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アンドロイドに痛む胃はあるのだろうか

「いらっしゃーい。てことでブリーフィングルームまで案内するから、今回の仕事の説明するわね」

「「「あいあいさ」」」


個人依頼(ガキの使い)で使用した日数は5日間、予定では7日間だが2日が休みになるとかそういうのはない。

というのも、フリートでのミッションがあるからで、休暇とかそういうのは全部終わってからすればいいことだからだ。

これはファンタジックな冒険譚に出てくる有象無象の冒険者(社畜)たちと同じで、お仕事請けてからそれを終えて報告するまではずっとお仕事であるというのと全く同じである。

お仕事中に休憩回(肌色桃色)を補充する暇をねん出しようとか考えるのは、主人公(無能上司)くらいなものだろう。

自由裁量による業務という意味では、冒険者と俺らディスカバリーパイロットの間には何も違いはない。


などとどうでもいいことを考えているのは、イケメン系美人ちゃんであるガラッティ(糸引き姫)とうら若き健康系美人エースであるシルビア(いたずら女)に、未成年っぽく見えるビショウジョ(中年オヤジ)が、無駄肉(筋肉)をそぎ落とし超絶イケメンと化したラーヒズヤ(コミュ障)を引き連れているからだろう――実情はマジで終わってんなコレ。

これで俺(中年オヤジ美少女)がガチで中身女だったらラーヒズヤは立派なラノベ主人公として君臨できたに違いない……すまんな、俺が中年オヤジで。


何しろ周りからの視線がすごいことになっているんだ、シルビアの策謀に嵌ってスク水で舞い降りたらどうなっていたことやらと思わざるを得ない。

故にどうでもいいことに思いを巡らせないとやってられない。


「おお、来たか。来てくれたか……」

「やつれたなー」


タフでマッチョなテンプレート系アメリカン・ナイスガイだったハーヴェイ(エロゲマニア)がげっそりとやつれているのがよくわかる――いや、何かがおかしい。


「アンドロイド体で外観に影響するとかないわ、それ本体か?」

「ああ本体だ。何しろ脳みそがついてこれなくてダイブしたままだと無理だった」

「「「oh...」」」


この苦労人たる典型的アメリカ人は、俺が土星観光などをして楽しんでいた間、中間管理職としての仕事を覚えるために地獄を見ていたようだ。

後で土星の景色とか見せてやろう。


「さて、ハーヴェイの老けっぷりはどうでもいいからブリーフィングよ」

「えぇ……」


もはやツッコミ力すら失われたハーヴェイを放置し、今回のお仕事の概要がようやく知らされることになった。

といっても前々から予想していた通り、太陽系外延部、エッジワース・カイパーベルトに根付いている海賊の討伐である。


彼ら宇宙海賊はありがたいことに1勢力として全て纏まっているわけではないようで、いくつかのグループに分かれて行動しているようだ。

彼らが扱う艦船は各国の宇宙軍が使っているものがメインとなっており、ディスカバリーの艦船も稀に混ざっているが、それは鹵獲されたものが中心のようだ。

まあガチで命のやり取りすることになるので、当然俺らの中の誰かがこの先数週間で戦死するって可能性は十分にあり得る話である。


「うーん、脱走兵がメインとかいう話は聞いたが、コイツら海賊ちゃんたちのメシとかはどーなってるん、保護カプセルとかフルダイブ用アンドロイド体とかはディスカバリーくらいしかまともに運用できないっしょ?」

金銭的(資本金)な問題でディスカバリー以外の組織は確かにロクに太陽系外に出れてないわね!」


シルビアの解説は当然この後も続くが、その概要をまとめるとこうなる。

エッジワース・カイパーベルトから外側、他の恒星系にたどり着くまでの間には何もないかというとそういうわけがなく、実は光学的に見えないだけで沢山の天体がある。

で、そこで資源となるものを発見するためにうろちょろしまくっているのがディスカバリーの艦船であり、地球上の宇宙軍や民間企業の艦船から比べるとめっちゃ高価なお船なのがディスカバリーの艦船である。

そこを私掠船的に集団で襲って、うまいことヒヨコ野郎が乗ってるルーキーシップ1隻でも鹵獲できれば超おいしいんじゃね?という至極当たり前の論理から宇宙海賊が爆誕してるらしい。

もちろん、地球上ならば世界から超睨まれまくってまともに活動できないような国家も私掠船グループにこっそり出資したりしているそうで、物資とかその他モロモロの提供はそれら私掠船ファンドみたいなところから出ているそうな。


「うわぁ、地球勢力として一つにまとまらないの教科書通りじゃないっすか」

「完全にノセられてる国とか組織は実際にあると思うけど、こういう嫌がらせ……もとい彼ら曰く"進化を促す試練"含めての保護星系だからねえ」


そりゃ腹も立つってもんですわ……まああっさりノセられる奴らがいる以上、原始人扱いやむなしなわけであるが。

地球人からすれば圧倒的に進歩しまくっている技術や情報を渡しつつ、無理やり進化を抑制させる協定になっているので、今の地球はマジで歪みまくっている。

地球にいたころはそんなことは思わなかった……そこまで深く考えたりはしなかったし、突拍子もない――そして現実を知ってしまうと真実に近いとさえ言える――意見に関しては陰謀論者ワロスくらいにしか思わなかったものだ。


「てなわけで、大まかにこの辺にいそうっていうアタリはついてるから、まずは現地に飛んでフリート行動しながら索敵。うまいこと見つけたらお掃除って感じね。海賊艦1つでも潰せば任務的には達成だから気負わないように」

「「「「あいあいさ」」」」


それにしても"私掠船"ねえ、いったいどこの英語ネイティヴ国がそんなものを派遣してるのやら……(偏見


「いやあ、なんだか現代なのに大航海時代めいてきたんだけど大丈夫か」

『一番いいロマンを頼む』


何の話だよとタマヨリに突っ込みつつ、心のどこかで必ずその日が来るわかっていた、人生初となる"ガチで人をぶち殺す時"について思いを馳せる。

VR空間の話であるなら、現代のリアルになったゲームでも散々っぱら殺し殺されしてきたし、ディスカバリー社員になってからも訓練で……まあほぼ殺される側だが殺さなければ殺されるというやり取りはやってきた。

そう、今までそういうのは全部仮想現実だけの話だったのだが、これからはリアルで実際に殺し合いをする機会が発生するし、それは避けられないということである。


俺はこれまで、ディスカバリー社員となって心が折れた奴らはあの苦しい訓練中なんだろうと思い込んできたが、なるほどこういうものがあるとすれば、"人を殺した"という事実に耐えきれずに壊れた奴も相当数いるに違いないのだ。

俺が耐えられるかどうかはわからない……何しろ俺は日本人であってアメリカ人ではないので、おはようの挨拶の代わりに隣人の頭部にガンをぶっ放すことなんてしないからだ。


「いやアメリカ人だってそこまで世紀末じゃねえからな?」

「おっと、心のヴォイスが漏れてしまっていたか」


ハーヴェイのツッコミ・エンジンに火が入ったのを感じ、ようやくメンバーが揃ったという実感を得る。

俺はボケ(関西人)でもなければツッコミ(関西人)でもないので、こうやって苦労人の権化たるハーヴェイが復活してくれたことがとてもうれしいのだ。


「んーで、すぐに出るのか?」

「そうしたいところなんだけどねー、宇宙進出企業ってことで取材があるらしいの。だから出発は10時間後くらいねえ」

「しゅざい……シルビア頑張って!」

「アンタらもやるのよ」


このセリフの応酬の結末として「えぇ……」と困惑顔で返す俺ら。

もちろんこの取材をやることで、実際に記事(あるいはPR映像)として採用されるかどうかはわからないそうだ。

火星組以外の研修生たちも、時期は違えど教官ともども取材を受けたりするそうで、超絶不人気企業ながらもディスカバリーの理念通り、宇宙を身近にするための努力はコツコツやっているそうな。


音声付き映像インタビューとなると、ラーヒズヤは実際に厳しいが、テキスト文章+静止画像ならば記者が手心を加えまくればそれなりになるはず。

ガラッティはほぼ間違いなく映像のほうでイケるだろう。

俺っすか……本体だったら確実に不採用だぜフゥーハハハァ!


「ハァ~」

「お、|ネガティブ・フェデレーション《凡夫同盟》の兄弟じゃないか」


ハーヴェイが俺の肩にポンと手をのせて笑顔を向けてくる……ネガティブ・フェデレーションの挨拶はクソデカ溜息である。

ハーヴェイが思っているネガティブ面は今俺の悩みとは少しズレているころだろう。

俺は俺の容姿にとっくに諦めつけてるからわざわざそこで悩んだりしないし、記事が不採用ならそっちの方がありがたいと言えるレベルであるが、アンドロイド体でインタビュー受けろってなった時のことを考えると胃が痛いんだわ。


まあ、痛む胃がアンドロイド体にあるかどうかはしらねーが。

冒険譚や英雄譚の主人公的な人生に憧れを持つ人はいらっしゃいますか。

私は、脇役めいた人生のほうが自由度が高そうなので、そちらに憧れています。


まあ、我が人生自体が端役の権化みたいなものなので、仕事というもの以外では自由度にあふれているんですけどね。

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