表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
29/62

高度50マイルの絶壁には、カーマン・ラインという名の女神が住んでいるという

やっと宇宙に出ました。

「さーて、お互いの理解が進んで場が和んだね?そろそろ出発するから管制の言うことをちゃんと聞くように。とりあえずの目標はムーンベースね」


5か月ぶりに地球に帰還……というか、地球への最接近である。

タマヨリが現在の火星・地球間の距離を算出してくれ見せてくれる、凡そ7600万kmと出て、ほぼほぼ最接近クラスかなあ。

というかミッション・ブリーフィングとやらは数秒で終わった……つまりとりあえずの目的地だけだ。


宇宙社畜として地球を空から眺めてみようなんて言う牧歌的な目的があるわけではなく、シルビアがムーンベースからの依頼を請けて、俺らヒヨッコを引き連れて仕事しに行くという体である。

ではどのような仕事なのか、俺たちの役割は何なのか、というのはフリートミッションの場合は、基本的に(特に下っ端には)あまり開示しないらしい。

この辺り実に軍隊的であり、俺は軍人でも何でもないが、おそらくそれが一番効率がよく正しいことなのだろうとは思う。

下っ端は目の前の仕事や指示をきちんとこなす、というのが最初にして最大かつ最後の仕事であり、それ以外をやる必要はない。

ましてやH-1クラスが受けられる仕事というのは実は何もないので、俺がディスカバリーのミッション・リストを覗いても何もない――正確に言うとシルビアからの共同業務(フリート)のお誘い、がそこに表示されることになる。


逆に、|フリート・コマンダー候補生《H-3》でもあるハーヴェイにはある程度今回の仕事の概要がは開示されているはずで、彼のテンパり具合をシルビアが面白そうにツッコミ入れているのを聞く限り、おそらく正しいはずだ。


『ハ~イ、ヤマトォ?』

「その声帯まで筋肉なマッシヴ・ヴォイスは3Mだな、なんで管制からの通信で3Mが?」

『そら乗っ取ったんだからそうなるよ』

「乗っ取るんじゃねえよ」


最近出番がないからって出しゃばるんじゃねえとまでは言わないが、管制の人だって仕事なんだからそれを奪っちゃいけねえよ。


『マァマァ、いいじゃない。さて、進路はグリーン、いつでも飛んでいいよ。楽しんできな!』

「何いい話めいた感じにしようとしてるんだ。ともかく了解、じゃあいってくらぁ!」


当たり前の話だが、ドックから出発するには下部のスラスターをフカして垂直離陸する。

ドックに着陸しているときにどうやってステーションの床に固定されているかというと、磁力だったりする……磁力の軛を外して、VTOLで上昇すればあとはまっすぐ飛ぶだけで宇宙空間に飛び出ることができる。

出発シーケンスで、ドック内のエアが抜かれ真空になるので、気体を揺らすような風が起こったりしないし、ステーション内の重力は0.3Gであるので地球上で垂直離陸をするより難易度はずっと低い――ようは天井にぶつかるような勢いで上昇させなければいいだけの話だ。

姿勢制御とか、ブレーキのためのスラスタ噴射なんかはAIに任せちゃえばいいので、地上でデジタル技術満載の車を運転するが如く快適である――もちろん地上の車のようにAI制御のサポート機能をOFFにすることもできる。


ステーションドックやステーションの至近距離内ではある程度の制限がある。

一つは速度制限だが、これは俺がやっているような通常出港しかないステーションに適用されるもので、カーレースなんかにあるピット速度制限みたいなもので、カタパルト出港のステーションではとんでもない速度でまっすぐにぶっ飛ばされるので、制限は【一定距離までは方向転換や減速をしてはいけない】となる。

もう一つが速度制限に近いが、アフターバーナーの使用禁止である。

こいつに関してはわかりやすいだろうが、ステーションにダメージ与えかねないので単純に禁止されている。


あえて言わずともわかるだろうが、武装も基本的に使用禁止である。

豆鉄砲でステーションに攻撃仕掛けてもシールドも装甲も抜けないし、逆に一瞬でスクラップにされるので使う意味もないが。


スロットルを少し押し込むとステーション発艦モードになる、所謂微速前進的なもので、といっても10m/sほどの速度は出る――メインスラスタは核融合パルス推進なので使用できないので、サブスラスタを使用する。

俺たち地球人が、『宇宙でやっていく』ために必要だったのは星系外知的生命体による保護と技術提供だったが、俺たちが『宇宙に出る』ために必要だったもののうちの一つが、スラスタやジェネレータに使われている核融合技術だろう。

燃料が水になるというのも大きく、地球においても水資源は無限大というわけではないが、宇宙でも比較的簡単に採取できる資源であるので、俺たちにとってはありがたい話なのだ。

核分裂反応どまりの技術力ではどうにもならなかったわけで、そのためディスカバリーや各国の宇宙軍などが本格的に宇宙に進出し始めたのが、第三次世界大戦後……つまり最近の話ということになるわけだ。


ぶっちゃけ、この辺の技術革新や技術提供などは時期的にかなり重なっているものが多いため、陰謀論者が色々とつまみ食い的に知る機会があるならばかなり捗ることだろう。

安定して宇宙空間で活動できるかどうかっていうのは、200年ほど前の技術力からほんの少しの後押しがあるだけでよかった、ともいえる。

ただし、そのほんの少しが絶望的なまでに高い高い絶壁であるというだけである。

そう、運命の女神って奴は絶壁……いやこれ以上言うのはやめておこう、なんだか俺が死んでしまう予感がするんだ。


ともかく、ステーションの壁を抜け、宇宙空間に出る。

チラと視線を横に動かすと、ステーション内のプライベート・ルームで散々穴が開くかのごとく睨みつけてきた火星が見える。

見える、ということは現在位置的に太陽光はその逆で、所謂昼間的環境で結構明るい……つまり、宇宙空間に出れば満天の星空っていうのは嘘だ。

太陽光が顔面直撃するような位置関係だと思った以上に明るいので、その光量にボカされて遠くを見ても黒い空が広がるだけだったりする……代わりに"夜間"区域に入ると、それはもう地球上では体感できないレベルの「まんてん!」が見られるわけだが。

もっとも、火星から太陽までの距離は1.5AUほどあるので、真夏に該当する時期でも地球よりは少し優しげに見えるわけだが。


そして今の俺はソロで飛んでいるわけではない。

左右を見るとほぼ同じタイミングでドックから飛び出してきた俺の親愛なる同僚共のYHI-100たちと、シルビアが駆るデストロイヤークラスのヤハタ艦、『YHI-2500』がいるわけだ。

所謂海の船と同じように、愛称というか艦種名があり、YHI-100はそのまんまの『ルーキーシップ』であり、100番台の艦種名はどの国、どの企業の間でも同一名称だ。

ヤハタの2000番台は駆逐艦であり、2500番の艦種名は「テッケン」である……なお直系下位互換である1500番、フリゲート艦は「ゲンコツ」だったりする。

テッケン、ゲンコツ艦はもう文字通りのヤハタ魂を体現する艦種であり、とにかく敵に大量の弾丸をぶち込んで、こちらがスクラップになる前に敵をぶち殺すということにとにかく傾注した艦種だ。

カチコミする時にこそ輝く仕様となっているので、ぶっちゃけ太陽系内でこれを持ち出してもまず使い道がない。


「ゲンコツ艦はいいわよー、燃費悪いしとにかく死ぬほどピーキーだけど楽しいのよ」

「新人に変な宗教を勧めないでやってくれませんかね」


"フリートの副官"たるハーヴェイが胃が痛そうな声でシルビアにツッコミを入れている……頑張れハーヴェイ、負けるなハーヴェイ。

俺は文字通りの木っ端かつ下っ端なので、曲がりなりにもフリート・コマンダーであるシルビアの発言中にそれを遮ることなんてできないのである。

所謂ツッコミ体質である俺とガラッティは、VR空間でのフリート訓練時にうっかりツッコミ入れるたびに、口からクソを垂れる前と後ろにサーを付ける罰ゲームを課せられ続けることになったので、いい加減学んだというわけだ。


「まーまー、いいじゃない。いっぱい稼げば色んな船に乗れるから、その時が来たら色々試してほしいのよ。カタログスペックだけみて無難なのに乗るよりは、乗って気に入った子のほうが長生きできるってもんよ」

「ハァ~……」


クソデカ溜息ハーヴェイマジ勇者。


「さて、そろそろ向かうよ。ヤマトはネットワーク・アクセラレータを起動してフリートリンクを。フォーメーション指示をARに出すからその通りに、あとはこっちで制御するから」

「「「「アイサー」」」」


アイアイサでもアイサーでもイエッサーでも了解でも実は何でもいいのだが、俺が何となくアイアイサー系統を使っていたらそれが定着してしまった。

シルビアも何にも言わないので、特に問題ないということらしい……もっとも、クソを垂れる前と後ろ刑中に「サー!アイアイサー!」といったらツボに入ったらしく悶絶していたが。

軍隊的な厳しさはあるのだが、それは宇宙で活動するのに必要だからであり、ディスカバリーは政府ではないし軍隊じゃないし、PMCでもない。

ただしオンとオフの切り替えは必要であり、オンになるタイミングが、フリートを組むことになった時。

つまり今で、フリート・コマンダーに対する敬意と命令に忠実であることは最低限必要なのである。


さて、ネットワーク・アクセラレータだが、タマヨリから解説をもらっていたのでここで説明することにする。

アクセラレータ起動時、まず俺の機体のネットワーク関係の能力が増強される、つまりタマヨリのハッキング能力や、ハッキングに対する防衛能力、あとはダイヴ中のレスポンスの向上……ここは主に脳負荷の低減だな。

また、それほど広い範囲ではないのだが、所謂敵味方識別装置(IFF)によって味方判定されている艦のネットワーク能力も向上することになる。

ここで発揮される効果のうちの一つとして、各艦の量子コンピュータとAIのネットワーク・リンクが強化され、コマンダーの指令によって各艦がラグなく同期して行動することができるようになるのだ。


つまるところ、俺の艦をネトゲ的に説明するなら、低火力だがバフとデバフをこなす便利屋というポジションだ。


所謂手動、あるいは口頭による指示と操作という訓練を散々やったあとでこれなのだが、特に文句はない……というのは使いどころさんが別なのだ。

戦闘中にネットワーク・アクセラレータ起動して範囲内に集まってフリート・リンクしてフォーメーション組んでとのんびりしている暇はないので、コレは主に平時や作戦中における移動中に使う機能である。

もちろん大規模フリートであるならば、会敵前にグループごとにネットワーク・リンクをするなんてこともやるらしいが、H-1かつ地球人な俺にはそういう大宇宙戦争の戦地に立つなんて機会は来ない。


ともかく、このようにフリート・リンクすれば、艦長たる俺の上位者としてシルビアが一時的に登録されることになる。

シルビアが許可しない限りは、艦の優先操作権は彼女が持つということである。

フリートを組む、コマンダーに従うということは、コマンダーに命を預けるということと同義であり、信頼関係がなければ成立させるのは難しいし、言うこと聞かない下っ端を抱えるということは、フリート全体の死を意味するわけで。

勇者様思想の持主はフリート仕事に向いてないし、勇者様装備艦じゃないと嫌だという人間は、フリート行動に向いていない。

文字通り、社会の歯車になれるサラリーマンの為の業務形態だったりする。


彼女の操作に従い、フォーメーションを組んだ俺たちのフリートは、文字通り一糸乱れぬ軌道で回頭し、地球に向けてグラヴィティ・アクセラレータを起動したのだ。

予告通り今週の投稿はお休みとさせていただきます。

流石に体力が限界なんじゃあ(倒れ込みながら

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ