フリート・パイロットはロールプレイヤー
ようやく宇宙に出かける日が近づいてきました。
さて、ここから先が宇宙空間での訓練の本番である。
実のところソロで飛ぶだけなら大仰な訓練は必要なかったりする。
というのも、ソロで飛ぶときに必要になるのは個人の才覚であり、あーだーこーだと込み入ったルールやらなにやらはそれほど多くないし、そんなもんは座学で充分である。
操船時に必要となる各種情報の処理はAIがサポートしてくれるので人員が大量に必要になるということもないわけで。
なんなら脳処理速度をオーバーロードしたっていい。
みっちりと訓練すべきなのは艦隊で行動するとなった時である。
艦隊指揮官の指示を聞いて一文字違えず理解し、即時その通りに行動し続けるのがフリートメンバーが行うべき艦隊行動であり、俺のようなパンピー・ジャパニーズにわかりやすく言うならロールプレイ能力が必要とされる。
例えばグラヴィティ・アクセラレータでの加速は重力加速度を利用した自由落下による加速なので、アクティベートが1秒遅れれば毎秒毎秒コマンダーやフリートメンバーから離れ続けることになってしまうし、遅れたものを回収するため減速しようものならばシチュエーションによってはフリート全体を危険に晒すことになってしまう。
減速が遅れようものならもっと悲惨だろう。
「ヌワーーーーーーーーーーーーッ!」
ほら、今もガラッティの叫び声が……なんて言っている間に彼女の機体がすっ飛んでいってもう遥か彼方だ。
「はい死んだ―、クレリア死んだよ!よかったねえ!回収に行くから100m/sで直進してな」
「……了解」
シミュレータ上とはいえアクセラレータの減速遅延で一人だけすっ飛んでいくと中々に心細いのだろうか、イケメン乙女たるクレリア・ガラッティも涙目である。
だいたいからしてその瞬間瞬間に判断し矢継ぎ早に更新され続ける指示に従って正確に操船し続けること自体難しい。
個なんてクソ喰らえとばかりに無心になって歯車の一部として飛び続ける才能が必要となる。
フォーメーションを維持したままの加減速タイミング、指示された座標に対して寸分たがわず即座に回頭する技術、飛び回るダミーターゲットからターゲットロックを食らったり、攻撃を受けてもパニックになることなくコマンダーの指示にしっかり従う忍耐力等々。
挙げ連ねればキリがないほど膨大な数になる「歯車」として役割を果たすのは並大抵の努力では為しえないだろう。
俺はというと包み隠さず申し上げるが、ミスは犯す……あえてその数と種類を挙げるならそれはもう無残なものだ。
しかしそれでもなんとかかんとかついていけているし、ハーヴェイは軍人故か飛ぶこと自体に慣れてしまえば問題ない。
ハーヴェイは元軍人だから当然ではあるが、俺は俺で歯車プレイには慣れ親しんでいる。
ソロプレイヤーの権化たるラーヒズヤと、大学新卒パイロットのガラッティがかなり苦戦しているという状況だ。
「この訓練が終わったら実機の受領があるからね、それまでしっかり集中するように」
「「「「イエース!」」」」
これはこれで前もって通達されていたのだが、自分の機体が現実側でついに支給される日が来たのだ。
これまでひたすらにVR空間で訓練してきたのだが、ついに現実側で色々やる日が近づいてきたということでもある。
流石に俺たちのテンションもこれにはカチ上げざるを得ない。
しかし、テンションってのは上がりすぎてもよろしくはないので、テンションぶちアゲ死の回数はなるべく減らさなくてはならない。
「太陽系内で飛ぶ分には、よほどのアホやらなきゃそうそう死亡事故なんて起こらないけど、死ぬときは一瞬で死ぬからマジでちゃんとやんなよ」
シルビアにしては珍しい真面目な声色でのセリフ、というか格闘訓練のときはガチで殺しに来てるし、このフリート訓練でもジョークをほとんどその口から吐き出すことはない。
普段はどうしようもないアホ(直球)だが、その切り替え具合はすさまじいの一言だ。
マジでフリートメンバーの命を預かって、時には切り捨てるという選択をとらなきゃならないのがフリートコマンダーの仕事なわけで、そういう仕事をしてきたからこそのギャップなのかもしれない。
訓練開始からだいたい5か月が経過、ステーションが吹っ飛んだとかそういう事故があれば別だろうが、ここまでのカリキュラムにおいて死ぬようなことはまあほとんどない……多分ない。
これから先の一か月はガチで宇宙を飛ぶことになるので、シミュレータ内で糞ほどやらかしたうっかりミスがガチの死に直結しかねないのは確かだ。
というか、過去の訓練中での死亡事故の映像は、座学の時にほぼ包み隠さず見せられてきているので、冗談で言えるような感じじゃないのは知っている。
小惑星に全速力で突っ込んで爆発四散しようが、量子コンピュータに搭載されたAIが破壊される直前に、それまでのデータや映像をステーションに送信できるので、文字通りパイロットが死ぬその瞬間までのデータを閲覧することが可能なのだ。
事故死した訓練生の数はそれはもうかなり多かった。
カリキュラム数コマ分を使って嫌になるほど死んでいくパイセンたちの姿を見せられ続けたその日は、流石に食欲がわかないかもしれんと弱音を吐いたが、腹はちゃんと鳴ったし、きちんと飯は食った。
まるで俺が非情なナニカのように思うかもしれないが、ここでの教育方針が効いているのかもしれない。
行動には必ず結果が伴うことになるわけで、ミスったら死ぬのが宇宙なのだ。
「あ、そうだヤマト……あんたの罰ゲームも今日執行ね」
「えっ、あっ!」
アステロイド・ベルトでスラローム中に不意打ちはやめてくれよシルビア、爆散しちゃったじゃねえかよ。
味方全員で同じように機動をし、同じ敵を狙って一斉に射撃するというのがフリートなんだなあ、と何となく思っています。




