ウォッカ・パワーズ・ストーリー
予定通り1週の休暇をいただきまして投稿開始です。
流石に体力の限界を突破して週頭に風邪ひきまして治ったと思ったら週末にぶり返しましたねえ(想定外
俺たちが乗っているコルベット、ルーキーシップは星系内――ここでは太陽系の事、の活動を主目的とした艦である。
所謂太陽系外に出たければワープドライブが搭載されるフリゲート艦以上のものに乗る必要があるが、すげえ頑張ればルーキーシップでも太陽系外に出ることはできる。
それを無理やりにでも可能にしているのがグラヴィティ・アクセラレータという駆動装置だ。
地球の歴史で往々にして登場してきた天才という奴の一人で、そういう変なのを生み出す国は紅茶中毒だったりパスタ野郎だったり緑茶マンだったりジャガイモエールクソ野郎だったりと色々あるが、今回は畑で収穫できるウォッカ男の話だ。
コイツの初期理論が確立されたのは2091年、ロシア人科学者であるダニール・グラドヴィッチという男だ。
もちろん最初から"重力点"生成を目指したわけではなく、当然だが、現代で使われている移動手段として考案されたものでもない。
遠心力に因らない人工重力というサイエンス・フィクションを現実にするための装置である――多分彼はウォッカを飲み過ぎたんだと思う。
案外忘れられがちなのだが、宇宙船なんかで重力を発生させようと思うと、古典SFのスペースコロニーのように、あるいは現代太陽系で使われているステーションのように、回転による遠心力で発生する重力を使うしかない。
そうなると、宇宙船の構造が動じても二重丸のような形状になってしまい、個人的にはかなりロマンのあるデザインになるとは思うのだが、宇宙船用途としてはちょっと考えればわかると思うけど、実用的であるとは言えない。
脳みそウォッカ漬けである彼の理論であるが、それでも現実的に可能とされ、それでもなおかつ不可能と判断されてしまったその理由のうちの一つとして、2091年時点では装置そのもののサイズがあまりにも巨大であるため、装置を宇宙空間に打ち上げるためのコストが莫大すぎたというものがある。
当然ながら、1Gを発生させている地球の重力井戸上ででかい重力を発生させるリスクを考えれば宇宙空間上で実験するしかないわけで、当時の技術でちょっとした小惑星サイズになると思われていたその装置は、持て余さざるを得ないというわけだ。
それでも、ロシアン・ウォッカマンの行動力をなめてはいけない。
彼は2108年に重力生成装置のプロトタイプを作成してしまったのだ!――当然の話であるかのように語ってみるが、そこは地球上で……これまた当然だが稼働することもなく解体されたわけだが。
そんなダニール・グラドヴィッチの望みは、彼の死後でもあり、第三次世界大戦終結後である2140年代に日の目を見ることとなる。
"束の間の平和"である戦間期に入ると、その次に起こるのが技術開発競争であり、WW2後と同じく宇宙開発競争だったのだ。
当然ながら、基礎理論をそのまま形にしようと思うととん挫することになるのは、ダニール・グラドヴィッチがウォッカをブラザーとして行ったことからわかる通りで、重力発生装置プロジェクトが国際的な枠組みで決まったその翌年に、国連管轄としてムーンベース建築プロジェクトが発足することになる。
そう、地球上で作って宇宙に打ち上げようと思うから無理が出るわけで、宇宙空間上でやらなきゃならんことなら、宇宙で作っちゃえばいいじゃない!というわけだ。
準備のための準備のための準備……という感じでムーンベースプロジェクトがクソ真面目かつ猛烈な勢いで開始され、完成したのが2150年の後半である。
宇宙開発競争であるのに、ムーンベースプロジェクトが国連管轄だったのは、1国あるいは少数の同一勢力だけでやるとまた大戦争あるいは冷戦になりかねないという懸念があることと、少数の国の独占ではコストがかかりすぎるということである。
国連なるもの、あるいはそれに準じる組織の信用度や実行能力っていうのはどの時代であってもクソみたいなものであるが、うまくやればうまく利用できる組織であるので、そういう時だけはきっちり利用するのが政治という名前の悪魔なのだ。
月の南極に最初の月面基地が建築され、稼働開始した直後の2152年、これは一般人には知らされておらず、ディスカバリー社員である俺も大まかにしか知らされていないことだが、ミルキーウェイ秘密協定という、系外知的生命体との協議があった。
これは、初期宇宙進出惑星である原始人な地球を保護、教育してあげるけど惑星統一政府は禁止な!という協定であり、これ以降宇宙開発の速度がゆっくりと加速していくわけだが、想像力豊かな陰謀論者の勝利ともいえる。
さて、栄えある最初の重力生成装置実験は、これまた唐突に湧いて出てきた核融合炉の技術が確立された直後の2154年に開始され、俺はまだ生まれてすらいないわけだが、当時はTVやネットで実験を生中継するという凄いことになっていたらしい。
なお、実験自体は超大型核融合炉がフルパワーでエネルギーを産出することによって発生した重力により、周囲の観測衛星や宇宙船、小惑星なんかが一気に引き寄せられ崩壊しながら周回しつつ落下していき、最後にはその圧力に耐えきれなかった生成装置も崩壊して、全部まとめて大爆発して終了した。
ある意味大成功であり、別のある意味では失敗であり、そりゃそうなるよとしか言いようがない結果である。
多分、太陽系外では原始人が面白いことやってる的な感じで大爆笑されたはずだ……そうでないなら失笑だろう。
そこから6年後に"グラヴィティ・アクセラレータ"が発表されたわけで、その6年の間に何があったかというのは俺ですら知ることのできないナニカであるが、常識的に考えればウゾダドンドコドンレベルの話であり、ミルキーウェイ内の各種勢力が色々手を貸したであろうことは想像するに難くない。
そういえば言ってなかったかもしれないが、ミルキーウェイも統一されておらず、各勢力が群雄割拠しているわけだが、保護星系という枠組みは、普段から様々な手段で殴り合っているミルキーウェイの各勢力の全てが同意して成立するものである。
そんなわけで地球人にとってミルキーウェイ各勢力は概ね味方――とは言い切れないかもしれないが少なくとも敵ではない――でもあるのだが、"地球"という勢力としてどこか特定の1勢力に加担することはできないのだ。
多分、何かしらのきっかけでパワーバランスが崩れるのを防ぎたいという思惑があるのかもしれない――誤解があるかもしれないので言っておく必要があるのだが、"地球だけ"がどこかの勢力下にはいったところでパワーバランスへの影響は全くない。つまり、保護星系は地球以外にもあるということだ。
そんなわけで、ルーキーシップのシールドスクリーンから肉眼で見れる外部、つまりルーキーシップの先端部分をよーーーーく見てみると、ほんの小さな領域だけ、光が歪んで見えることがあるのがわかる。
本当に注意して、基本真っ黒な宇宙でたまたまそこを通る光点とかが重ならない限りはわからないのだが、事象の地平面的なものが見えたりする。
そこにある極々微細な点に等しい何かが、黒い穴的なアレであったとしてもそうでなかったとしても、そこに対して深くツッコミを入れたいとは思わないし、おそらく俺たち全員気づいているだろうけど、誰もそれについては何も言ったりしない。
その黒い穴的な微細な点の発する重力が、指向性をもって、ルーキーシップだけにGを発生させているなんてクソみたいな現実を直視してしまうと、Sanityが一気に削れてしまう気がするからだろう。
俺たちパイロットにとって重要なのは、その仕組みが何であるかとか、誰が開発したのかとかではなく、それが有用かどうかだけなのだから。
さて、コイツの利点は言うまでもなく、コイツを利用した加減速を行う場合ほとんど慣性によるダメージを考慮する必要がなく、放っておいても馬鹿みたいに直進加速し続けられることが一つ。
もう一つは重力点を発生させるときと、崩壊させるときに多めのエネルギー消費があるが、維持にはほとんどエネルギーを使わなくてもいいことの二つが挙げられる。
機体のケツ側に発生させることでブレーキとして機能させられることも挙げるべきだろうか……減速・停止の感覚をクチで言い表すのは難しいが、真上に放ったボールがエネルギーを失うとともに減速し停止するという感じで、停止付近でケツ側の重力点を崩壊させないと、後ろ向きへの加速が始まってしまうので気を付けなければならないが、慣性によって引っ張られたり押し出されたりする感覚がないのが特徴だ。
メインスラスターの核融合パルスでも、ほとんど抵抗となるものがない宇宙空間において、理論上ならば延々と加速し続けることが可能なのだが、燃料――宇宙でも比較的入手しやすい水ではあるが――という問題はどうしても付きまとうことになる。
それこそ光速の云パーセントの速度~という世界で飛ぶことだって可能だろう。
そういう感じで通常航行する場合に最大の障害となるものは慣性――Gと言ったほうがわかりやすいだろうか――だろう。
例えば生身でパイロット・シートに座っている俺が、核融合パルススラスターを全開にしながら操縦桿をグニグニと動かしたら死ぬし、動かさんでもパイロット・シートに押し付けられて潰れて死ぬ……もちろんアフターバーナーを炊いても圧力で死ぬ。VR空間上ならばいくら死んでもかまわないが、現実で死んだらそこまでよなのでいちいち死んでいられない。
もちろん艦内の内装だって耐えきれないだろうし、外装だって相応に寿命を縮めることになるはずだ。
そんなわけで艦の体積というか質量ごとに、通常航行における最大速度のリミッターって奴が設けられていて、グラヴィティ・アクセラレータによる加速にはそれがない。
欠点は、ユーラシアのウォッカ面たる謎テクノロジーをどこまで信頼したものかということが一つ。
稼働中はほとんど曲がることができないということが一つ上げられるだろう。
恐らく星系外の超テクノロジーが注入されているので、変なことにはならないはずだが、信用するにしたっていくらなんでもアレすぎる。
まあ、ワープドライブやジャンプドライブといった超絶テクノロジーだって、座学で聞いた概要を聞く限りぶっ飛び過ぎてて理解不能なんで、もうここは悟りの境地に至るしかないのだが。
ただまあ、今目の前にあるだろう、俺には見えない"黒い穴"は本当に俺たちの知る"黒い穴"なのかと言われると、冷静に考えると微妙なところでもあったりする。
俺の知らない"黒い穴"の可能性だってある。
いや、もし俺の妄想が当たっているならば、今目の前にあるコレは「俺の知る黒い穴」なのは間違いないのだが、「俺たちが考える黒い穴」とはちょっと違うというだけの話だ。
そしてこの妄想が当たっているならば、ユーラシアのウォッカ面がかなり薄まることを意味しているというだけの話だ。
人間辞めさせればどれだけ早く飛んでも曲がってもなんとかなるのでしょうけれど、人間辞めずに人間以上となるために地球人が必要としたのがフルダイブでした。
ただしお船のほうも同じく無敵ってわけにはいかないので、バラバラにならない程度のリミッターはやっぱり必要です。




