フリゲート艦の謎
「ハーヴェイ、これからカサブランカに乗り込んで操縦権奪えないか試してみる。サポートよろちく!」
「アイアイ、ラーヒズヤを向かわせる」
「ありがてぇ、ありがてぇ……!」
現在手が空いているのはガラッティであるが、手が空いているといっても彼女は他の宇宙海賊が調子こかないように巡回し続ける必要があるため使えない。
そして、ことハッキングだのなんだのということになるとラーヒズヤのほうに軍配があがるので、このシチュエーションにおける俺のサポート役は自然と彼のマッチョマンとなる。
過去――といってもそれほど昔の話というわけではない――にタマヨリが遊びついでにラーヒズヤの量子サーバにアタックを仕掛けたところ、最初にタマヨリを迎撃したのは彼のAIではなく彼自身が構築した、タマヨリ曰く「芸術的な」防衛システムだったそうだ。
もちろんこの宇宙船パイロットとなるための訓練期間中、俺や他の同期も同じようにハッキングだのなんだののための講義や実践訓練は受けているが……元の素養というか才能というか、そういうのに関してはラーヒズヤは頭一つ抜け出ていた。
そしてこれまた当然の話であるが、無限回であらゆることを一瞬で試行できる量子AIにとって人間が構築できる自力防衛システムを突破するのはさほど難しい話ではないため、タマヨリはそれを食い破り、彼のAIの防御も食い破って雄たけびを上げていた――これは蛇足か。
否、そんなわけはない。
タマヨリのパーソナリティは実にポンコツであるが、その性能と実力は超高性能AIにふさわしいものがある――ダニエル・アンダーソンや3M、そしてシルビアと共に日々活動している相棒達が百戦錬磨過ぎるだけだ――。
ド低能クソ社畜オヤジな俺も当然だがタマヨリに必要だったのは、どんな小さなことでもいいから何か一つ、成功することだったのだ。
小さな成功の積み重ねは自身に確かな自信を受け付けることを可能とし、その自信こそが本来持っているはずのおのれのポテンシャルを正しく駆動させるための燃料となるのだ……多分。
ともかく、ニコイチ・ポンコツ・コルベットをシルビアの乗艦であるカサブランカという名前のフリゲート艦直近に着け、俺はまたアイ・キャン・フラーイ!をする必要があるため艦を移動させる。
乗り込んだ後はタマヨリに頼んで艦を適当な距離まで離す必要はあるが、その辺は事前に説明済みであるため問題はない。
彼女のフリゲートに近づけると、肉眼――アンドロイド体の目であるため、おっさんの目よりはかなり視力がいいが――でも鮮明に、ぶち抜かれ融解したコックピットのシールドスクリーンが見えてきた。
爆発を起こし姿勢が崩れた中で発射された海賊首領のレーザー1門は、シールドスクリーンを縦に切り裂いていたのだ。
「ありゃー、位置が悪いよ。俺だったらショック死するね」
『アンドロイド体のセーフティの関係上、多分死にませんが、量子コンピュータにヒットしていたらタマヨリでもショック死しますね』
そりゃ物理的に死ぬだろHAHAHA、などと笑いあいながら宇宙空間に飛び出していき、カサブランカのコックピット付近にうまいこと張り付いた――気分はG様か、それともフナムシか。
レーザー等、光学兵器の防御をロクに考えられていない太陽系内で活動することが前提の武装になっている今の艦で、レーザータレットの直撃を受けるとこうなる。
頑丈なはずのシールドスクリーンは縦に切り裂かれるように溶けていて、小柄で細身と化した中年オヤジ(少女)ボディの俺は無理やりというわけでもない感じで隙間からコックピット内部に侵入することが可能だった。
「艦の武装は選択と集中。攻撃も防御も特化しろってのが鉄則ではあるが、ノーガードは流石にイカンってことだよなあ」
『まったくで。生身で飛べってなるとおっかなくてかなわないですねえ』
「ディスカバリー・パイロット以外はほっとんど生身でシールドすらないんだぜ、あいつらマジで勇気の塊だよ」
シールド・ジェネレーターは高い……製造方法や仕組みが未だ未解明な地球圏においては、もう実にべらぼうに本当にくっそ高い超絶高級品である。
その中でも、地球圏ではまず運用されることがない光学兵器に最適化されたシールド・ジェネレーターはさらに高い――ツマミを捻れば実弾のピアッシングからレーザーのサーマルに最適化具合が効果が変わるなんていうものではないからだ
そんな状況下で『レーザータレットを運用した奴がいる』という事実が広まるのは結構まずいことだろう。
装甲やシールドで考えるべき防御属性の選択肢が1個増えるだけでも相当な負担が増えることになってしまう。
ええ、装甲表面にガラスでも張り付けろだって?
スロットル・レバーを押しこんで速度上げた瞬間に小さなチリとかにぶち当たって全部割れちまうぞ。
くだらないことを考えながら、コックピット内に入り込み、パイロット・シートを見るとこれまたレーザーの影響を受けたのだろう、縦に溶け落ちている。
その後ろには、体に大穴開けてぶっ倒れているシルビア……のアンドロイド体が一体。
有機体を使っているというのは本当のようで、まるで肉のように見える何かと、金属的な部分が合わさって見える。
コックピット周囲には血液替わりだろうか、液体めいたなにかが所々張り付いていて妙に生々しく感じるが、宇宙空間に向けて大穴が開いていて機体すら存在しない艦内においてその匂いなどは感じる余地は当然なく、それ自体は救いだろうか。
「ひとまず、彼女の本体が無事かどうかを確かめてみよう」
『それがいいですね。現在のタマヨリでは内部システムにアクセスできませんから』
VR空間で8倍に引き延ばされた5か月間の火星ステーションの訓練経験のおかげで、指差ししながら「ヨシッ」していたあのころがずいぶん昔に思えるが、実時間で考えるとそこまで昔の話ではない。
ヨシの腕と指の動きを2、3回こなして、キレの良さを確認――疲れ知らずのアンドロイド体ゆえに、そのキレは本体であったころよりも圧倒的に鋭い――してから、保護カプセルを探すことになる。
「オイィ?フリゲート艦ってこんなに広いのかよ!」
『キャリアーに乗っかってる戦闘機よりちょっとだけでかい程度のコルベットと一緒にしちゃいけません。居住性も含めてまるで別格です』
そう、コルベットは地球でいう爆撃機程度のサイズ感であるが、フリゲート艦までいくと映画やドラマ、あるいはゲームで見るような宇宙船そのものとなってくる。
立って歩いても天井に頭をぶつける心配はない――ああ、俺のアンドロイド体はずいぶんと小さいためいずれにせよぶつけないが――し、パイロットのプライベート・ルームは広々としている。
通路だって身をよじるようにして歩く心配もない――ああ、もう以下略でいいか?――ので……ともかく、快適度の格差がとんでもないのだ。
コルベットのサイズ感に慣れ親しみ始めている俺にとって、フリゲートの艦内は、その全てがホテルのロイヤルスイートか飛行機のファーストクラスって感じだ。
「野郎ぶっ殺してやる!」
当然、コルベットよりだいぶ多い――既にバラバラになった我が愛機の部屋数はコックピット、四畳半プライベート・ルーム、カーゴ・ホールド、弾薬庫、そしてカプセル置き場とシャワールームだけだ――部屋数のドアを開けるたび、こんな愚痴の一つが漏れたとしても見逃されるべきだろう。
何十回目かは忘れたが、ともかくようやく保護カプセルの部屋を見つけ出すことに成功したようだ。
こんなことならヤハタのゲンコツ級フリゲート艦の仕様緒元でも取り寄せておくべきだったか、保護カプセル部屋の位置自体は艦のカスタマイズをどんだけやったってそれほど変わらんだろうし。
フリゲート艦に乗るのなんて当分先だと思ってたから、脳みその片隅にすらそんなこと考慮しなかったなあ。
「あったあった、て空じゃねえか!?」
『はあ?』
中身は空であった、といっても保護カプセルが射出されたわけではない。
カプセルの中身が空だったのだ――使用された形跡すらない。
「どういうことだ?」
『タマヨリにはわかりませんよ、内部システムにアクセスすることすらできないわけですし』
「だよなあ。パニクっても仕方ないし、宇宙でのお仕事だ。あいつが死んだなら死んだで受け入れるしかねえってのは座学やら何やらで散々やった。納得いくかとかそういうのは全部抜きにして、今やれることやるべか」
今やれること……それはシルビアの相棒たるAI、サンフラワーが守る艦内システムをハッキングをして、タマヨリにこの艦の制御を奪わせることだ。
シルビアの本体がどこにいるかわからない以上、通常の手段でコントロール権を得ることはかなわなくなったわけだし、無理やり奪って艦のログデータをあさるしかない。
その前に、他にやるべきことがある。
俺はアンドロイド体の体をまさぐって――アレな意味じゃない。大昔のアニメーションのように、生身でいう首の後ろ"I.E.Sコネクタ"がある部分に優先接続用のモジュラージャックがついている――ケーブルを引っ張り出し、コックピットにある有線接続用の機械に接続する。
2222年にもなって有線接続かよと、未来のヒトたちは思うかもしれないが、2222年だからこそ有線接続が生き残っているのだと力説したい。
どれほど無線ネットワークが発展しようとも、有線接続には有線接続なりの利点があるのだ……例えば今のように。
とにかく強制的にネットワーク内に潜り込むという点において、有線接続というパワーの有効性はすさまじいのだ。
ともかく、接続をすると視界のAR部分にダーッという擬音が流れてきそうな勢いで接続ログが流れてきて、各メンバーに付与された権限情報などを確認。
最後の最後にシルビアのAIであるサンフラワーから「かかってこい、相手になってやる」というメッセージが来ていたのを確認した。
ともかく最下級フリートメンバーである俺でも有線接続さえすれば、この艦内システムの一部である通信は扱うことができる。
残りの機能は権限次第であるわけだが、フリートの副官であるヨハン・ハーヴァード・ハーヴェイですらH-3という最低等級のため、システム的な意味で実際に与えられる権限というのは俺と変わりなかったりする。
船とAIの操作権がハーヴェイに与えられているようなら、彼がここに呼ぶのがベストだったのだが。
「ヤマトだ。現在カサブランカ艦内から通信中、俺たちの権限はまとめてド底辺だったからこれよりハッキングを行う。サンフラワーも受けて立つってことだからガチンコ勝負となる……サポート頼んます」
「「「「アイアイ・サー!」」」」
同時に副官であり、現在の指揮官であるハーヴェイにだけはシルビアの行方不明はテキスト・メッセージで伝えておく――ホウレンソウは大事だからだ。
この情報をどう取り扱うかは彼に一任ということで、公開情報とするかどうかは俺が判断していいシロモノではないだろう。
コロナ騒ぎにもめげず、弊社の仕事は忙しいままでありまして、なんでも夏ごろまではこのまま忙しいんじゃねえかって話すらあります。
といっても不確定要素の塊な現状どうなるかは不透明ですけどね。
お賃金沢山もらえるからいいっちゃいいんですが、尻から文章捻りだしてる暇がまるでない……のも最悪いいんですが。
働きすぎると気力やら思考力やらがズンドコ削られていってなにもできなくなるし、どうしようもないミスがべらぼうな勢いで増えていくってのはマジだったんだなあと、最近実感しております。
もともと低能なわが身にはマジで辛い期間っすね(白目を剥きながら




