遥かなる宇宙へ
稀の休日なのだからとやるべきことをろくにやらず文章の捏造に全てを賭けようと思いましたが、さすがにそれやったら日常が壊れちゃうのでここで打ち止めです。
次はまた休出のない週末に書くといたします。
俺の艦船に積まれた文字通りの虎の子、センサー・ダンプナーによって海賊フリゲート艦が沈黙してくれるのは数秒間。
その隙に親の仇が如く俺の仲間たちがフリゲート艦にレールガンをぶち込んでくれているわけだが、一方肝心の俺はというと、9機のニコイチ・コルベット達との鬼ごっこを継続していた。
「がんばれ!がんばれ!」 ……コイツはシルビアか。
「流石、死にそうなときの粘りだけは手慣れたもんだ!」 ……いつものことだからなあ、ハーヴェイ。
「さすが納豆男児、その粘着力は称賛に値するわ」 ……納豆から離れようぜ、ガラッティ。
「ナンマンダブ」 ……インド人、どこでそれを覚えてきたのだ?
「オイゴラァ!てめぇら後で覚えとけよな!」
事ここまで来てしまえばもはやフォーメーションなんぞクソ喰らえみたいな感じになってきている。
海賊としても勝ち目の薄いこの戦いをどう切り抜けるかではなく、せめて殺せそうなやつだけでもぶっ殺してやるという、俺にとっては非常にめんどくさい状況になっている。
もちろん、彼ら海賊のうちのほとんどは俺みたいなアンドロイド体フルダイブなんて贅沢仕様じゃないし、シールドだって持っている艦もない。
ドッグファイト機動で1000m/sec以上の速度で飛び回れる生身の地球人なんていないし、積み込まれているAIだってタマヨリの半分以下の性能だろう。
俺個人の資質とは関係ないところで圧倒的に格差があるのだから、1:9の戦力差になってさえ、俺のほうが優位を得てしまう。
それがわかっているからこそ、出遅れ孤立したシールド艦を4人で担当し、残り9機のポンコツどもを俺がなんとかするという形に落ち着いたのだ。
哀しいかな、俺は英雄戦記の主人公ではないので、俺自身の資質自体はほんとうにしょっぱいものであると自覚している。
それ故に愚痴る……不幸な事故で異世界に旅立っていってる人がこの時代にもいるのなら、そんなバカげたことしてないでディスカバリーに入ってほしいと。
それでも、1%でも多く無様にぶち殺される確率を下げるためにも、日本人特有かもしれないスロー・スターターな本気スイッチを入れ続けるしかない。
「うおおおおお!縦型360!」
『やったぜシルビアの十八番ですね!』
9機のポンコツどもから直線状に1200m/secで逃げている最中、各種機体制御スラスタを駆使して縦回転をし、敵機の予測射撃をズラしながらすでにロックオンしていたポンコツのうちの一隻を射抜く。
タレットはロックした相手を自動で旋回して捕捉し続けてくれる便利武装なのだが、俺のレールガン・タレットは据え付けられている場所が非常に悪い。
何が悪いかというと、前方を中心とした円筒状160度程度しかカバーしてくれないので、ケツまくって逃げている間は牽制射撃すらできないのだ。
ECMやダンプナーならば真後ろの敵に向けて照射できるわけで、艦隊の役割的な意味では何も間違っちゃいないのだが不便極まりない。
高速での360°回転のさなか、射撃可能な時間はコンマ何秒という世界だがオーバーロード中の俺にとっては関係なく、元の向きに戻ってスラコラサッサを再開した俺の機体の後部映像センサーがとらえた映像を見る限り、「パッカーン!」という擬音が聞こえてきそうな感じでニコイチ・コルベットが弾き飛ばされているのが確認できる。
このように、地上の戦闘機レベルのクソ装甲であるコルベットにとって、シールド無しで直撃するとそのままお墓の中に大盗賊三世並みのダイヴをぶちかませるようになってしまう。
縦型360は、VRでの宙間戦闘訓練で今のように俺がシルビアに追い回されていた時に披露された小手先のクソ技である。
先に仕掛けたのが俺で、苦し紛れの横型180でシルビアに一発ぶちかまそうとしたとき、アフターバーナーを用いて一瞬で俺を追い抜き、その後ろから縦型360でケツのスラスタに一発当てて俺を爆発四散させたという時のものだ。
その時は訓練生vsシルビアという構図だったので、360度回転したシルビアはそのまま次の標的に向かってすっ飛んでいったわけだが、あの機動性は後々映像で確認してぶったまげたものだった。
180では慣性込みでめっちゃ機動力が落ちてしまうので、最低限の減速効果で済む360度回転の効率性には注目したものである。
なお、生身でやると漏れなく死ぬので海賊稼業を志望する諸兄にはお勧めしない。
『ところでヤマト、シールドシステム残り4%』
「知ってる、つーか既に基礎構造体まで抜かれてるじゃねえか。生命維持システム系もオフラインにしとけ」
『アイアイヤマト。キャパシタ残量は45%まで回復中』
アフターバーナーは使うとして、シールド・ジェネレーターはほっといてもシールドを作り続けるものだしこいつは常に必要だ。
ECMとセンサー・ダンプナーはフリゲート艦がやらかそうとしない限りはもう使わなくていい、ニコイチ・コルベット全ては俺に向いているが、逆にそれゆえ回避もしやすくなっている。
ミサイル・ガイダンス・ジャマーは最初から最後まで無用の長物であったが、こういう作戦ではよくある話なのでこればっかりはどうしようもない。
とにかく無駄を省いて、1ジュールでも多くの電力を節約し、シールドとアフターバーナーに電力を回せるようにするしかない。
そんなわけで、アンドロイド体である以上無用な気温調節と、酸素供給を止めることにした。
というのも船体構造まで既に穴というか亀裂が走っていて、実のところ酸素は供給する傍から宇宙空間にエア・リークされているし、空気がないなら温度調節機能自体が無用だ。
先ほどやった決死の覚悟の360°も、下手すりゃその慣性の暴力で船体がバラバラになっていてもおかしくはなかった。
とはいえ、800m/sec台で戦闘機動を続けているニコイチ・コルベット組のほうの動きもだいぶん鈍くなってきてはいる。
それはもう当然の話で、アフターバーナーで1000m/secを超えるのが一瞬でしかないとかいっても、生身の肉体にかかる負担は速度相応のものだし、800m/secで急旋回するなんていう芸当だって、地球の歴戦航空機パイロットだって早々経験できる負担ではない。
もはや三半規管は煮込み過ぎたイギリス料理のスープみたいにグズグズになっているはずだし、体中の筋繊維だって悲鳴を上げるを通り越して白目剥いて泡噴き始めていることだろう。
そう、俺は分単位で粘りまくっているのだ。
そう、オーバーロードの使い過ぎによって俺の脳ストレス値もそろそろやばいのだ。
「野郎ぶっ殺してやる!野郎ぶっ殺してやる!野郎ぶっ殺してやる!」
ストレスやばいので、相手方にも聞こえるように広域通信で、プリチー・ガールの声で物騒なお歌を歌いながら1門しかないレールガンで時々正確にニコイチ・コルベットを射抜いていく姿は、多分とてもクレイジーに映ることだろう。
俺のないに等しい名誉のために言わせてもらうが、今の俺にとって生き延びる以外の事全ては些末なことだったりする。
「「「「ワーオ……」」」」
俺の親愛なる仲間たちからの感嘆の声が聞こえるが、本当に感嘆かどうかは別としよう。
先ほども申しあげたとおり、個人の資質と関係ないところで圧倒的な差がついているわけで、ロクな訓練も受けられないであろう場末の太陽系海賊のニコイチ・コルベット相手に無双できないようじゃ後も先もねえって話だ。
万全の状態でコルベット軍団を相手にするならば、俺ら同期の誰であっても無双できるだろう。
数少ないリスクを上げるとするならば、ほとんどオワタ式縛りプレイであるということくらいだ。
『で、でたー!ヤマトの必殺技、アンデッド・ハイですね!全く憧れない!』
「まだ死んでねえんだよなあ……」
「と、とにかくもうちょい粘って。フリゲートのシールドシステムのライフはもう0のはずだから!」
時に逃げまどい、時に攻撃できそうなタイミングで海賊コルベットをレールガンで弾き飛ばしながら、横目で中国人が乗っているフリゲート艦をちらっとみたころ、シルビアからそんな通信が入った。
4隻のディスカバリー艦から集中砲火を食らっているフリゲート艦はもうすでにボロボロで、いうなれば俺のコルベット艦と同等程度のポンコツ具合になっていて、修理代大変そうだなあと他人事のように思った直後、俺も修理代で破産するんじゃないかという恐怖感に襲われそうになったが、それ以上の出来事が俺の目に映ったので、その妄想は全て破棄されることになった。
海賊フリゲート艦が爆発する直前、かの艦に装備されている二門のレーザー・タレットが光ったのだ。
それは、確かに最初俺を狙っていたはずだ……タレットが俺のほうを向いているのはわかっていたし、頑張って貯めてきたキャパシタ電力を全て放出するつもりでダンプナーのスイッチに手を伸ばしてすらいた。
直後にフリゲート艦が爆発し、大きく姿勢を変え、タレットの向きがあらぬ方向を向いたことで、俺の手が止まってしまったのが原因とでもいえばいいのだろうか?
引き延ばされた思考と、強化された知覚情報でさえ追うことができない光速で突き進むそれは、シルビアのコックピット付近に直撃したように思え、俺が思った通り、彼女の艦のコックピット周りから小さな爆発が起こったのが見えた。
「……指揮を継承する!」
「「「……アイアイ!」」」
敵の首魁たるフリゲート艦はすでに大破している、空気や燃料のある内部から爆発し、装甲がひしゃげ炎上していく様は、ちょっとだけ美しいとすら思えた。
多分、今そんなクソのんきなことを考えてしまっているのは、俺が殺されること自体は十二分に想定していて、同期3人のうちの誰かがもしかしたら死ぬかもしれないという覚悟もしていたが、シルビア機がそうなるとは一切思っていなかったからかもしれない。
実のところまだ、シルビアが死んだなんて思っちゃいない――根拠だってある。
それでも、正直言ってショックを受けたこと自体は事実である。
奴をぶち殺すのは、俺だとずっと思っていたからだ――おそらく同期組全員"自分が奴を最初に殺す"と思っていたに違いない。
つまり、俺たち師弟はそういう"健全な"関係であるわけだ。
コックピットに座っているシルビアはアンドロイド体のシルビアであり、コックピットを撃ち抜かれただけならば、本体のシルビアは無事なはずである――これが先述の根拠のうちの一つだ。
もっとも酸素駄々洩れな以上この戦闘ではもはや役立たずなので指揮も戦闘も逃亡もできない。
そして視点を移すが、我らが良き友たるアメリカン・マッチョマン、ハーヴェイは流石と言わざるを得ない。
元軍人ということもあるのかもしれないが、一瞬で混乱と困惑を心の奥底にしまいこんで、指揮を受け継ぐ宣言をしてくれた。
俺たち下っ端はとにかく誰でもいいから指揮官さえいるのであれば、下っ端として指示という名前の空気を呼吸し生きることができる。
ともかく俺は、ハーヴェイから指示がきた合流地点に向かって、もはや幼稚園児が作った工作作品のような無残な姿となったYHI-100"流星"を飛ばすことになる。
「もつか?」
『もたないっすねえ』
「保護カプセルは?」
『すでに小惑星群の中にこっそり投棄済みです。ヤマトの親愛なるタマヨリちゃんのバックアップデータは現在火星ステーションへダークマター通信でアップロード中ですよ』
「グッジョブだぜタマヨリ」
親愛なるかどうかはともかく、タマヨリと俺本体が生きてりゃ何とかなるだろう。
もたないっていうのは、合流地点にたどり着く前に爆散するということでもあり、仮に爆散せずに合流しニコイチ・コルベットを全部撃破したところで、火星もしくは他の拠点までたどり着けないことでもある。
『"ナガレボシ"君とは短い付き合いでしたねえ』
「名前相応で何よりだよ、マジで!」
名付け自体に若干後悔してきているが、まあ結構楽しめたのでヨシとすべきなのだろう。
殺したり殺されたりで何が楽しめただとかいう声も聞こえてきそうなものなのだが、サツバツ・ワールドではこんなしょうもないことですら楽しめなければ正気の淵で留まることすらできやしない。
「でもまあ、ちょっとだけ最後の悪足掻きでもしましょうかね」
正面を見ると、俺が心から信頼している同期共がフォーメーションを組んで俺の後方にいるニコイチ・コルベットを狙い打っているのが見える。
特に中距離狙撃武器を持った我が友人、ヨハン・ハーヴァード・ハーヴェイの攻撃は一撃で確実にコルベット艦を撃沈させることができるので、かなり後方からの圧力は軽減されてきている。
「いくぜ横向き180!」
『お、急減速ですか?』
「オウイエス。みんな~、帰りは最悪のっけていってくれよな!」
ダークマター音声通信でフリートメンバーにメッセージを送る。
既に機内の空気は全て外部へ放出されてしまっているが、回転と急減速によって軋んだ金属の動きで、音声的なものは体に伝わってきている。
これで、確実に俺の愛機の寿命はゼロを突破してマイナス局面に突入することだろう。
そして、タマヨリに対してもいくつかの指示を与える。
全てこなせるかどうかはわからないが、優先順位のドタマのほうは確実にやってもらわにゃならん。
凄まじい慣性による衝撃の中、アンドロイド体というほぼ万能な肉体の利点を生かしてシートベルトを外し、コックピットルームから飛び出て向かう先といえば……遥かなる宇宙だ!
これらを戦闘パートと言い張っていいものかどうか秒だけ悩みましたが、別にいいかという結論に至りました。
文章捏造の経験値貯めとして、先々(があるならば)の糧となってくれると信じています。




