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きっと、お前が主人公だ。

インタビューは恙なく無難に終わった。

こういう場合、記者からの質問に答えるだけマンになるのが正しいのかもしれないが、そこは地球凡夫たる俺。

聞いてみたいことがあるならばこっちからお喋りするやつなのである。

そこで聞いてみたいと思ったのは、ディスカバリーパイロットという超絶不人気職業なのに何でわざわざアメリカはNASAまで出張してインタビューしようと思ったのか……もしかしたらディスカバリーに札束で殴られたのではないかという心配性な俺が口に出して聞かざるを得なかったというのもある。


答えとしては簡単で、宇宙科学出版という会社……というか曲がりなりにも宇宙に興味を持ちまくっている集団に属している人間からすると、日本人の宇宙への興味のなさ具合は歯噛みをするレベルであるらしく、ちょっとした発見だろうがちょっとした出来事であろうと、事細かく丁寧にしつこく何度でも報道しないと最低限度の興味すら持ってもらえないとのこと。

もちろん俺へのインタビューがテキスト記事あるいは映像記事として成立するかどうかは別として、下手な鉄砲も数撃ちゃ当たる理論をもって超不人気会社とはいえ宇宙船パイロットが日本人から出たならば、一度はインタビューせねばならぬという義務感からの行動だったようだ。


うまくいくといいなあとは思うが、現状だと少し厳しいのではないかとも思う。

日本の大きなお友達たちに好かれそうな種族とか見つけてしまえば、あくまで日本人のほんの一部ではあるが、今よりも引き込めるかもしれない……が、協定の存在があるので大っぴらに喧伝できないし困ったものである。

いっそのことフィクション・ストーリーとして、それとなく電子媒体の素人小説サイトあたりに出稿してみれば、夢を持ってくれる人も一握り……いや一つまみくらいは増えるかもしれない。

なんにせよ、そういうのはソレを見つけてから考えればいいだろう。


なんならマイワイフマニアであるハーヴェイのほうがそういうの強く求めてるかもしれないし、協力も仰ぎやすいというものだ。


「よし、じゃあやることやったし。ちゃっちゃと出航して海賊ぶち殺しておうちに帰るわよ」

「「「「ウェーイ」」」」


ここでは自分が死ぬかもしれないという可能性についてあえて誰も触れることはない。

んなこたぁ十全にわかっているからだ――遺書だって地球を飛び出す前から書いてあるが、宇宙にきてからそれも更新した。

VR上で死に過ぎて実際の死というものに対しての感覚が、麻痺しかけているというのも少しくらいあるかもしれないが。


ともかく現実的なお話をするのであれば、宇宙においては海賊を殺すために探し回って殴り掛かり逆襲されて殺されて死ぬ可能性よりは、凡ミスで爆散して宇宙デブリになる可能性のほうがずっと高い。


太陽系外延部のエッジワース・カイパーベルトに海賊は潜んでいる……と一口に言ったところで、そこをフラフラ飛んでいるだけの時のエンカウント率を表すのならば四千億分の一といったところだろうか。

エッジワース・カイパーベルトといってもその範囲は現状の俺たちにとってクソみたいに広すぎて、宇宙に出ている地球人はクソほど少なく、そもそも地球人の人口を宇宙規模で一口に言うなら「所詮は惑星1個分」でしかないわけだ。


「なあシルビア、ぶっちゃけ宇宙私掠船の船長やらせるより、スパイとしてディスカバリーのパイロットにさせたほうが早くねえか?」

「それがわかるなら地球ていうくっそ小さな領域で権力争いや勢力争いなんてしないっつー話よ」

「ぐうの音も出ねえな?」


一応そういう奴(スパイ)もいないわけじゃないらしい。

ただ、太陽系宇宙軍よりディスカバリーパイロットのほうがトンデモレベルの仕事をこなすことになるため、訓練の強度がアホみたいに高い……がそれ自体はあまり問題にならないものの、いざ太陽系外に出てその上位勢力に属する存在達と仕事をしていくにつれ、地球の小さな権力者のためにお仕えするのが馬鹿らしくなってスパイを辞めちゃうことが多いらしい。

ディスカバリー社としてはその人物がスパイであることなんて承知の上でしっかり訓練して送り出して、いろいろ学んで地球に情報を流してほしいと心から願っているのだが、スパイがスパイすることを辞めてしまうという事態に頭を抱えることも多いとかなんとか。


「この間の仕事で葛西少佐と知り合ったし、ディスカバリーに引き抜いてみようかな。小さな娘さんは可愛かったし、嫁さんはめっちゃ美人だったんだ。娘さんには悪いが」

「やめたげてよ!」


もちろん冗談である。

こんなところに引き抜いたら娘さんが悲しむだろう……めっちゃ美人の嫁をゲットしているというShit感だけで、あのチビ助を悲しませるなんてことはやってはならない。


こんな馬鹿げた会話をしているのはムーンベース内ではなく、とっくに高速航行へと移行している我らが愛機の中での話だ。

この旅程の直線距離はもはや数字で言い表すのもめんどくさくなるが、月というか地球から太陽までの数値が1au(天文単位)であるから、そこからさらに30~40auほどいった先からがエッジワース・カイパーベルトとなる。

1か月(4週)の宇宙空間実践訓練の期間のうちの、約1週となる6日間を個別任務(インタービュー込み)として消化して、残り21日を海賊討伐として使うわけだが、そのほとんどが移動だけで消費されることになる。


グラヴィティ・アクセラレータは便利なようだが、地球圏の近辺くらいにしかマジで使うことができない。

地球のみんな、早くワープドライブの理論をご理解し技術として確立してくれ……!

とにかく、移動中は暇なのだ。


「……そういえば聞きたいことがある」

「お、ラーヒズヤちゃん珍しいわね。アタシが何でも答えてあげるから言ってみ?」


実際珍しく自分から発言をしたのはラーヒズヤ。

通信ウィンドウに表示されている無駄肉をそぎ落としたこのイケメンは、これまた珍しく神妙な顔をしている。


「うむ。ムーンベースの男性職員から何故か恨みがましい視線というものをぶつけられ続けていたのだが」

「「「「あっ(察し」」」」


そこに凡夫の化身たる俺が紛れてラーヒズヤとお喋りしてたなら、ムーンベースにいる諸兄らからのShitの眼差しもかなり和らいだはずだが、実際にイケメンの権化たるラーヒズヤと仲良さげにお喋りしていたのは、ビショウジョと化した俺やガラッティなどであり、他の男性はハーヴェイだけで、ハーヴェイはシルビアに濡れ雑巾が如く絞られていたから、彼は孤独のムーンベース職員たちから同情すらされていたのだ。

故に見た目の上だけなら麗しそう――現実からは目をそらそう――な女性達に囲まれているラーヒズヤにのみShitの感情は向けられることになり、元々感受性豊かな彼は、それを感じ取るに至ったというわけだ。


「どうした、まさか俺は、なにかやってしまったというのか?」

「古典幻想物語の主人公みたいな発言やめえや」


笑いをこらえきれない。

まあ、「何もやっちゃいねえがお前がイケメンすぎるだけだ」とだけ答えておいてやることにしよう。

古典的な物語の主人公達は、どうしてそうなるというくらいの感受性の悪さを発揮しているが、それを引き立てるのは設定上内面も外面もそれなりにお整いになられている美人軍団に囲まれているからこそ物語として成り立つのだ。

大してこちらは、内面残念コンビ(シルビア・ガラッティ)に加え中も外も実はおっさんという俺なので、すれ違いも勘違いもクソもなかったりする……そもそも、それら物語と違ってこちらは現実であり、揃っていい大人だしな。


もっともこれでラーヒズヤが大きな功績上げようものならば、彼こそがこの世界の主人公だと確定しかねないが、それはそれでメデテェことなので応援するとしよう。

だから、この言葉を贈ろう。


「まあ、お前はそのままがんばれ。きっと、お前が主人公だ」

「何の話だというのだ!?」


心優しくコミュ障な彼の、そんな小さな叫びが宇宙に広が……ああ、ダークマター通信で会話してるからマジで広がるんだよ、宇宙中に。

太陽系って広いんすよね、地球人が考えている太陽系の範囲という意味だけでもパネェ広いです。

もしかしたら実際太陽の重力影響圏という意味ではもっと広いかもしれませんし、実はもっと狭かったりするかもしれませんが。


月に基地を作って、宇宙上で使うものは宇宙で作ろうとなるまで、実際どのくらいの時間が必要になるんでしょうねえ。

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