日給5000ドルの超絶貧民層
遅ればせながらウィンターセールでようやくElite:Dangerousに手を出しました(なお暇
ともかく、ラーヒズヤと別れてグラヴィティ・アクセラレータの準備に入る。
月面付近から土星に行くまでは、火星、木星の公転軌道を通り過ぎたさらに先で、だいたい13~15億km、現在の距離でいうとほど9auほどの距離を走破しなくてはならない。
また、火星から木星の間には小惑星帯……つまりメインベルトがあり、うっかりグラヴィティ・アクセラレータでまっすぐに突っ込むと、無事デブリになってしまうというオマケツキだ。
もっとも小惑星帯といってもギッチリミッシリと敷き詰められているわけではなく、かなりスカスカなので通り過ぎるだけならば難易度は高くない。
といっても、距離2-3auほどの場所にあるのがメインベルトであるので、ドストレートにメインベルトの安置を抜けていこうと思うと誤差コンマ沢山ゼロが並んだ1度とかいう精度で走り始めなきゃならんわけだが、そういうめんどくさい部分はAIに任せればいいので、現代は気楽だ。
グラヴィティ・アクセラレータを使用している間は、ほとんど方向転換が効かない。
どのくらい言うこと聞かない悪い子状態かというと、映画とかゲームで稀にあるような、双発エンジンのうちの片方が吹っ飛んで、筋肉で無理やり操縦桿引き続けてなんとか事故を回避できるかできないか……みたいなノリの重ったるい感じになる。
この理由は、1G(地球相当)だの10Gだのを発生するクッソ大質量の見えない何か、が重力点なわけで、ソイツごと動かさにゃならんわけだからそりゃ曲がれないよねってなるわけです。
それでも微妙に曲げられるあたりが、純地球製ではないんじゃないかという秘かな疑問を抱かさせてくれる。
『重力井戸圏を離脱、グラヴィティ・アクセラレータの使用が可能です』
「オーゥイェス(ノブトイ・ヴォイス)、じゃあ最大出力で頼んまあ」
『Gravity Accelerator……Active』
"俺好み"の無機質なロボットヴォイスで艦船の機能のうちの一つがアクティベートされたことが知らされる。
AIやらなにやらの進化はここ200年ほどでもとにかく著しく、ロボットやAIの喋りの違和感ってのはほとんど感じられなくなってきているといってよく、タマヨリレベルのAIまでくると肉体がないだけの人間としか思えないレベルだ。
しかし古き良きロボット音声の良さってのは、この時代でもわかる奴にはわかるって感じで、流行とかそういうレベルではないが、秘かにしっかりと未だに息づいていたりする。
"マイワイフとしての女性型AI"にしか興味がない層には理解してもらえないだろうし、現代AIは相当進化してるから、この古典的な趣味の同士はあまり多くない。
まあ、2000年代初頭から転生してきた奴――嘘か誠か、前世の記憶持ちを自称するやつはどの時代でも少数いる――と話をする機会があったりすれば、存外良き友になれるかもしれない――むろんソイツがマイワイフ教団員ではないのいうのが前提条件だ。
さて、9auの距離ともなるとグラヴィティ・アクセラレータだけで行こうとすると20Gだろうが30Gだろうが、どうしてもかなり時間を食ってしまう。
そこで、核融合パルススラスターにアフターバーナーも含めてとにかく速度を稼がねばならない。
核パルススラスターの原理自体は数百年前から考案されていたようで、その理論上における最終速度はなかなか馬鹿にならないものではあるが、結局最終速度に至るまでの加速に時間がかかるという意味では変わりがないし、通常航行である以上、強い慣性による機体への負担などが強いというのは以前申し上げた通りだ。
コルベット艦に搭載可能なグラヴィティ・アクセラレータの最大出力状態で12時間加速した場合の最終速度は凡そ8,500,000m/sであり、そこから今回は慣性移動ではなくアフターバーナーなどで追加の加速を行う。
機体などにかかる負担やアフターバーナーを吹かすことによる燃料の消耗などは今回は目をつむることにする……納期厳守は俺たち底辺労働者の共通スローガンだからだ
。
タマヨリの試算によれば、スムーズにいけば片道36時間以内で済むので期日以内に収まるはずだ。
グラヴィティ・アクセラレータはアフターバーナーやスラスターを全開にした時と比べると、燃費と速度的な意味のコストパフォーマンスは圧倒的であり、それだけで考えても地球人にとって超技術であることは間違いないのだが、星系外の勢力にとっては子供のおもちゃレベルであるだろうという想像は、こういう距離になってくると多分マジなんだろうなと思えてくる……考えれば考えるほど便利に感じない。
期日というものが伸し掛かってくると、太陽系内というクッソ狭い領域での話でさえ、一気に難易度が高くなってしまうのだ。
「ヤベェな、マジでワープドライブが欲しい。使ったことないから想像もできんが、絶対にこれよりは便利なはずだ」
『そうですね、H-1ではワープドライブの詳細な機能とか開示してもらえませんからね。ヤマトが昇格しないとタマヨリでも調べられません』
「哀しいなあ、哀しいなあ……」
そういえば、アステロイドベルト……太陽系内ではメインベルトと呼ばれている小惑星地帯だが、鉱物資源が取れる。
しかし、ディスカバリー社では鉱物資源の採掘は自主的に規制されているらしい。
というのも、太陽系中央部の資源はディスカバリー社以外でも活動可能なわけで、、俺たちが採掘業をやるためには最低でもエッジワース・カイパーベルトまで飛んでいかなきゃならんとのこと。
そこで鉱物が採れるのかどうかは知らんが、とりあえず氷……つまり燃料となる水資源は採れるんじゃないかとは思う。
ディスカバリーの火星ステーションに艦船を提供しているのはヤハタ・ヘヴィ・インダストリーという会社だが、日本におけるヤハタ・ヘヴィ・インダストリーは、ネットで調べる限り町工場だったりする。
その他のディスカバリー拠点であるステーションに常駐している造船業者も、地球においては無名の会社ばかりらしいが、それぞれが、太陽系外の技術というか製品を組み込んで、太陽系最高の艦船を作ることのできる会社でもある。
このあたり、政治的なものがかなり絡んでいそうな感じがするが、宇宙の何でも屋さんたるディスカバリーの下っ端には関係ないことなので、割愛するっていうか俺に知る由もないって話である。
『そろそろメインベルトです』
「お、もうそんな時間か。じゃあ予定通りグラヴィティ・アクセラレータを切ろう」
加速を始めて12時間、火星から月へ、そしてまた火星軌道を超えるまでほぼずっとアンドロイド体にフルダイブしているわけで、5か月前ならとっくに脳負荷レッドアラートであったが、保護カプセル効果に加え慣れもあり脳負荷は平常時レベル、というかぶっちゃけ地上で日常的に暮らしていたころより平穏だったりする。
実際にずっと起きているわけではなくきちんと睡眠・休息をとっているのだが、カプセルに本体をスヤァさせていると、アンドロイド体でスヤァして起きてもアンドロイド体のままなのである。
どういう仕組みになってるのかさっぱりわからないが、地球人にとってはオーパーツなので仕方ないし、本体をカプセルから引っこ抜かない限りはアンドロイド体のままでいるしかないようだ。
訓練時は、火星軌道まであるいは、火星から月軌道までに10Gで4時間加速して二日間ボケっとして到着みたいなノリであったが、今回は時限性のミッションなのでのんびり航行してる場合じゃない。
今回は、20Gで12時間加速だ現在の速度は8.4million m/secであり、ぶっちゃけるとそんなトンデモ速度でも、周りに何にもないため早いんだか遅いんだか俺にはよくわからない。
メインベルト、つまり火星と木星の間にあるアステロイドベルトだが、前述の通りみっちりと詰まっているわけではないので通過するだけなら簡単なわけだが、なるほど、遠く前方に見えていた、というかシールドスクリーンに強調表示されていた小惑星のうちの一つが肉眼でも視認できるようになり、「おっ」と言ってる間に通り過ぎていたりするので、やっぱりすげー早いんだろう。
「そういえばあ、フリート任務ってなんだろうな?」
『データベース上にある過去の記録を閲覧する限り、哨戒じゃないでしょうか』
ほーんと鼻くそほじろうにも、アンドロイド体だと鼻くそ自体が出来上がらないので鼻の穴に指を突っ込んでも仕方ないのでやらない。
「太陽系にもやっぱり、海賊いるんか」
『しっかりいますよ。ヤマトが研修入りしてからの5か月間で、7件の討伐記録があります』
いるんだ、海賊……でもなあ。
「誰が海賊になるってんだ、こんなド田舎で……まさかディスカバリー社員とか?」
『いえ、ディスカバリー社員が海賊化する例はほとんどなく、近年ではゼロですね。というのも太陽系で海賊行為を行う旨味がないからです。そんな暇あるなら系外星系に出稼ぎに行ったほうがましです』
「デスヨネー」
例えば、研修中の俺の給与は1コマ1000ドル、つまり5000ドルで地球人換算でいったらトップアスリートよりも稼いでいる計算になる。
が、ミルキーウェイ秘密協定とかいう協定の一部に、星系内通貨――米ドルだ――と銀河系主要勢力との通貨レートが定められたわけだが、1000ドルで主要勢力の通貨1という交換レートである。
つまり日給5000ドルのスーパー・セレブだと思っていたら、銀貨規模になってしまうと日給5円(通貨名は仮だ)での超絶最底辺クソザコアラフォーオヤジというのが実情なのだ……パンも食えねぇぞこれじゃ。
もちろん主要勢力の仕事を受けて、その成果が5円なんてことは絶対にありえないわけで、報酬の一部はディスカバリーに納める必要があるということを覗いても、太陽系でギャングやろうという選択肢をとる必要性なんてあるはずがない。
ミルキーウェイ秘密協定という固有名称と、交換レートを知ることができたのは、俺たちディスカバリーのパイロットは、星系外に飛び出して活動する日が来るからである。
地球でこんなこと言っても頭おかしなオッサン扱いしかされないため特に問題はないが、頭おかしなオッサンに見合った鉄格子つきの病院にぶち込まれるだろうから、喋らないほうが身のためである。
まだアメリカの陰謀であるとか言ったほうが、信ぴょう性がありそうな気がしてくるってものだ。
「じゃ、誰が海賊なんてやってんだ。どっかのヤンキー星系とかの馬鹿か?」
『太陽系まで出張ってこれるようなヤンキー星系の蛮族がこんなクソ田舎で海賊やる意味もないですね。政府軍の脱走者が中心となっているようです』
「稀にいるディスカバリー出身の海賊って、ようするにお山の大将やりたかった勇者様気質の馬鹿野郎か?」
『黙秘します』
海賊なら海賊で、海賊なりの規律が必要で、チームワークも必要だ、というか海賊であるからこそチームワークが必要だ――というのも数こそがパワーであるだからだ。
勇者様気質の馬鹿野郎は海賊にすら向いてないということは心に刻んでおくべきである。
宇宙に出てきてつくづく思うことが一つある……宇宙って社畜向きだわ。
それにしても軍人が海賊化ねえ……まさか、私掠船じゃねえだろうな?
ミルキーウェイ秘密協定と保護星系 その3
故に、新たに宇宙に飛び出そうとしている勢力を簡単に滅ぼさせるのは得策ではないし、滅んでもらっては困る。
どこが最終的に覇権をとるかなんてわからないし、味方に引き込んでみて、あるいは味方となってみると有用かもしれないからだ。
俺たち地球人と比べると、積み重ねてきた成功と失敗という歴史の数という重みが違う。
殴り合うかもしれないし手を取り合うかもしれないが、今はとにかく成長をさせて様子を見てみようなんて達観した感性は、地球人……宇宙における原始人にはないものかもしれない。




