土星の環とデスヨネーの顔
Elite:Dangerousを購入した理由のうちの一つとして、(書いている物的な意味で)太陽系飛んでおこうと思ったのですが、初心者お断りゾーン(鎖国状態)で条件満たせず侵入すらさせてもらえませんでした。
まあ、母星系にドコゾの馬の骨いきなり入れてくれるわきゃないよなあと納得したものの、カナシイ
哀しいので、せめて文章上だけでも太陽系を好きに飛び回りたいと思いました(小並感
『あと30分ほどで日本ステーションの軌道に侵入します」
「オウイエス、ステーションにコンタクトとるかね」
土星に向かってすっ飛んできた俺だが、日本の航空宇宙軍ステーションはタイタンの衛星軌道上にある。
ディスカバリーのものと比べると幾分か小型であるが、その分宇宙上の様々なところに――出遅れたとはいえ――日本の名を冠するステーションがあったりする。
第三次世界大戦でヤンチャしたのは日本の一企業であるが、それまで何もしなかったかというとそんなことはなく、きちんと連合国の一員としてエロゲ兵もとい、チャイニーズ・パーフェクト・ソルジャーとガチの殺し合いをしていたわけなので、きちんと日本にも取り分自体はあったのだ――ムーンベース・プロジェクトの開始がWW3終結の10年後で、実際に完成したのはさらにその8年後、そのまた39年後にようやく日本政府はその重い腰を上げた。
土星の衛星タイタンは、地球の衛星である月よりもでかいが、月と同じように、自転と公転が同期しているため同じ面を土星に向け続ける星であり、地軸が傾いているため季節があったりする星である。
もっとも1年が"地球の29倍"という関係上、1季節の期間がクッソ長いため、この環境を名も知らぬ君やアイツが気に入るかどうかはわからないが。
「こちらディスカバリーの"流星"、パイロット名は"ヤマト・ナツキ"だ。来訪理由は仕事、だから着艦許可を求む」
『……承認します。ガイドに従いドックインしてください、どうぞ』
タマヨリとは違う女性の音声、この時間の管制は女性がやっているようだ。
ディスカバリーと違い、地球政府系のシステムにダークマター通信装置は組み込まれていない、だから宇宙航行速度で30分ほどの距離があると、ほんの少しのタイムラグが発生する――といっても光速通信ではあるのでほとんど気にならないが。
ディスカバリーのステーションには、ステーション用の超大規模シールド発生装置まで搭載されているようで、これまた政府系の建造物と比べると1枚も2枚も上手なのだが……
それでも、それでもだ……毎日土星の環とか見られる環境ってのは少しばかり、いやかなり羨ましくはある。
この先しっかりゼニを貯めれば俺も太陽系外に飛び出して、地球上の天文学者が"羨ま死"するほどの光景を肉眼で見ることになるのだろうが、現在の俺は宇宙小市民であり、土星の環の生鑑賞だけでも大感激状態なのだ。
「土星の環だよ土星の環。いやあ感激だなあ、肉眼で鑑賞できる日が来るとは5か月前までは思わなかったわ」
『それはよかった。土星へようこそ、我々は日本人であるあなたを歓迎します』
「しまった通信きり忘れてた」
あるあるジョークみたいなお手本通りのミステイクをぶちかまし、失笑されつつドックインをする……ついでに補給の申請を出すことも忘れない。
AR機能とネットワーク・リンクにより視界に表示されるガイドに従って解放口へはいり、実際の着陸シーケンスはタマヨリに任せればいい――手動で着陸もできるが、失敗すると大事故だ――ので簡単である。
着艦をし、気密を確認して艦から抜け出し、通用口へはいると軍の制服を着た男が一人、俺を待っていた。
「ようこそタイタン軌道ステーションへ。まさかとは思っていたが、本当に女性だとは」
「いや、俺は男っすよ」
しばらくの沈黙、からの乾いた笑い声。
いや確かに時代が進んでジェンダーなアレやそれもかなりオープンになったとはいえ、そうじゃねえよっていうかホントに男なんだってばよ。
とまあ幾らでもいえることはあるのだが、ジェンダーがフルオープン故に、お仕事リストで発注元に送られるパイロット・データには実際に性別の記載がない。
"見た目上"超美少女である以上、申し開きのしようがなかったりするのが現実である。
ついでにいえば、軍人さんもソレに対して深く突っ込み過ぎると藪蛇どころじゃない程度のコンプライアンス云々があるので、笑うしかないやつとかそういう感じである。
そう、オープンだとかフリーだとか言っているが、自由にツッコミいれたりすることもできない"ソノ世界"は、魑魅魍魎跋扈する底なしの沼地のままである。
「ま、そんなことはどうでもいいっすね。仕事しに来たわけですし」
「た、確かに!では、葛西少佐の所へご案内します!私は坂東です」
そうか、相手は葛西ていう人なのか知らなかった。
というのも、俺が直接請けた仕事ではなく、シルビアが請けて俺にぶん投げてきた個人依頼であるので、細かいブリーフィングを一切受けられなかったのが理由だ。
というか手抜きしたシルビアの失態であり、その失態に気づかないままここまで来ちまった俺の失態である。
ツッコミが移動中に来なかったということは、なんとかなるという証でもあり、帰還して報告するときにクッソドヤされるという証でもある。
……仕方ない、パンツを頭にかぶって突撃して許しを請うか。
とりあえず坂東君についていることにする。
坂東君が階級を言わなくてよかった、その理由は俺が民間人であるということもあるのだが、階級名乗られたらこっちも階級を示さねばならない気がするから嫌だったのだ。
このビショウジョ・ボディでH-1なんて発声したら、この健全な肉体と精神を持つであろう好青年のテンションが上がってしまうかもしれない。
などという非常にくだらない自意識過剰を心の中にしまい込みつつ移動しようとするが、0.1G環境って凄まじく動き辛くて難儀する。
羽飛ばない限りは天井に頭をぶつけたりはしないのだが、0.3G環境化レベルでの"歩行"をしようとするとかなりうまくいかない。
スムーズに移動しようと思うならスキップでもするかのような動きになる。
「なんだか楽しそうな感じになってきたゾ……」
「ハハハ、いいですね。だいぶ慣れてきましたか?」
スキップする好青年とアラフォーオヤジである……これ本体だったら結構やべぇ絵になるんじゃないですかね?
「さて、付きました。少佐は室内でお待ちです」
「ドーモ」
少佐殿への連絡はI.E.S.でさっくりとしてたんだと思う……この辺はマジで便利である。
階級がわからぬ坂東君にヒラヒラと手を振って別れを告げ、入室する。
「やあ、ケリー氏から連絡は受けている。よく来てくれた、私は葛西信一郎……失礼を承知であえて聞きたいのだが、成人はされていますよね?」
「ああ、余裕で突破してるよ」
頼むから「せやろか」って顔をしないでくれ……といっても、不幸な行き違いについて延々と議論をするつもりはない。
なお、現代日本の成人年齢は18歳で、選挙権やらなにやら、日本国籍を持つ人間としての義務も権利も全てその年齢で付与される。
「では仕事の内容ですが」
「おっと、そうだった。実は娘へのクリスマスプレゼントを贈るのを忘れていてね、ビデオメッセージを作ったから送ってほしいんだ。私用で回線を使うわけにもいかなくてねえ」
ん?と思って指折り数えて今の地球のカレンダーを計算してみる。
そうか、もうそんな時期だったか……あ、俺39歳になってんじゃんどうでもいいな。
「すみません、もう5か月以上地球に帰ってないので、その時期だということを完全に失念していました」
「ハハハ、私もそのクチでして」
そういうことなら、さっさと送ってしまおうじゃないか。
とはいえ、データの受け渡しはどうするんだろうか。
「ではこれを……チップに書かれている通り、検閲済です。細かいことは地球のディスカバリー社に戻ってもらったときに説明があるはずです」
「あ、どうも」
そういえばケリーって誰だよって一瞬なったが、そういやシルビアの苗字はケリーだったなあ……ジョークマンとかスピーカーとかトーカーとか、そのあたりが苗字だと思ってたわ。
そうか、クソザコルーキーの体験ミッションってことであらかじめ連絡というか通達がある、というよりはむしろ、「なんか雑用ない?」って感じで営業周りとかがあったのかもしれない。
クライアントからの仕事の種類ってのは様々だが、そのクライアントも様々で、組織――所謂地球上の国家だったり会社だったり、宇宙にいる軍だったり色々だ――から個人、つまり今回のようなものまである。
個人からの依頼の場合は、今回みたいに急ぎのことが多いようで、太陽系内での移動手段が限定されていることもあって、仕事自体は簡単なように思えても期限的な意味で大変だったりすることが多いようだ。
今回のもそうだな、ゆっくり土星の環を鑑賞する暇もない……少しくらいなら捻出できる。
「じゃ、早速行ってきます」
「ええ、よろしくお願いします」
葛西少佐殿に別れを告げて室外に出ると、階級がわからん坂東君が俺を待っていた。
「ではドックまでお送りしますね」
「ドーモ」
彼に気に入られたとか何かイベントがあるとか、そういうんじゃない。
ここは軍の施設なので、部外者である俺が余計なところに行くのはまずいわけで、その案内人が彼というわけである。
「ここ5か月ほど、日本人を一人も見なかったんで逆に緊張しますねえ」
「やっぱりディスカバリー社には日本人ってあんまりいないんですねぇ……」
お互いデスヨネー的な表情でしみじみと会話しながら見送られることになった。
銀河系に蔓延る上位な勢力の方々が地球に押し付けたわけのわからない理論には、モデルといっていいかどうかわかりませんがモデル的なものはあります。
例え自分たちのほうがイミフなことをやっていたとしても、田舎の凡夫がヨチヨチ歩いているのを見てしまったら、したり顔でお説教したり導いてやらなければいけない義務感があるのです。




