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ヤハタ・ヘヴィ・インダストリー

そんなわけで、溶接の光や焼けた金属のガス、そして様々な薬剤の匂いが充満するヤハタ・ヘヴィ・インダストリーの工廠にやってきたのだ。


「ここにアンドロイド体で来るように指定したのは、コレがあるからね。生身で完全防備するよかこっちのほうが楽だし」

「なるほど?」


ちなみに働いている人たちは生身らしく、完全防備耐性で彼らなりにご安全に働いている。

もちろん工作用ロボットなども大量にあるため、職人の技術が介入するような場所は限られているが、ロボットの性能の関係でやはり職人芸は必須となっている。

時は西暦2222年、産業用ロボットの躍進はすさまじく、地上においてもはや職人の技は必要ないとまで言われているが、ここは宇宙である。

つまり宇宙においては、地上では神のごとく扱われているロボットの性能程度では全然足りていない。


「パイロットってのはそれだけ特殊なのよ、1人養成するためだけにアホほど金かけられるのはパイロットだけ。外部協力会社にまでアンドロイド体支給すんのは予算的に無理ねえ」

「なるほど?」


俺のアンドロイド体たるプリチー・ガールはお前の私財が投入されてるんですが、お前はいくら稼いできたんでしょうか……というツッコミは流石にできなかった。

もちろんシルビアは人の機微の隙をつく天性のいたずら好きであるため、俺の言わんとしていることなど承知の上である。


まあ、パイロットが超優遇ってのはよくわかる、地球上でもそうだったしね。

この会社の募集要項の事を忘れがちだが、俺如きと言わざるを得ないであろうクソジャパニーズですら、膨大な数字となる金がかけられている。

このミルキーウェイの中でもド底辺星系である我らが太陽系の1惑星の住人である地球人として、なんとしてでも一発ぶちかませるようになりたいと、本気で思っているんだろう。

負けず嫌いっていうのは地球人の悪徳であり美徳でもある。


「おう、きたかあ。俺がここの工場長の大津だ。オメえらの相棒たる艦船はバッチリいつでも飛ばせられる状態にしてやったからしっかり見ていけ」


全身をがっちりと保護する装備に身を包んだおっさんがやってきた。

この大津とかいうイカツイ顔面を持つヒゲ面かつハゲのおっさんは、生身であるにもかかわらずゴーグルからマスクまでを外して俺たちに挨拶してきた。


「ちょ、大丈夫なんですかマスクとか外して」

「そら大丈夫よ。安全安全いってたら仕事になりやしねえんだよ。つうか挨拶と自己紹介すんのにマスクやゴーグルつけたままなんてできるかいな」


ガラッティの声に対する返答は、とあるブサイクな二足歩行の猫が聞いたら白目を剥いて倒れそうなセリフであるのだが、現場なんてこんなもんだ。


「「「「おお~」」」」


VR内のシミュレーターで散々見たり触ったり乗ったりしてきたYHI-100であるが、現実世界でご対面となるとその感慨もひとしおである。

4つの機体の前にはそれぞれ、ヤハタの社員っぽい人が待ち構えていて、俺は機体番号2番が割り当てられた――1番はランクが一番高いハーヴェイであり、それ以降は年齢順らしい。


「ど、どうも初めまして。私がこの機体の整備を専属でやることになりました」

「どーも、大和夏樹だ。よろしくな」


ええ、やっぱり日本人っすか!という反応……というか彼の妙な対応にあまり反応していないのは、俺は今の現状を忘れていないからだ。

今の俺はその辺にゴロゴロいるような冴えないおっさんではなく、探しても滅多に見つからないような容姿のハイティーン・ガールめいている姿なのだ。

"普通は"本来の姿のままであるのがフルダイブ用アンドロイドなのだ……俺の今の現状が普通じゃ無さ過ぎて、実はおっさんなんですといっても容易に信用してもらえない状況である。

後ろで必死に笑いをこらえているシルビアを一発ぶん殴りてぇ。


この時代になってもパイロット自身が行う点検という儀式は重要で、専属の整備士がいようが、それの仕事をサポートする量子コンピュータやAIがいようがここだけは変わっていない。

マンツーマン指導でパイロットが行う点検のやりかたなども学んでいくことになる。

もちろん、彼は専属の整備士でありヤハタの社員でもあるので、ヤハタ艦の素晴らしさを延々と語るという営業努力も挟んでくるというお約束も忘れていない。


「なんといってもヤハタ艦の魅力は、速度と旋回性能、それに火力ですね。確かに装甲は薄目ですしタレット数の関係で余剰エネルギーも低めですが、シールドで攻撃を受け流しつつ身軽に飛び回り、相手のタレット旋回性能より早く動いて敵を倒せばいいのです。当たらなければどうということはないを地で行くのがヤハタ艦の魅力なのです!」


なんとも熱っぽい営業トークであるが、自社製品に誇りを持てるというのは実際幸せなことなのだ――ブラック社畜は自社製品のクソ加減をDNAレベルで知っているので、洗脳を受けた程度では自社製品に誇りを持ったりはしない。


YHI-100、というか100が付く機種は宇宙に進出している造船会社――宇宙"船"なので"造船"――のルーキーシップにつけられる型番で、とりあえず地球製ならば統一されている。

その中でもヤハタ艦のルーキーシップのタレット・ハードポイント5基というのは異常と言っていいレベルである。

宇宙においては無用の長物である短めの両翼の中央寄りに1基ずつ、そして本体下部に2基、上部に1基という感じであり、それら全てに攻撃用のタレットを装着することもできるし、電子戦用のデバイスを取り付けたっていい。

シミュレーターで乗っていた時に"全翼機の小型爆撃機程度のサイズ感"といっただけあって、それなりに弾薬を積むことだってできる。

ミサイルを多数積み込むとなると流石に手狭すぎるが、ヤハタ艦は主にレールガン・タレットの運用が想定されているようだ。


太陽系を一歩出ればレーザー・タレットで武装する艦も跋扈していたりする中でレールガンってどーなのよと思うかもしれないが、技術力の問題もあるし、近寄ってしまえば問題ないわけで、そのためのカチコミ仕様というわけなのだろう。

レーザーは光を扱うのでその弾速は光速であり、回避なんて実際できようはずもないが、タレット自体は物理機器であるので、タレットの旋回速度を超えるスピードとレンジで戦えばいいのである。

そこまで近づくのは実際大変であるが、物理弾頭よりはシールドで防ぎやすいのがレーザーでもある。


カタログ上、タレット・ハードポイント5基であるが、初期状態では2門の小型レールガン・タレットが付くのみとなっている。


「といっても、100番は太陽系内での活動を想定されているのでシールドはプロジェクタイル側に最適化されていますけどね」

「ルーキーシップに使われている技術はほぼ地球製なんすか?」


もちろん答えは苦笑いの「NO」であった。

シールドシステムはリバースエンジニアリングも行っているが、未だ自主生産するめどが立っていないようだし、ディスカバリー社の艦船に積まれている通信システムも星系外の技術のようだ。

この船には積まれていないワープドライブやジャンプドライブに至っては言うまでもないだろう。


また、実際に宇宙に出る前にアンドロイド体が支給されているように、宇宙での活動は基本的にアンドロイド体で行うことが想定されている。

ではその間肉体はどこにあるかというと、安全なステーション……ではなく活動している艦船の中にあるのだが、ベッドの上に置いとくとかそういうのはできない――なぜならば、戦闘機動中はかなりのGがかかるから、自由に吹っ飛んでいってしまい肉体が壊れてしまうからだ。


違和感を感じるかもしれないが、電波はしょせん光速でしかなく、宇宙規模で考えると肉体とアンドロイド体間でのラグのない接続が難しい。

そのため、肉体は艦船内に置く必要があるし、艦船内にいる肉体の養生を行う必要があり、そのために保護カプセルがあるのだが、その技術自体が地球産ではないということだ。

"とのこと"通り聞いた話でしかないので、肉体を艦船においておく意味があるかどうかとかそういう話の真偽は俺にはわからん。


カプセルのサイズはそれほど大きくなく専用スペースが用意されているので邪魔にならないが、その中に入り込み起動するとネットネトのジェルが充填されるそうだ。

とてもとても嫌そうな顔で「マジっすか?」と問うと、彼は口に出すことも憚られるような何かを考えたのだろうか、この若き専属整備士は少し顔を赤らめていた。

広島企業としたことに特に意味はない(乱数で決めた)ので方言を再現したりはしないです。


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