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バトル・オヴ・カオス



「なあっ!?ヒッグスは、ヒッグスはどうしたってんだ!」


広域通信で、残り1機となってしまった元友軍たる海賊パイロット君から通信が入ってくる。

丁度その時、俺はパイロット・シートからこの機体の元パイロットであったものを引っぺがして、先ほど入ってきた気密室に放り投げているところだった。

空気を読んだタマヨリがジャストなタイミングでドアを開き、そして閉じてハッチをあけて空気と一緒に元パイロットだった者を外に排出してくれる。


「今捨てた」

「ひでぇ!お前それでも人間かよぉ!?」


ごもっともな発言であるが。


「ごめんな、今の俺ってアンドロイド体なんだわ」

「言ってることが無茶苦茶だぞオイ!」


いずれにせよ、宇宙海賊に言われる筋合いはないってものである。


「ヤマト!生きててくれたか!」

「カプセルはさっきの小惑星帯に放り込んできた、後で回収が必要なんだわ」

「アイアイ、さっさとゴミ掃除終わらせるぞ」

「「「アイアイサー」」」

「俺はゴミ扱いかよ畜生!ヒッグス、リンシャオ……あとなんだっけ、ああボスのプカホンタスもいたっけな。あとはもういいや新顔多くて覚えきれねえし。……とにかくお前らの仇を一人でも多くぶっ殺してやる!」


広域電磁通信でガミガミ言いあいながら戦うっていうのはネトゲならばよくある光景だが、現実でも似たようなものだと思い知ったのはこの時だ。

まあ、剣や弓で戦ってた時代もお互い罵り合いをしたり、唸り声や叫び声挙げながらウッホウッホと殺し合いしてたらしいし、そのあたりは人間って奴でも進歩しないものなんだろう。


「しかしなあ名も知らぬ海賊君よ、さっきまでヒャッハーめいたテンションで俺追い掛け回してたってのに、あからさまに不利になったとたんにこっちが悪者みたいに言うのはどうかと思うぞ。俺に任せて先に行けー!っていうさっきまでの漢の矜持はどうした?」

「畜生、聞いてやがったのかよ黒歴史だぜこの野郎!可愛らしい声で説教しやがって!ていうか顔まで可愛いじゃねえかびっくりだ……ナンデメイド!?」

「いきなり映像付き通信に切り替えないでくれませんかねえ?」


それにしてもこのポンコツ・コルベットは操船しづらい。

どのくらい操船しづらいかというと、タマヨリが全力で姿勢制御に手を貸してくれているというのにまるでまっすぐ飛ばないという奴だ。

現代ではスーパーレトロ・カーと言われる2000年代初頭の、とあるイタリアの真っ赤なスーパーカー――それも中古車仕様だ!――をVR世界で運転したことがあるが、それと同じくらいまっすぐ走らない。

これでよく俺のYHI-100と追いかけっこしようと思ったものだと逆に感心すらする。


「うむ、我らがヤマトの機体を撃墜した罪は重い」

「ギエエエエエエエエエ!?なんでマッチョマンが女物のビキニなんて着てるんだああ!?」

「ほんとそれな?」

「酷い」


その映像通信にラーヒズヤが割り込んでくれば、切った張ったの世界で生き抜いてきたかもしれない海賊パイロット君といえども恐慌状態になるのは理解できる。

ガラッティがとにかく静かなのは、このカオスな空間に巻き込まれてしまうともう二度と真顔でおいしく納豆が食べられない……という至極まっとうな理由からであろう。

シルビア(ボケ担当)ならともかく、ナットウキナーゼ(イタリア)デラ()イタリアーナ(糸引き姫)には人並みの羞恥心というものがあるのだ。

今現在、どういう状況になっているかという詳細については、彼女の名誉のために黙っておくしかないということを、どうかお許しいただきたい。


「ディ、ディスカバリー……お前ら一体何なんだよ?」

「ごもっともな疑問だが、すまんな海賊パイロット君。今は俺が一番まともな格好をしているのだ」

「め、メイド服で?」

「ああ、メイド服が一番まともなんだ」


大変バカバカしい会話を、非常にシリアスな受け答えで完結させる。

今現在、風紀的な問題でガラッティとハーヴェイの姿を衆目――といってもここにいるのはディスカバリーと海賊だけだが――に晒すわけにはいかないのだ。


「いや、俺は男だからな。全裸に蝶ネクタイくらいなら問題ないぜ」

「頼むから問題視してくれ」


その感性は兎も角、ハーヴェイはどこまでも漢だった。


ともかくそんなカオスな会話をしながら戦闘が成立しているのは、ただでさえ扱いづらいニコイチ・ポンコツ・コルベットを操縦しながら適格(?)にツッコミを入れてくれる海賊パイロット君のせいで、彼のコルベットの軌道が非常に不安定になっているということに尽きる。

AIやセンサーから産出される敵機の行動予測に基づく予測射撃がまるで役に立たないのだ。

下手なランダム軌道よりよっぽど回避に優れた行動と言えるが、いろんな意味でポンコツすぎるこのポンコツ・コルベットにとって、余りにも無軌道と言える軌道をとり続けるのは機体そのものの耐久面からいってもよろしくないだろう。


「ギエエエエエエエエ!スラスタが壊れたああああ、もうダメだあ……」

「よし、ラーヒズヤは俺と一緒に相手のポンコツを制圧、鹵獲するぞ」

「アイアイ」


例によってガラッティはお外に出られない状況になっているので、ビキニ・ラーヒズヤにゼンラ・ハーヴェイが相手のコルベットの制圧を試みるようだ。


「じゃあ、俺はシルビア機の中に入って様子を見てくるとする。ガラッティは全体の援護を頼んます」

「映像通信はしないからね!」

「わかってるって」


仲間内同士であるならばダークマター通信を使えばいいし、ダークマター通信で一番効率がいいのは音声のみの通信であるから、広域電磁通信のように機内の映像まで含まれることは無い。

そのため俺が健在であったころまでは普通に会話に混ざっていたガラッティは今現在クッソ静かになっている。


「しかしまあ律儀なもんだ、シルビアはもうノックアウトされたんだ。着替えたって文句言われる筋合いないだろうに……俺の機体はもう落とされてるからメイド服で火星まで戻るしかねえんだが」


と独り言をつぶやきながら、制圧・鹵獲を試みるためにYHI-100から飛び出した肌色過多の猥褻物陳列罪のマッチョマン二人を横目で確認した。

ハーヴェイ曰くで、「この圧倒的開放感は、艦の中だけでいいから一度生身で体験すべきだ」とのことだが、そりゃお前の"サイズ感"ならそうなんだろうよ、という謎の敗北感しか感じねえ理不尽さしかなかった。


だって一応、シャワーのために生身に戻って全裸ったことだってあるわけだ。

無重力の世界で水浴びをするというのはなかなかにリスキーな行為なので、本当に専用の機材がないとできないが、俺らディスカバリー・パイロットには必須といえる機材でもある。

特にすぐに臭くなる中年オヤジの特性を得ている俺としては、定期的にシャワーくらいは浴びたい。

そんなわけで、無重力空間でフリーダムに飛び回る例のアレの体験自体は行っている。


ビッグ・マグナム1丁に、ダチョウ・エッグ2個が無重力空間で慣性を受けて自由自在に跳ね回るという体験は確かにしちゃあいないが、そもそも俺のピストルとうずらの卵じゃあ"全く同じ体験"はできないだろうさ。


『どんな罪を犯そうとも、今のハーヴェイ氏とラーヒズヤ氏に捕縛されるということ以上の罰はなさそうですねえ』

「ごもっともすぎて、言葉が出ねえよ」


まあ、それはそれとして……だ。

ともかく四苦八苦しながらシルビアが乗っていたフリゲート艦に近づいていき、これからどうしたもんかと貧相な頭を働かせることにする。


「いずれにせよ、このぽんこつ丸じゃあ火星までは帰ることができねえから、シルビア艦で帰るのがベターなんだよな。タマヨリはコマンダー艦の仕様覚えてるよな?」

『愚問です、消去しない限りは忘れないというのが我々の長所です』


全ての宇宙専用艦船には量子サーバが搭載されていて、その数は基本的には1から2となっている。

俺たちルーキーシップの量子サーバは例外なく1でその理由はスペースの問題という切実な話なのだが、コマンダー艦は必ず複数搭載するようになっている。

それはコマンダーが処理すべき情報量があまりにも多いとかそういう理由ではなく、予備サーバーとしていくつか搭載されているのだ。


主な使用用途は、今回の俺のようにフリートメンバーの艦が使い物にならなくなったときにメンバーのAIを収容したりするときに使う。

太陽系内であれば火星ステーションにバックアップを送り、なんとかして帰ってから復旧とかできるが、太陽系外から火星に送って帰還するとか、実際面倒この上ないのだ。


今回俺がやるべきことは、シルビア艦の調査と可能ならば復旧作業、そして俺の保護カプセルの回収と、射出済みであるならば、シルビアの保護カプセルの回収だ。

実のところこれを自前のYHI-100でやろうとすると、これまたスペースの問題から相当きつかったわけだが――何故ならば完全おひとり様仕様だからだ――、今回無事俺の艦は破壊されているため、コルベットよりもかなーり内部スペースに余裕のあるフリゲート艦でそれを行えるならば、それが一番いいという理由だ。


「じゃあやるべきことはわかってるな、このクソ狭い四畳半を飛び出して、サンフラワーを叩きのめしてコマンダー艦のコントロール権を奪え」

『ヤマトは、タマヨリに死ねと申すのか?』

「やれなきゃガチで死にかねないんで、死に場所をここと定めて逝ってこい」

『タマヨリ、イッキマース!』


といっても流石にタマヨリにだけ任せるわけにはいかない。

俺は俺としてサポートすべきというか、そうしなきゃとっかかりすらつかめないだろう。


『あの、ヤマト?入り口で弾かれるんですが』

「そりゃこの船のサーバーIDが"流星"とは違うからな、FCSで味方信号だしたところでコマンダーに受理されたわけじゃないんだから」

『先に言うべきでは?』

「気づけっての」


そんなわけで、俺はダイブ・イン・ダイブを行うしかないのだろう。

元敵艦のサーバから直接アクセスするしかないタマヨリ単体では、シルビア艦のセキュリティにはじき出されてしまうというのは当然の事。

しかし俺個人のI.E.S.ネットワークIDを併用すれば、タマヨリが通過できるだけの穴を穿つことは可能……というわけだ。


『俺たちの戦いはこれからだ!って感じですか?』

「やめて、打ち切りっぽく感じるからやめて?」


もっとも実際にそれを行うためには、現状ネットワーク・アクセラレータが機能停止しているうえに、別機体に乗っている俺にとっては色々な意味で距離があまりにも遠すぎて不利といえる。

いずれにせよ必要な項目であるが、やはり直接シルビアの艦に乗り込んでやるべきだろう。


「つうわけだから、もうちょっとだけその四畳半に引きこもっていてくれ」

『ギエエエエエ、もうこのクッソ狭いウサギ小屋にいるのはもう嫌ですー!』

「じゃあ、単独で突破を」

『無理☆』

「無理やり星印つけて会話するんじゃねえよ」


いずれにせよ手早くやらなければならない。

以前言ったかどうかはもう覚えていないが、光学観測や電磁レーダーでの観測が容易な距離にどれだけ海賊軍団が潜んでいるのか分かったものではないからだ。

大破した機体が複数転がっている宙域なんていう、これ以上おいしい狩場はこの太陽系にはほとんどどころか、全くと言っていいほど存在しないはずだからだ。


相手がポンコツ・コルベットだけならばいざしらず、今回の海賊リーダー艦のようにレーザー・タレットまで搭載しているようなとんがった奴が他にいないという保証なんてまったくない。

あんなのともう1回やる羽目になったならば、俺もシルビアも見捨ててトンズラぶっこくしかなくなってしまう。


俺は何とかシルビアが乗っていたフリゲート艦――確か名前は……カサブランカだったか――の直近までこのポンコツを移動させ、穴の開いたコックピット部分を睨みつける。


「やっぱレーザーとかの熱兵器の防御がほぼゼロってのはまずいよなあ」

『ですねえ、まあ前例もできましたし?次に活かせればいいんじゃないでしょうか』


世の中、何事にも例外って奴はあるものだ。

かなりの部分を犠牲にして何かに超特化することで、一瞬だけでも相手を圧倒する力を得ようとした彼の海賊リーダー君はなかなか思い切ったことをしたもんだと思うし、ある意味それが正解だったんだろうなあと思う。

彼のような眼を持った男が数多く海賊になっていないことを願うばかりだ。

時勢を考えればいつ暇になってもおかしかないんですが、まだ当面忙しい日々は続きそうです。

書き始める前の予定、つまり文字数的にはとっくに完結しているはずなのに全然終わらねえな?というのはよくあることなんすですかねえ……

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