリーを形成しているというわけだ。


「何だよあのお茶目マッチョマン、主人公じゃねえか」

「少なくとも、俺やヤマトが地球人の主人公じゃねえことだけは確かだな」

「俺は確実に木っ端パイロットだからなあ、名わき役ですらねえわ」

「じゃ、俺は主人公をサポートする優秀なエンジニアだな、文字通りの俺だから歩めるのはクソみたいな人生だが悪かねえ。出番だってそこそこある。ギャランティだって十分貰えるはずだ」


そうダニエルはニヒルに笑う。

正直言って周囲がすごすぎて嫉妬心もわかないというか、俺にとって俺の周囲はいつだって俺より優秀であったわけなので、己が劣っているという理由で誰かと嫉妬したことなんて一度もないわけだが。

俺がニヒルに笑ってもギャグにしかならんのでそうはしない。


俺ができるのは、眉根を下げてそんなもんよねと受け入れることくらいだ。

ここら辺をコンパクトかつ分かりやすくまとめる技量が、小豆を練り上げた知性体たる私にはまだなかった。

なかったが、ぶん投げねば完結できるのに餡子の意思を発揮してぶん投げるのみなのである。

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