凡夫の嘆き
「シルビアおいゴラァ、お前完全受注生産のアンドロイド・ボディーでこんな無茶すんなよゴラァ!」
「アッハッハ、何それ超かわいい!」
そもそも無理があるのだ。
0.3G環境下でスカートをはいてはいけないし、このロングでドストレートな髪もいけない。
いずれも一度浮き上がったら沈み込むまでにかなりの時間がかかってしまう。
結局俺は、なんとかかんとか暴れる髪の毛を適当にまとめ上げ、シャツにホットパンツという軽装でここまでくる羽目になってしまった。
「マジか、これヤマトなのか?」
「そういうお前はハーヴェイじゃないか、本当にアンドロイドにフルダイブしてんの?」
「お、おう。そのとおりだ。箱を開けたときは流石にドキっとしたぞ」
もうここに至って驚くような話ではないが、現実世界的な意味での見た目上、こいつが本体なのかアンドロイドなのかの判別はつかない。
正確に言うと、身長が少し縮んでいて、体重に至っては何故かかなり軽くなっているそうだが、ぱっと見でわかるような差異はない。
あえて言うならば、I.E.S.デバイスを挿入するコネクタが、首の後ろに存在しないということだろうか。
リアル・マイワイフとかいう悍ましいセリフが聞こえたり聞こえなかったりするが、中身がオッサンであるという事実は消えたりしないからな?
ただまあ、"ガワ"だけでちょっとした国家予算級ってことを忘れてしまえば、このガワに適切なAIをぶち込めばリアル・マイワイフ・ワールドを構成することも可能だろうからなんともいえない――そうすれば文字通りのアンドロイドだ。
仕事に対するモチベーションって奴の発生源がどこであるかは人それぞれなのだから、そこに口をはさむ気はない。
「ちなみに俺はドキッどころか『そうきたかー』だったぞ。ところでガラッティ、頼むから撫で繰り回すのをやめてくれ」
「めっちゃ可愛い。どうしてこっちの姿で生まれなかったの?」
「俺の中のリトル・アラフォーが自殺したがってるからお手柔らかにお願いします」
わかる奴にはわかると思うが、俺の姿形が概ね定まってきた年齢になって以降、思い出す限り容姿で褒められた記憶がないわけで。
この状況になって唐突に容姿で褒め(?)られると、本当に死にたい気持ちにしかならない。
「くそう、罰ゲームとしては最高級だな。ホント色んな意味で……」
「でっしょー、今までアタシが稼いできた貯金もかなり吐き出したわー」
「お前自腹まで切って何してんすか」
ちなみに姿形を別にすると、アンドロイド・ボディー体というのは本当にすさまじく便利であると言わざるを得ない。
ブラック・カンパニー・ソルジャーとして戦い続け、疲労がDNAまで刻まれきったオッサン体からこっちに移ると、本当に体が軽いのだ。
0.3G下でのオヤジ・ボディー生活と比べても、実際体重が軽いというのもあるが、文字通り疲れを知らぬ体であるわけで、俺の本体の事を一言で表すならば、プレートアーマーに加え亀の甲羅を着こんで生きてたんじゃないかと錯覚してしまうほどだ。
などと、4人でギャースカ騒いでいると扉が開いた。
多分、最後の一人であるラーヒズヤが来たのだろう。
「シルビア、アンドロイドってのは筋トレすれば筋量が増えるのか?」
「多分増えないし、増やさないでよ」
その返答に愕然とした顔をしているのは、いい感じのミリタリーズ・マッチョまで減量された、恐らく"理想的な"マッチョ体となったラーヒズヤ……のアンドロイド体である。
元が2m近い身長に、つま先から頭のてっぺんまで極限まで圧縮して詰め込んだ余りにも巨大な筋肉の持ち主であったため気づかなかったが、ホドホドにまで低減されてしまうとこいつ……相当なイケメンじゃねぇか。
アンドロイド体の構成要素として有機物質が使用されているが、所謂ヒトを構成する物質ではなく植物に近い。
主動力源は宇宙最底辺を意味する"保護星系"の地球人には非公開となっているが、補助エネルギー源としてアンドロイド体の表皮が光合成や皮膚呼吸をおこなっているということは知らされている。
だが、ディスカバリーのパイセンたちがここまで色々と経験を積むにあたってわかったことと言えば、爆発四散するようなダメージを負っても特に環境的な意味での被害は出ていない――つまり核を動力源としていない、ということがわかっている。
これがメイド・イン・アースとなると小型核融合炉を体内にぶち込む形になるだろうから、銃撃戦もできない体になってしまうだろう。
もちろん素体をただ購入してリバースエンジニアリングなんかも試してみたりしているそうだが、艦船のシールド技術やワープ技術などと同じようにうまくいっていない。
宇宙産業界にとって地球とそれ以外は、"なんとなくコレだろうと想像することすらできない"レベルの差があるようだ。
「「なんだよこの同期共、容姿優れすぎだろ……」」
思わず漏れ出した絶望の感想が、隣にいた誰かと重なったのに気づいて顔を見合せた……見合わせようと思ったら予想よりもずいぶん高いところに相手の顔があったのが残念過ぎる事実だが。
「なんだいハーヴェイ、あんた凡夫ってほどじゃねえだろ」
「いやヤマト、お前の……本体の顔だって悪かないはずだぜ?」
「慰めんなよ、死にたくなる」
ともかくそう言い合い、お互いクソでかい溜息をぶっ放すことになる。
「飲もうか、今夜は」
「そうだなあ……」
ともかく俺の船を受け取りに行こう、そうしよう……と心の中で決めたときに、非常に珍しい出来事が俺たちを襲うことになった。
「なんだこの少女は、新人か?ところでヤマトはどこに行ったんだ!?」
そう、慌てふためいて大声を上げるのはイケメン、もといラーヒズヤだ。
人種が違えば価値観も違うように、星系が違えばジャパニーズ・凡夫がイケメン扱いされることもあるかもしれませんね。




