ムリゲ―をお祈りゲーに昇華させたいおっさんの悪足掻き
凡人オヤジがアニメやネット小説のような超加速戦闘するために何が必要とされ、何を失う必要があるだろうか、という回。
「さてタマヨリ。しばらく見に徹するからとりあえずシルビアの行動をちゃんと観察するんだぞ」
『あいあいさー』
週明けはCurriculum1から模擬戦闘だ。
ハーヴェイには申し訳ないが素人3人組はまず、ガチンコの殺し合いという雰囲気に慣れるところから始める必要があった。
殺さなきゃ殺されるという相手に出会ってしまったならば、形振り構わず殺すという選択肢をとれるようにならなきゃいけないのは事実。
もし宇宙空間で戦うことになったらもちろん殺し合い以外にほとんど選択肢はないし、艦船に乗り込んだり乗り込まれたりしても同様だ。
その時に雰囲気にのまれるようなことがあったら死ぬしかないので、どんなに絶望的なクソ野郎が相手でも「野郎ぶっ殺してやらぁ」の心意気を持てるようにならなきゃいけない。
宇宙ではちょっとしたことでヒトは死ぬ――これは人類が宇宙を目指した直後から知られている事実のうちの一つだろうけれど。
ミスを恐れて体が竦むと、竦んでる暇で10回は実際に死ねるので、もう死という概念を気合いで超越するか慣れるかするしかねえというのがあるらしい。
精神論だとか根性論を超えたよくわからない理論だが、現代の技術ならば疑似的にガチ死できるためそこまでやれるが、昔は大変だっただろうな。
VR空間にいる間に死にまくって、条件反射のレベルで最悪を回避できるまでにならないと、やっていけない世界だ。
……というのはシルビアの言葉だが、どうもストレス解消に使われているような気がする。
ここだけ聞いてるとつくづくノーマルなジャパニーズに向いてない仕事だとは思う――殺られる前に殺れってのがまず敷居が高い。
異世界でヒーローになってる暇があったら宇宙に来てほしいもんだとは思う。
可愛いヒロインは多分いるんじゃねぇかな、ただ単に俺の目の前には出現してくれないだけだろう。
少なくとも、性格や趣味はともかくとしてシルビアやガラッティはかなりの美人で、これ以上は贅沢だとは思うけれど。
『やはり使っていますね、オーバーロード』
「うーん、シルビアのオーバーロードにこっちのオーバーロードを合わせても地力の差で完敗するのは明白だ。どっかで不意打ち的にぶちかまさねぇと」
シルビアの攻撃は人を一発でぶち殺せる所へ正確に連続で行われる。
俺や同期組がそれぞれのやり方でなんとかかんとか対応しているのは、シルビアの攻撃には一定の規則性があるからだ。
首への刺突から始まるなら次は大腿部の動脈を断ち切るための撫でるような斬撃とか、始点がわかればそれ以降の連撃がどこに来るかが理解できる。
ただしいい感じに攻撃を凌ぎ続けたり反撃に移ろうとするとシルビアが本気を出し、規則性がなくなってくる。
その上オーバーロードも使い始めるともはや手も足も出ない……実際出なかった。
つまるところ、こっちが対応できるように途中までは手を抜いていてくれるということだ。
それでも慣れるまでは目の前に竜巻が迫ってくるが如くなので、あっという間にぶち殺されたわけだが。
ともかく今現在俺の手の中にはシルビアと同じ土俵に上がるための手札である、オーバーロードプログラムがある。
アンダーソンの仕事が妙に早くCurriculum1に間に合ったのは彼がシルビアの担当官でもあったからで、必要だったのは俺用にパラメータを調整する作業だけだったというわけだ。
『あのド畜生は気づいていますかね、ヤマトが持っている手札に』
「五分五分ってところだな、俺の担当がアンダーソンだってことは知ってるわけだし。場合によっちゃチョイヒゲ曰く特別性たるタマヨリの存在までバレてる可能性だってある」
ようはシルビアが俺をどのように評価しているか、だろうなあ。
アンダーソンは自分からあれこれ世話を焼いてくれたりするような奴じゃない。
代わりに提案も質問も、文句をいいつつだがきっちり対応してくれる仕事人だ。
気づくと一巡したのだろうか、ニヤニヤしているシルビアと視線がぶつかった。
「まーいいや、ウダウダやっててもあいつが弱くなるわけじゃねぇしな。ぶちかますぞ」
『ダニエルにボコられた恨みをここで晴らします』
仮想現実空間構築をしていて気づいたことがある……初期装備も訓練レギュレーションに合致していれば変更できるのだ。
この訓練で使えるのはナイフとハンドガンのみと規定されていてその数は規定されていない……ので1本ナイフを増やしてみた。
俺に主人公補正があれば二丁拳銃や二刀流ができたんだろうが、両手同時に持つことはできても同時に使用して戦うのは無理そうだったのでやめといた。
かっこいいどころか無様晒すようなもんなんだ。
「今日は珍しく一番乗りしなかったじゃない、ちゃあんと色々企んでる?」
「俺らはみんな、いつだってシルビアをぶち殺すために企んでるよ。それでも殺せねぇから困ってんだ」
初期距離は相互の距離が15フィートとなっていて、最初の立ち位置がこれ以上前でも後でも訓練が開始されないのは確認済……その立ち位置でナイフを構えれば戦闘開始だ。
「じゃ、呼吸制御から」
『Respiratory Control……Active』
タマヨリの発声は人間と同じだが、俺たっての願いでシステムアナウンスはまるでロボットのような、抑揚のないロートーンヴォイスにしてもらっている。
現代では地球でも疑似人格を搭載したAIがあるとはいったが、彼女ほど自由にふるまったりするわけではない。
合成音声で抑揚が無い棒読みだったり、イントネーションがおかしかったりするほうが俺にとっては身近な『SF』なのだ。
また、タマヨリが相棒に加わったことで戦闘中にアプリケーションをオンオフするのが圧倒的に楽になった。
暴風雨のような攻撃をしてくるシルビアと対峙しながらARで目的のアプリケーションをアクティベートするなんてマネは到底できそうにない。
「さて、休みの二日間でどれだけ頑張ったか見せてもらいましょーかね。ちなみにあたしに一発も入れられずに負けたら罰ゲームね」
「ハッハッハ、お前は鬼か畜生この野郎!」
訓練開始がARモニタに通知されると同時にナイフを構えて突っ込む。
初手ハンドガンも考えたわけではないが、そうなるとシルビアもオーバーロードを使ってくるだろう。
体感時間が8倍に引き延ばされ脳負荷が高くなっている仮想空間上で、更に脳負荷を際限なく引き上げるオーバーロードは俺にとってまだしんどい玩具の一つである。
休日中に構築した仮想空間上で『体の動きが脳処理についてこれるよう』に調整されたものを使ったが、過負荷により10数秒でサーバーから叩き出されてしまったので、ひとまず10秒制限をかけているのだ。
困ったことにシルビアは10秒や20秒どころじゃない感じで使用しているので、後出しでやっても確実に負けてしまう。
まずはここまで培った基本通り、シルビアの連続攻撃を受けるところから始めてみよう。
仮想空間と現実世界での呼吸のリンクがなくなったため、息切れして動きが鈍るということがなくなり、これだけでもずいぶんと余裕を感じられる。
『足元に蹴り、フェイントから首元にナイフ』
2手ほど先んじてこれまでのシルビアの行動と本日の戦いを見学させたタマヨリから予測値が入るので、それを信じて回避や受けをしていく。
こいつは俺の動体視力の心もとなさを補うシルビアスペシャルって感じだ。
オーバーロードも複数段階使えるようにテンプレートみたいなのを用意してみるのもいいのかもしれないな。
動体視力って要するに瞬間的な脳処理の問題だろうし、前述の呼吸制御との合わせ技で倍率ドンといったところだ。
タマヨリの解析をもとに録画データを見直したが、どうもシルビアは相手の習熟度合いに合わせて攻撃速度を変えている節がある。
要は今現在、俺が見て回避できるであろうギリギリくらいの速度で攻撃してくれているのだ。
まったくもって正確な分析であり、ハーヴェイとやっているときの差異を見ても悔しさすら湧き起らない。
ただ、少しずつ速度が上がっているような気がする。
タマヨリのサポートがあって余裕がある分だろうか、これ以上速度が上がるとタマヨリのサポートがあっても俺が追いつけなくなってくる。
『この後パターン変化、初手のみ注意……あ、ハッキン』
「うん?」
『プツッ』という音が聞こえて、タマヨリとのリンクが切断されたことを示す文字列が視界に表示される。
「おまっ」
声を出そうとして気づくこともある。
タマヨリが落ちたため彼女が制御していたアプリケーションが全て止まっていて、たまたま呼気中だったのか同時に叫んでしまってものすごく息が苦しい。
シルビアはいたずら成功みたいな顔していて、俺は「やっべぇ」という声を出すのもきつかったので、大慌てでバックステップをぶちかまし距離をとる。
『ごめんなさいやられました』
「オーバーロード!」
『……Overload Acvitce』
タマヨリを完全に拘束せず一瞬だけ落としたのは、コレを使わせるのが狙いかこの野郎とブチ切れる前に、状況を再確認しておくべきだろう。
俺がバックステップで距離をとり、ワンテンポ遅れて復帰したタマヨリにオーバーロードの使用を命じたときには、シルビアは銃を構えていて銃口がぴったり俺の顔面にあっていた。
……人工走馬灯状態は伊達じゃない。
銃口から放たれた弾丸が俺に向かってくるのがきっちり見えている。
ただの走馬灯とオーバーロードとの違いは、加速した脳処理と等速で体も動かせるというところだろうか。
現実でこんなことやったら筋や腱やら血管やらがが引きちぎれて骨がバラバラになって死ぬが、訓練用仮想空間ではどうなるだろうか……あくまで現実を再現しているので折れるし切れるし痛くて死にます。
「痛覚制御!」
『Pain Control……Active』
状況的には完全に詰み。
ここからどうにかできる奴がいるならそれは英雄譚の主人公くらいで、少なくともソイツは俺じゃない。
一発、二発と俺なりに最低限の動作でシルビアに近づきながら銃弾を回避していくが、近寄れば近寄るほど回避自体が難しくなってくる……残り時間7秒。
『ヤマト、シルビアも使っています』
オーバーロードを使用して人類を超越した速度で動いているような的に、正確に狙いをつけられる化け物がいるとすれば、ソイツも同じことをしているってのは確かに道理だ。
もう死が確定しているのでずいぶんと冷静になれているのか、一つだけ疑問点……つまり筋断裂しまくってる俺と余裕そうなシルビアの違いは何なんだというのが浮かび上がってきたが、死んでから聞いてみることにしようか……残り5秒。
回避が難しくなってきたならば、ナイフの刀身で弾丸の行き先を変えればいいじゃないとなってくる。
アニメのサモライのようにぶった切ろうと思えばできる速度域だが、欠片が顔面にぶつからないとは言いがたいので無駄なことはしないのが一番。
軌道をずらすのが最も確実だ。ついでに言えば呼吸制御を戻してないのでもう体が酸素を求め始めているし、視界は脳の過負荷を知らせるウィンドウでだいぶ狭くなってきている……残り3秒。
「やべえ、ヒビ入ってる」
『なんということでしょう、"投了"がルールブックに記載されていません』
「せやろな」
親愛なる俺の相棒からの投げやりなボケ(?)は、ヌルっとスルーしつつ。
2回、3回と刀身に弾丸を当てていくと、やっぱりそれはそれで無茶であることに気づくだろう。
とっさにあいている右手をホルスターに手を伸ばそうとするも、次の弾丸が銃口から顔を出そうとしているのが見えて取りやめるしかなかった。
俺に抜き打ちをするようなスキルなんてあるわけがない。
代わりに、左手で構えているナイフの刀身を壁のように立て、なるべく腕を伸ばし迫りくる弾丸に向けて腕を伸ばす……残り2秒。
ほんの短時間で通常以上に酷使されボロボロになったナイフは、もはや弾丸を防いでくれたりはしないだろう。
俺と同じように加速された時間で動いているシルビアが、俺と俺のボロボロのナイフを見てニヤリと笑っているのが見える……悪いな、俺は諦めの悪い男なんだ。
ホルスターに向かわせるのをあきらめた俺の右手は、対戦前に1本増やしていたナイフ・ホルダーに手が伸びており、手首のスナップでシルビアに向けて放り投げていた。
MLBの化け物(正真正銘の誉め言葉)達のようなリストを持っているわけではないが、人工走馬灯級の肉体操作速度でスナップ利かせ物を放り投げたなら、ただの一度きりという条件が付くとはいえ、この凡人の権化たる俺ですらMLBに所属するあらゆるプレイヤーを超えるパワーを持っているとみなすことができる。
当然ながらその代償で手首がもげかけているがもはやどうでもいいというか、どうやら間に合いそうになかった。
ちょうどナイフが指先から離れたころ、ボロボロになったほうのナイフを砕いた弾丸が俺の額にめり込み始めていたからだ……視界に写る文字に、残り1秒の文字が見えた。
必殺技は1戦闘(あるいは1人生)につき1回まで。




