言うことを聞かないAIと、俺
さて、有線接続をすればフリートメンバーである俺は、一時的にフリゲート艦のシステムネットワークの中に存在できることになる。
そうすれば、俺の相棒たるタマヨリにも、システムの入り口をくぐる権限が付与されることになる。
そして、ネットワークの入り口に俺が入り込めるのであれば、I.E.S.という柔軟性の塊みたいなシステムを使って、俺自身がカサブランカのネットワーク内にフルダイブをすることが可能になる。
「というわけで、ヤマト……イッキマース!」
『ウェーイ!』
緊張感皆無なのが俺たちの特徴だとでもいえばいいのだろうか。
ともかく、フルダイブしてアンドロイド体に入り込んでいるのに、そこからさらにフルダイブしてカサブランカのネットワークに入り込めるのか?と問われるなら、ともかくそれは「イエス、アイキャン!」なのだ。
俺や俺たち――そして陰謀論好き以外のほぼ全ての地球人――は、フルダイブを軽く(便利なもの程度として)考えているが、凡そ俺たちの考えが及ばないおっそろしい何かなのかもしれない。
「タマヨリは、おるな」
「タマヨリお手製のめっちゃ美少女モデルだというのに、その塩反応はなんなんです?」
「そもそもアバター作る意味、ある?」
「ああん、酷い!」
なんていう会話をしているが、ネットワーク内部のアバターってのはだいたいご本人様と同一になるわけだが、俺の場合は体格が違い過ぎる本体とアンドロイド体の二つがあり、アンドロイド体での体の動きに慣れさせるため、現在は美少女化したものを使用していて、あんまり人のことを笑えない状態だ。
ともかく、実体というものがないAIにとってアバターは必須ではないというか必要ないのであるが、今のタマヨリは中学生くらいの見た目の少女の姿であり、生まれて半年くらいの生命体として見れば成長度合いは凄まじいものがあるが、実人格の成長度合いという観点で見ると、相応の姿なのかもしれない――いや彼女のじゃじゃ馬っぷりを考えればもっと見た目上の年齢を下げるべきか。
俺のアンドロイド体は宇宙空間で動き回るために、最初ロングヘアだったがショートボブまで切ったわけだが、タマヨリみたいなネットワークアバターならばその必要はないとばかりのロングヘアである。
「で……」
「ですねえ……」
凄まじい物量の防衛機構が俺たちの目の前に展開されている。
恐らく俺とタマヨリでは見えているもの自体は違う――この辺りは個々人が"ソレ"をどう認識するかによって変わるものらしく、俺にとっては砦に配置された大量の兵器群として見えていて、タマヨリからすれば、単にクッソ大量の各種防衛プロトコルとして見えているハズ――わけだが、おっそろしく守りが硬いという認識だけは一致する。
「お前、コレと毎日遊びまわってたのか?」
「そうですよ。慣れるまでは秒毎に10万回は死ねます」
こと量子AI同士のハッキング・バトルとなると、当然ながら人間の出る幕なんてほとんどない。
そもそも時間単位あたりの処理能力が違い過ぎるのだから当然なわけだが、俺が内部にフルダイブするならば、また話は変わってくる。
つまり、艦の外にいるメンバーとそのAIが、俺自身の存在を誘導ビーコンとして外から干渉できるようになるからだ。
成長に成長を重ねたAI大将軍・サンフラワーの防衛システムを突破するために俺がケツから無理やり捻りだした作戦はコレ……ヒトとAIを複数同時に運用した物量作戦。
なんて言ったところで、俺が直接戦地で銃や剣を振り回すわけにはいかない――消し飛ばされてしまえば誘導ビーコンとしての役目すら果たせなくなる――俺が果たすべき役割はそう多くない。
ヒトとして攻勢プロトコルを俺の元に送り込むのはラーヒズヤやハーヴェイ達であり、AIとして主に攻撃を担当するのはタマヨリで、フリートメンバーのAI達はタマヨリのサポートを担当する。
ただし以前にも申し上げました通り、現実世界の警戒と監視は継続する必要があるため、ガラッティは引き続きこちらの作戦には参加しない。
「じゃ、行ってきますね?」
「おう、今回は共同作戦だが……サンフラワーを泣かせる数少ないチャンスでもある。ぶちのめしてやれ」
作戦開始をフリートメンバーやタマヨリに通達すると、タマヨリがサンフラワーの防衛システムたちに突貫していき……当然だが量子コンピュータを使用している量子AIの動きだ。目で追うなんて人類でできるわけがない。
そして、ラーヒズヤ謹製の攻勢プロトコルが俺の手元に送信されてくる。
俺はそれを適当な場所――適当と書くと相応しいという意味になるが、今回の場合は"テキトー"と読んでもらいたい――に配置していく……気分は古めかしいシミュレーションゲームって感じであるが、その感覚はまさに正しい。
「ここでネットワーク・アンプリファイアがあれば、あいつらのサーバ能力も借りられたんだけどなあ」
愚痴が思わず出てしまう。
ポンコツ・コルベットのぽんこつ丸の量子サーバの能力も、量子コンピュータであるためきちんとしているわけだが――そうでなければ宇宙船として運用なんてできない――育ち切った(かもしれない)AI相手に1個だけの量子コンピュータで戦うってのはなかなかに難しい。
現実――仮想現実だが――として、タマヨリが飛び出して言った直後に、俺の認識における視界では、砦から射出される各種大砲やミサイルや銃弾がタマヨリに向かってすっ飛んでいき、彼女を細切れにしようとしているし、タマヨリはタマヨリ1体しかいないため、攻撃しているにもかかわらず防戦一方って感じだ。
テキスト・ログなんて視界に入れようものならば一瞬で脳がパンクしかねないので見ていられないが、目で見ても脳が処理を放棄しているのか、その動きは実際コマ落ちしている。
そんな状況下では細かい戦況の確認なんてしても意味がないので、俺は淡々と攻勢プロトコルを"テキトー"に配置して、少しでもタマヨリが動きやすいようにする簡単なお仕事を続けるしかない。
「ふおおおおおおおおおお!死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ!アアーッ!テンション上がってキッタアーッ!」
「そういうのいいんで、必要なものとかお伝えくれませんかね?」
「ハイッ!タマヨリ超がんばってます、超褒めて?」
「そうじゃねえよ、それじゃねえんだよ」
凡そ中学生くらいの見た目の美少女が発していいセリフではないが、よくよく考えてみたら今の俺の見た目もそんな感じだったと考えるが、現実のハイティーン・ガールの発言やセリフ回しなんて、実際の所小汚ねえおっさんと大差ないんじゃねえか?という疑問点が浮かんでくるのでそれ以上の思考はやめておくことにする。
この年齢にもなってくると今更幻滅もクソもないわけだが、ピュアなオッサンとしての小さな希望は、もう少しだけ大事に抱えておきたいというだけだ。
にしても、タマヨリは毎度ハッキング・バトルして遊んでいるときこんな感じなのだろうか……それならめんどくさくなって逆ハックしかけてサーバーごと制圧されて物理的に沈黙させられても、文句をいう余地なんて一切存在しないじゃないか。
それほどのテンションの上がりっぷりであるわけだ、俺がクッソ冷静になってしまうほどのぶっ壊れ具合だ、相当なものである。
ともかく、ことが全て片付いたらサンフラワーやダニエル・アンダーソンに一言かけるべきだろう、と思いながら、俺お手製の歩兵群も投入していく。
ぶっちゃけていうと、俺の攻勢プロトコルはポンコツである――地球上の防衛システムぶち抜く程度ならば俺の腕でも問題なくなっている――そう教育されている――が、この銀河規模のバトルに介入するには力不足が過ぎる。
ラーヒズヤのプロトコルはかなりのもんだというのはタマヨリの発言からしても確かだし、こうやってフルダイブをしたうえで彼の攻勢プロトコルを展開してみれば、俺の認識上の見た目からしてもその格差はハッキリとしている。
たとえ話として言うなら、俺のプロトコルが第一次世界大戦当時の歩兵を表しているならば、ラーヒズヤのそれは第二次世界大戦後期の歩兵装備で、サンフラワー……というかシルビアが配置したであろう防衛プロトコルとして繰り出してくる歩兵群は第三次世界大戦の歩兵たちだ。
この辺りはもともとの素養や才能、その他諸々が関わっているためどうにもならない部分はある。
ちなみにタマヨリやサンフラワー"個人"としての戦力は、ゲームや映画くらいでしか見ないような超未来の銀河大戦規模なのでいずれにせよアレかもしれないが。
それでもいないよりはマシだったりする。
そこに攻勢プロトコルが存在するのであれば、防衛機構の一部を回すしかないのだ。
サンフラワーは量子AIのため、その処理能力は俺たち人類からすれば無限大に等しいが、タマヨリも同様であり、微妙に他に手を回さざるを得ない状況を継続し続けさえすれば、サンフラワー側は少しずつ不利を被ることになる。
非常にセコイ考え方であるが、現状の戦力でサンフラワーの防衛を突破しようと思えば、物量と諦めない心でなんとかするしかない。
少量だが、ガラッティからも贈り物が届けられた……仮想現実用の乾燥パスタと鍋と大量の水と薪だ。
俺はそれを当然の権利のように仮想現実内の地面に叩きつけてから、更なる歩兵群を配置して突貫させる。
ここまでやっておいてなんだが、攻勢プロトコルやタマヨリはサンフラワーの防衛機構から攻撃を受けているが、俺本人は一切攻撃されていない。
俺自身が攻撃に加わっていないというのもあるが、ぶっちゃけ人間一匹いたところで何もできないっていう現実があるからだ――それ以外にも「かかってこい、相手になってやる」という文言通り、鍛えてやる的な意図……つまりプロレスのブック的なものもあるのだろうが。
が、当然油断しているわけではない。
乾燥パスタや鍋に紛れてガラッティから送られてきたもののうち、床に叩きつけて踏みつけてバラバラにしなかったものが一つだけある。
アイツもシルビアへのうっ憤は相当たまっていて、奴をぶち殺すために日々研究にいそしんできた我が同志のうちの一人である。
どれだけイタリア人としての遺伝子がパスタ送付を命じようとも、シルビアのやりそうなクソッタレ行動に対する予測と、対策は忘れないということだ。
「ジャパニーズ・ソードってアンタ」
「笑うんじゃねえよシルビア、こいつは"日本かぶれの糸引き姫"、つまり我が同志から送られてきたもんだ」
振り向きざまに刀を鞘に突っ込んだまま振るってみれば、マチェットで俺をぶった切ろうとしてきたシルビアのソレの軌道とうまいこと重なってくれたのか、なんとか受け止めることができていた――鞘は砕けていなかった、傷は入っているが。
ジャパニーズ・ソードことカタナは受けに向いている武器ではない、分厚く重みもあるマチェットの一撃を下手に受ければ刃こぼれどころかへし折れかねないので注意が必要だろう。
実際、以前に銃弾受け止めまくった軍用の分厚いナイフは砕けたからなあ、過信はできない。
「どうやってるのか知らねえが、これも教育プランのうちの一つかい?」
「さすがに想定外が過ぎるってところね、旗艦が落ちるなんて一番やっちゃいけないことだし!」
目に見えて落ち込んでいるが、それを理由に手を抜いてくれるフリート・コマンダーではないのが困ったところだろう。
手早くハーヴェイにシルビアの出現を知らせるが、こいつが本物なのか、それともサンフラワーが作り出したゴーストなのかはわからんし、俺が判断することじゃない。
俺がやるべきことは、俺がやりたいことは、ここまで一度も勝っていないシルビアをぶち殺すことなのだから……今目の前にいるこいつが本物かどうかなんて重要ではないのだ。
「タマヨリすまん、しばらく手を貸せそうにない。今あるものだけでなんとかしろ」
「イイイイイイイイヤッホオオオオオオオオウ!」
「あんたも苦労するわね……」
「わかってくれて助かる」
俺も相棒も、それぞれぶち殺したい相手ってのがいるわけで、多分それは幸せなことなのだろう。
これが安全が確保されきった場所での訓練だったならいいのだが、今回ばかりは勝ちを拾いに行かねばならぬ。
頼むから俺の言うことを聞いてくれ、頼むから。
次作のプランは2種あって、どっちにしよっかなとか妄想だけはするようにしています。
んな先の事より今のコレをなんとか完結させたいわけですから、妄想するだけにとどめています。




