ホラーより怖いマッチョ
お久しぶりです、仕事は相変わらず糞忙しいです。
このお話から終章となります。
「うーん、では。あとはタマヨリ次第ってことですかねえ?」
「「せやな」」
ずいぶんとのんびりとした雰囲気になってしまったが、それは俺とシルビアの決戦……つまりわき役たちの出番が終わったからそうなってるだけで、実のところこの場の主役はタマヨリとサンフラワーというAI達なのだ。
そんなわけで、各AIを相棒とする俺とシルビアがハモりつつ肯定を示す。
「う、うーん。実のところドサクサに紛れて全部解決とか……」
「ねえな」
うん、それだけはないわ。
脇役バトルで解決してたら世の中主人公なんて必要としないからな。
なんてやり取りを暫く続けることをなったものの、ようやく心を決めたのか「ウオオオオオオオ!」とかいうAIではあるものの0歳女児にふさわしくない雄たけびを上げながら、姉ちゃんが待ち構える防衛プロトコルの砦に突貫していった。
「……にしてもずいぶん感情豊かに育ってんじゃない」
「最初からあんなだったような気もするが」
思い返せばもうちょっと融通が利かないというか、人間味は今のほうがより豊かというか過剰なような気がする。
が、フリーダムすぎるのは今とさほど変わらんので、俺と出会って以降の変化という意味ではさほど実感はない。
「正直言うと、AIはもうちょっとコンピュータっぽい方が好みだ」
「今からでも矯正できるんじゃね?」
「そういうのはまた話が別なんだよなあ」
以前に申し上げたかどうかは覚えちゃいないが、タマヨリはAIではあるものの、俺はタマヨリのことを機械だとかプログラムであるとはっきり割り切っていない。
というか、寧ろ知性のある生命体扱いすらしているため、強制的に矯正するみたいな手段を取ろうとは思っていない。
「そういう変な奴、地球上のどこにでも稀によくいるよねえ」
「レアなのかコモンなのかはっきりして欲しいんだが?」
"類稀なる者"的な意味ならばラーヒズヤが相応しいし、"特別な者"という意味ならばシルビアが相応しいだろう。
ハーヴェイは?あいつは……苦労人かな――もちろん彼の実力は十全に認めているし、リスペクトもしている。
まあレアかつコモンとかいう意味で、その称号が相応しいのは納豆姫よか俺なのかもしれないが。
「スペシャル・ワンって意味なら確かに、アタシはスペシャル・ワンねえ」
「自分でいうか?」
「事実だし」
事実だなあ、と納得はできる。
コイツが地球文明で手を出せる距離に資源惑星があるのを確定させたのは、今から6年前の2216年。
コイツは20歳で入社してるから、入社後3年でそれを成し遂げたことになる。
例えば俺がこのカリキュラム――生きて帰るのを残すのみだが――を終えて、2年半で同じことを成せるかと聞かれると正直自信はない。
ぶっちゃけ星系外文明圏までジャンプして、そこで活動して小銭を稼ぐ方が難易度は低いし、9割のディスカバリー・パイロットはそうしている。
太陽系外延のろくに太陽光が届かない暗く、そしてとてつもなくだだっ広い空間の中から、地球人が欲しがりそうでなおかつ利用できそうな位置に、利用できる資源のある星を見つける難易度がどれほど高いか!
それがわかってるからこそ大半のパイロットは星系外に出るし、それでも抗いたいパイロットは心が折れるまでこの辺で活動し、限界を悟ったら系外に出るんだろうと思う。
といっても、俺みたいなド新人はその割合の中に入っていない。
ジャンプドライヴ搭載艦はこの戦闘機じみた艦船である"コルベット"には存在しないので、そもそも太陽圏外で活動するようにはできていないからだ。
「タマヨリが懐いてるんだ、近々っていうかもうすぐスペシャル・ワンの意味は分かるでしょ」
「実は宇宙人でしたとか言われても困るな、実在するのはディスカバリー社員なら知っている事実だ」
「「HAHAHA」」
そうやって二人で乾いたジョークを言いあっていたわけだが、実際の所俺の視界に写る赤い"でんじゃー"なインジケータがとてもうざったく、これ以上この空間にいると、カプセルまで叩き戻される恐れがある。
「とりあえずアンドロイド体まで戻っていいかね、最初は兎も角、もうあの姉妹のじゃれ合いに手を出すのは無粋すぎるし」
「タイマン勝負してるわけじゃないみたいだけど、まあそーね。かかってこいとはいったけど、負けて何かあるなんて言ってないし、何度でも立ち上がればいいし」
そういや、同期共のAIもタマヨリのサポートしてるんだったな。
頑張ってゾンビ・アタックしてるっぽいけど、アンダーソン製か否かで結構地力の差があるように思えるから、やっぱりタマヨリ自身がなんとかするしかないだろう。
「アイツの"1回だけ"は無限回だったりするからな、ペナルティがあるかどうかなんてハナから気にしちゃいねえだろ」
「oh......」
シルビアの、「そういやそうだったわ」みたいな顔を見届けて、俺はテッケン級フリゲート艦のコックピットに戻ってきた。
一応権限周りを確認してみると、艦長権限(仮)が付与されていて、メイン・量子サーバ以外のほとんどの操作がアンロックされていることがわかる。
量子サーバの権限はどこの艦でも同じなのだが、基本的にAIが握っていることになっている。
何故ならば、そこが艦長の相棒たるAIの住居だから……である。
「オイスオイスー、おっすオラヤマト。シルビアぶっ飛ばしてきたぜ」
フリート・コマンダーの権限は、この艦が戦闘不能状態になった時点でハーヴェイに移っているが、この艦がフリートからキックされたわけではないので通信するだけなら簡単だ。
「あ、あれ?シルビアのAIを制圧するんじゃなかったっけ?」
「それはタマヨリの仕事。俺のは余興?」
「「「余興……」」」
実際俺がシルビアに勝てなかったところで何かあるわけじゃないので、余興だ。
事実アイツを打倒した俺自身、あいつとやりあった意味がまるで分っていない。
何故くっそ疲れているあの状況でシルビアとガチンコバトルしなきゃいけないんだよ、余計疲れるだろとしか言いようがない。
「つーかうちの子、だいぶ泣き入ってるんだけど?」
そういうガラッティの言葉にほかのメンツも同意の言葉を繋げてくる。
「タマヨリは無駄に元気だぞ。多分今もよくわからん雄たけびあげてるはずだ」
「流石ヤマトの相棒だな、ヤマト並みにしつこいぜ」
「うっせ」
ただ単に、今負けることは問題ないが、負けたままなのが嫌なだけだ。
「で、シルビアは結局どこにいるんだ?」
「わからんが、くたばったわけじゃないようだし、拾えとも探せとも言われてねえ。今やるべきなのはシールドスクリーンの補修くらいだな」
「了解、手伝おう」
ヒヨコAI軍団が鼻水たらし泣きわめき散らしながらサンフラワーにボコられ続けているところ悪いが、結果――勝つまで続けろという意味――を待っている暇なんてないし、そのあいだにやれることはやるべきだ。
ハーヴェイは海賊団の唯一の生き残りであるパイロットを拘束している状態で手伝えないし、ガラッティは一身上の都合――シルビアに課せられた罰ゲームの服装――で人前に姿をさらしたくない状態……。
「ガラッティ、お前もう着替えていいんじゃねえか?今なら余裕あるし」
「言われてみたらそうだったわ……メイクも落とさなきゃいけないし、ちょっと時間かかるけど」
「いいんじゃね、ハーヴェイもいるし」
大昔から連綿と受け継がれ続けてきたと言われる、伝説かつ現役のタカラヅカ・ファッションから脱皮するのは流石に時間かかるだろうけど、そこまで嫌がることかね?と思わんでもないが、嫌なもんは嫌なんだろうし仕方ないだろう。
あれも好きなやつはすげえ嵌るんだが、見る分にはよくても自分がなると言われると色々あるんだろう。
まあ、こっそりガラッティのタカラヅカ・ファッションをスクショで撮っていて、こっそりと火星ステーションの熱狂的タカラヅカファンの日本人スタッフにダークマター通信で渡したら、鼻血噴いてた。
そのスタッフはいい年ぶっこいたおばちゃんなのだがそれはもう大騒ぎで、危うく問題になりかけたがそれはまた別の話なのでいいだろう。
ともかく彼女曰く、ガラッティのソレは「反則」らしい……宇宙に出ていて長らくご無沙汰しているため刺激が強すぎたようだ。
実際身長があり、すらっとした体形で足が長く、ほっといてもキレのある目鼻立ちを、ガッチガチのタカラヅカ・ファッションとメイクで更に高みへと登らせてしまうと、それはもう「反則」としか言いようがないとは思う。
"本物のタカラヅカ"の人々も実際凄まじい格好の良さを誇っているが、その人たちが目指しているものを最初から持っている人種が、更にそれを突き詰めているのだから始末に負えないというもんだ。
などという返答を返したら、タカラヅカ理論を延々と……そして嬉々として語り始めて無駄な苦労も負うことになった。
俺自身現地まで見に行ったのは一度だけなんだが、まあ見るという実体験は何でも一度はやっておくといいと思う。
「来たぞ、まずは何をすればいい?」
「うおっ、ラーヒズヤか。お前も着替えろよ」
真っ赤なビキニ姿でやってきたのがラーヒズヤ。
俺と同じようにコックピットのシールドスクリーンにできた隙間……に入ろうとして、思いっきり眉根を下げたしょんぼりとした表情をこちらに向けてくる。
「入れない……」
「わかってるよ、艦長権限でハッチ開けるからそっちから入ってくれ」
小柄な俺のアンドロイド・ボディと違って、ほとんど何も隠す気がないようなデザインの女物のビキニ(サイズ感は女物とはいえないが)を着ている彼はどうやってもあの隙間を通ることなんてできないだろう。
それにしても、バケモノ染みたマッチョマンが真っ赤なビキニ来て、宇宙船のシールドスクリーンの陰からぬっとあらわれると、下手なホラーよりよっぽどおっかない。
「生身で宇宙空間に出れば人は死ぬ」という常識をきっちり持ち合わせているからこそ、余計に怖い。
ガラッティの服装を何にするか実は決めてなかったので、微妙に悩みました。
マッチョどもは全裸だろうがなんだろうが構わねえと思いましたが、彼女を薄着にすることに意味を見出せなかったので、逆にメイク込みでがっつり着込ませる方向に。
宝塚はガキのころカーチャンとその職場の愉快な仲間たち(宝塚ガチ勢)に引きずられるように一度連れていかれたことがあります。




