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古典的日本人小市民の抱く夢

「そうか、そりゃあよかった。よかったといっていいかどうかは微妙なところだが」

「そうか、そりゃあよかった。何がとは言わないが」


イマイチどころかイマヒャク以上に容量を得ないため、若干煽り気味の返答をせざるを得ないのが困ったところだ。

俺の数百倍は図太い良い性格をしているダニエル・アンダーソンを煽り倒しても、効果がないのが余計に困る。


「言わないんじゃなくて知らねえだけだろ」

「その通りでございます」


ほらな?


ダニエルと俺が通信している間も、もちろん宇宙空間での作戦行動は継続中であり、帰還シークエンスへと移行しつつある。

元フリート副官、現フリート・コマンダーであるハーヴェイからシルビアについての問い合わせが来たため、アンダーソンに確認をとりつつ「ステーションのエロイ人が言うには問題ない」と返答する。


ハーヴェイからしても100以上の疑問はあるはずだが、彼は元軍人でありこの会社におけるフリート行動は文字通り軍属的であるため、「()()()」というワンクッションが挟まれば効果は絶大だ。

もちろん存在しない「偉い人」の言葉を捏造してしまうとぶち殺されても文句は言えなくなるため注意が必要だ。

何しろ、宇宙では簡単に誰でも死んでしまえるため、虚偽報告は厳禁である――誤認であるならば話は別であり、そういう時は概ねAIから訂正と補助が入るので、少なくともディスカバリー社において誤報告は滅多に起こらない。


ポンコツ・コルベットからフリゲートに乗り換え、シールドスクリーンの換装を行ったところでタマヨリが合流したため、レーザータレットで融解した外部装甲や、若干ダメージが入っている内部構造(HULL)などの補修は、AI制御による修理ドローンで行うことにした。

そいつが完了し次第、火星ステーションに向けて出発することになる。


俺の本体(保護カプセル)はガラッティが回収してくれていて、そいつもドローン経由でフリゲートに移管するため、ぶっちゃけ俺本人がやるべきことは無い。

そして、先ほどから送られ続けてきている膨大なフリゲート艦に蓄えられているデータの中から、さらに興味深いものをタマヨリがピックアップしてきていて……まあこいつも暇なんだろうな、さっきの勝利の余韻もあるだろうし。


「で、この"アリス・ケリー"って人とアンダーソンは同僚だったんだな?」

「ああ、つうか駄々洩れじゃねえか」

「俺は悪くねえ、テンションあがりきったタマヨリが悪いんだ」

「ならしゃーないわ」


こいつも大概タマヨリ(末娘)には甘い。


それはそうと、興味深いっていうデータのうちの一つがソレだ。

アリス・ケリーとダニエル・アンダーソンのコンビが量子コンピュータを基幹とする超高性能AIを開発に成功した……という論文が発表されたのが、俺が花粉によるアレルギー反応で長そでのシャツの裾で鼻水をぬぐっていた8歳の頃。

その2年後にディスカバリー社が設立されるのだが、アンダーソンは立ち上げメンバーとなっている。

しかしそこにアリス・ケリーはいないし、AI開発のニュース以降、彼女の存在自体が表に出ることは無かった。


「正直、おっさんのフラれ話にあんまり興味ないんだが」

「違う、そうじゃない」


もちろん、アンダーソンとケリー女史のAIよりも以前からAI開発ってのはヒートアップし続けていて、タマヨリたちと比較すると可哀そうになってしまうものの、優秀なAIは次から次へと開発されていたのは言うまでもない。

しかし、アンダーソンたちのAIは頭一つどころかみっつかよっつほど抜けていたのは事実だ……そう30年以上前の話だ。


「例の論文のAIがタマヨリの元になったのか?」

「いや、論文中のソレは地球文明向けのモンキーモデルなんだ。あの時点ですでにタマヨリやサンフラワー以上のモノを持つことが可能だった……」

「マジかよ」


ダニエル・アンダーソンの言葉に安易に返答するが、彼の『モンキーモデル』というセリフには苦々しいような、何かそういうネガティヴな感情が込められていることにも気づいている。


しかし驚くべきはソレだけではなく、タマヨリやシルビアのAI『サンフラワー』ですら30年前のAIの性能にはある意味で勝てていないらしい。

どこが勝ててないのかと聞いても言いにくそうにしている、はぐらかすという表現は正しくないだろう……どういったものかと思案している様相だ。


『……帰還シークエンスに入る。ヤマト、通信中なのはわかっているが遅れるなよ?』

「オーケーボス。クソ御立派なフリゲート乗っといて出遅れなんて笑えねーからな。そこだけはきっちりやるわ」


艦船指定プライベート通信中ってこと自体は、コマンダーのハーヴェイには伝わっている……そのためこんな風にツッコミがはいる。


宇宙空間でも加減速の反応速度っていうのは、その艦船の総質量に反比例する。

でかい船ほど加速にも減速にも時間がかかるもんだが、その欠点はグラヴィティ・アクセラレータを使う上では全く存在しない。

こいつは機体前面に発生させた重力点に向かって自由落下をし続けることによって加速するという機能を持っているからである。

それゆえ、VR上での練習航海の時のように加速や減速のタイミングが一瞬でも遅れたり、早すぎたりするととんでもないことになるってわけだ。


そして、フリート内で一番でかい艦船を操る羽目になった俺が、遅れたり早すぎたりすると……ものすごく格好が悪いってことでもある。

もともと格好のいい中年オヤジではないものの、心は今でも12歳のガキンチョ風味……格好が悪いよりはいい方が絶対に楽しいと確信している。


タイミング併せはフリート・コマンダーの指示もあるが、AIサポートだって受けられる。

練習航海は完全手動でやってたが、ここでは余計な心配をする必要はない。


「おし、タマヨリも頼むな?」

『ウェーイ・ウェーイ・サー!』

「なんだそのノリ……」


「さーてダニエル。これから数日間はヒマになるからお喋りタイムと行こうぜ!」

「ハッ、嫌だね。俺だって寝たい」

「いいじゃねえか、アンタはそっちで酒飲み放題なんだ。俺だって酒飲みてえよ!」


別に酒が好きってわけじゃないが、丸一か月近く娯楽もクソもない宇宙空間(大好物)を飛び回り続けていると、あまり好きじゃない(粗食)ものでも恋しくなったりするものだ。

でかめのミッションを一つこなしたディスカバリー社員は、1か月から数か月程度休暇代わりに遊びまわるなんてこともカリキュラム中で聞いたりしたが、その気持ちはよくわかるってもんだ。


飛びたいときに飛んで、気が向かないときはやらない……会社員なのに会社員っぽくはないが、宇宙においてモチベーションってのはとても大事なものらしい。

まあ、俺は数日休んだらまた宇宙に飛び出してそうな気はするが。

そういう意味では、読むだけだと不思議で仕方がなかった、大昔から続く地球人転生物のファンタジー系ノベルで、日々社畜が如く馬車馬のように働き続ける転生ボウケンシャ達の気持ちがようやく理解できつつあるということだ。


理想は、でかい金稼いだらそれ尽きるまで遊んで、金がなくなったらまた働けばいいんだよな……命張る仕事してるんならなおさらで、実際そうやってるディスカバリー社員は多い。

でも俺にはそれができそうにない……哀しいことに、DNAレベルで社畜なんだね。

働いて働いて働きまくって生き延びて、でかい船買って気に入った武装でハリネズミみたいになって、内部だって趣味全開で好きなもん好きなだけ配置して、めんどくさくなってロクに使わず……そして宇宙をとにかく飛び回りたい。

40にリーチがかかった今の俺の、しょっぱめの夢がこれ――どうだ羨ましいか?そうか、羨ましくねえかそりゃ仕方ねえ。

あー確かにしょっぱすぎるかもしれない、夢のマイホームくらいの価値観じゃねえか……価格の桁が違うけどさ。


そんなわけで、俺がそうであるように日々あくせくと宇宙を飛び回るディスカバリー社員のほうが割合的には多い……とくに入社して日が浅いパイロットはみなそうだろう。

ベテランと呼ばれるような一握りの――そこまで生き延びてかつそれでも宇宙にしがみつく人間はそこまで多くないそうだ――人たちの中でも日々社畜ってるパイロットも実際にいるそうだ。

ウォレットの数字が増えていくことに喜びを感じる人種なのだろう。


「どうしたヤマト、クソでもしたくなったか?」

「アンドロイド体はクソもシッコも出さねえし出せねえ。いや出そうと思えば出るのかこれ?」

「出るな、偽クソだが」

「マジか」


どうでもいい会話だって余裕をもって挟めちゃう、脳の処理能力を向上させるオーバーロードプログラムはいいものだ。

思えば使い始めの頃は一瞬でオーバーヒートしかけてたが、今では常時……なんてできるわけねえだろクソがとセリフ・ツッコミ入れちゃうがこまめにオンオフすれば結構イイかんじに使えるようになったのだ。

などと思いながら、ARに相変わらず表示されているタマヨリからのピックアップデータを認識しつつアンダーソンとの会話を再開する。


「で、シルビア・アリス・ケリーとアンタの元相棒との関係は?」

「あのタコ、そんな情報艦内に保存したままだったのかよ」


映像通信内のアンダーソンは文字通り頭抱えている。

この場合、知ってしまったことを隠しておく方が後々面倒になるので、どんなクリティカルっぽいネタでもこっちから喋ってしまったほうがいい。

例え、野暮すぎるネタだろうが厄すぎるネタだろうが、である。


「おいちゃんもしかして命の危機ですかね?」

「別に喋ったら組織的にぶっ殺すっていうネタでもねえよ、俺の判断で、コレを地球人に利用されたくなかっただけだ」

「おお、怖い怖い」


茶化して返答してみたものの、相当な厄ネタだったらしい。

ステーションに帰るまでがホンペンペン。

本編が終わったら蛇足(登場人物リストと感想戦たるあとがき)をぶち込んでお仕舞という予定です。


文字数はひりだし始め想定の2倍くらいになってますねぇ(トイレに座り込み頭を抱えながら

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