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宇宙船から戦闘機、そしてクソ車

「ではこれが品物です。落っことしたりしないでくださいね」

「おっさん体に比べてずいぶん信頼性が上がったんだ、知能面以外の凡ミスは多分大丈夫」


疲れからか足が上がらないとか、長年の酷使による腰痛だとか、そういうのはアンドロイド体でいる限りは存在しないわけで。

何もない平坦な地形で躓いたりとか、何故か手の力が抜けて物を落とすとか、そういうのからは解放されたので割と快適だ。


不便な点を挙げるとすれば、身長がだいぶ縮んだため、歩幅が狭くなりすぎて相対的に歩行速度が遅くなったことだろうか。

もっともスタミナという概念から解放されたこの似非の肉体であれば、走り続けることだって可能だし、なんなら本体よりもずっと早いわけだが。


実際には種子島飛行場までは車で移動することになる。


「メイド服で、このクソ田舎を大爆走したら流石に目立ちすぎるわ!」

『いいじゃないですか、減るものでもないし』


愚痴を聞いてくれるような交友関係はそれほど広くないが、今ではそれをタマヨリが担ってくれるのは……ウレシイ、ウレシイ。

といっても、前職までの旧友というか悪友というか、今となっては懐かしい筋肉ゴリラやその他色々からメールなんかが飛んできている……まあ送信日時はだいぶ前だが。


火星ステーションは地球のネットワークからは外れているので直接連絡できない……まあ軍人が家族のためのクリスマスのメッセージ配達を俺に頼んだように、機密が絡むようなところは基本的にこうなる。

返信するにもNDA条項が絡んでくるが、こちらとしてはタマヨリに確認してもらえばいいだけなので特に問題はない。

例えば、火星ステーションからムーンベースに行って土星まで行ってとんぼ返りくらいなら伝えても全然問題はなかったりする。

なにしろ、太陽系内ならある程度時間かければ好き勝手飛び回れること自体は、グラヴィティ・アクセラレータがある以上だいたいの人がわかっているからだ。


今回何が気楽かというと、終わったらすぐに種子島に戻ってアンドロイド体をマンションにブチ転がし宇宙にいるアンドロイド体に戻る必要があるので、悪友どもにあっている暇がないことだろうか。


種子島飛行場に入場し、何故かそこにもあるディスカバリーの事務所によって、ディスカバリー専用の駐機場へと向かう。

政府肝いりの『民間企業』は伊達じゃないってことで、あっさりとF-108練習機の前に立った俺は、VR訓練で死ぬほどやった――比喩ではない。何故ならば、シルビアのいたずらでスラスタ点検中に直噴されて焼け死んだからだ――発進前のパイロット点検を行い、発信準備を始める。


「いやあ、俺もディスカバリー所属だからわかっちゃいるんだが……パイロットスーツも酸素マスクもつけないどころかメイド服で飛ぼうとする馬鹿なんて初めて見たぞ」

「すまんな、時間ギリギリなもんで着替えてる暇すら惜しい」


実際問題、アンドロイド体であれば耐圧スーツも酸素マスクも必要ないから着る必要はないが、当然VR訓練上ではちゃんと着ていた――現実の肉体をシミュレートした状態でしか訓練していなかったからだ。

単座ジェット機でブラックアウトすると結構大変なことになるから注意だ。

他のディスカバリー・パイロットたちも、地球で航空機のパイロット・シートに座る場合は、とりあえず着ることが多いそうだ――たとえ問題がなくとも、だ。


今回の場合、セリフの通りマジで時間ギリギリなもんで急がねばならん。

俺はいそいそとコックピットに乗り込み、コンソールの電源を立ち上げ、エンジンに燃料を送り込むためのスイッチを入れ、エンジンに火を入れた。

地球上にもAIはいて、仕事においてI.E.S.を使用している限りAIのサポートを受けられるのは前々から語っているが、航空機など事故などで重大なインシデントが発生する可能性のあるものなどは、脳波やAI制御ではなく、昔ながらの"スイッチ"類が主力だったりする。

ともかく、エンジンの回転数やオイルの温度が規定の値になったのを確認して、キャノピーを降ろし、滑走路までゆっくり進んで姿勢を整えたら、お待ちかねのテイク・オフだ。


「じゃー行ってきますわ」

「良い旅を」


管制とお決まりのやり取りをした後にあいさつ代わりの軽い言葉をかけ、スロットルを押して一気に加速を始める――アフターバーナー使うところまでねじ込んでしまうと流石に安定させられないのでやらない。

アンドロイド体の優秀なところは、こういう時に発生する莫大なGの影響を感じないところだろうか。

Gそのものの影響はゼロにすることはできないので体はシートに押し付けられているが、頭の姿勢は保持できるのか補正がかけられているのかわからんが、ともかく視界ががたがた揺れたりすることはなく、当然ブラックアウトを起こすなんてことだってない。

ともかくそうやって加速していき、速度が一定以上に至ればフラップなどを操作して上昇していけばいい。


ゴーグルはつけていないが、アンドロイド体としての視界にAR機能はきちんとついているので視界に表示されている航路アシストに従って飛べばいいし、事故や何かでパイロットのI,.E.S.リンクが途切れた場合には、サブシステムとしてキャノピーのシールドスクリーンがAR機能を代替してくれるので何も問題はない。


武装のない練習機とはいえ、フリーフライトするわけにはいかない……時間がないとかそういう問題ではないことに注意すべきだ。

そういうのはフライトシミュレーターでやるべきで、カーレースシミュもそうだが、地球内製のものでもマジで胸張ってドヤフェイスできるくらい出来がイイからおすすめである。

ともかく、管制から指示された航路を指定された速度で飛べばいいだけで、天候や風、空気の壁や重力の影響などの自然現象は忘れてはいけないものの、現実で宇宙空間をかっ飛ばしている今現在となっては、VR空間内での初訓練時みたいに当たり前のように墜落死したわけだが、当時感じたほどの困難さはもはやない。


というか何なら自動操縦システムで飛べばいいと思うだろうが、これはディスカバリーパイロット向けのモンキーモデルというかパワハラモデルで、自動操縦システムがオミットされている。

折角練習したんだから手動操縦で楽しめよこの野郎とかいっている3Mの笑顔を幻視できるようだ。


……やっぱり地球内で飛ばすのは難しいわ。


航路的には種子島から東の洋上を進み、八丈島付近で北へ転身し、その後は相模湾から厚木へと直行だ。

俺が今乗っているのは超音速戦闘機の武装がないバージョンだが、ディスカバリーは民間企業であるのであくまで民間機として扱われている。

恐らく日本の官僚や何やらが法律の解釈とかいうパンドラボックスをこねくり回してひねり出した結果ではあるだろうが――彼らの仕事の本領ともいえる!――、実際に乗り降りするのは空軍基地であるわけだが民間機であるのである程度は民間機の航路を使用する必要があるわけだ。

もちろん単独で基地に飛んで行って着陸なんてルール上できないから、途中……つまり八丈島付近からは空軍のエスコートを受けることになるわけだ。

流石官僚謹製のよくわからない仕組みだ、自分で言うのもアレだが何を言ってるのか全然わからなくなる。


そうやって飛んでいき空軍のパイロットたちと合流して厚木空軍基地に着陸するわけだが、もちろん垂直着陸機じゃないので、普通のランディングする必要がある。

といっても垂直着陸は結構難しいので、普通に着陸するほうがまだマシだったりする――うっかり横っ面に突風を受けたときの姿勢制御とか匠の技が必要だと思うわ。

降りたときの基地スタッフの唖然とした顔は面白かったが、その原因は今の俺の姿に全て起因することなので面白いものの笑えねえのは欠点だ。


その後は基地横にあるディスカバリー厚木支社で車を借りて、送り先まで届けることになる。

アンドロイド体ということでI.E.S.に常時接続されているためお巡りさんに免許証などのライセンス提示を求められることもない。

実体とこの体と見た目やら性別的なものが全然違うのはどーなんと思われるかもしれないが、2222年現在個人情報に性別という欄自体がなく、I.E.S.などで生体情報がデータベース化されているので顔面が多少どころではないが変わったところで何も問題はないのだ。


まあ、このハイティーン・ガールで39歳っていうこと自体は無理があるかもしれんが。


車での移動もやはりAR機能でナビが入るので、目的地がどこであろうと特に問題が起こることもない。

車自体は世界で昔から安価かつあんまり壊れない大衆車を供給してきた世界最大手のメーカーのもので、面白みもクソもないクソ車体のクソ車で、燃費の良さは最上級だ。

時速五百万キロメートルの宇宙船から超音速戦闘機に乗り換え、その後がクソ車では本当に面白みもクソもないのだ。

説明する気すら起きないとはこのことだろう。


というわけで田園地帯を抜けた一角にある閑静すぎる住宅地――神奈川内陸部は本当にド田舎だ――にたどり着いたのだ。

日時は12月24日の午後3時、この年末の閑静すぎる住宅地に、余りにも場違いなハイティーン・メイド・ガールが降り立つことになったのだ。


クッソ目立つ死にたい。

SF書くかファンタジー書くかで迷っていてそもそも投稿すること自体脳みそから追い出しきっていたあの頃に気づいたものの一つとして、所謂休憩回的なものを書くのが死ぬほど苦手であるという事実に直面したことがあります。


ネット小説に関わらずアニメでも漫画でも似たようなパートはあるかと思いますが、そういう部分って読み飛ばす傾向があるので、もう中の人の特性としてそうなのかもしれません。

多分、せっかちクソ野郎なのだと思います。

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