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相棒と俺、休日はマッチョマンと共に

「まず一つ目なんだが、散々仮想空間で死んできてわかったんだが、あっちでも走馬灯や死の瞬間のスローモーションがあることがわかってな、あの現象をI.E.S.の拡張機能で故意に起こせないか?もちろん体が動かなきゃ意味ないからそっちもついてこれると嬉しいんだが」

「できる。ていうかここ数日間、お前らの死因の半数がシルビアの使うそれだ。残りはクソザコ故の実力だ」

『クソザコ故の過ちですね』


相棒のツッコミはスルーしつつ、秘かにやったぜと喜びの声を上げる……銃弾を回避しだす謎も判明した。

チートだと情けないことを言うつもりはない……悔しかったら自分で開発すりゃいいだけのことなわけで。


「なお俺がそんなもん自力で開発しようとしたら寿命が来そうだから、ソイツの開発をお願いする」

「いいぞ、お前が昨日までに貯めこんだ資金全額で作ってやる」

「オーケー頼んだ」


俺は医者とシステム屋さんと大工と法律使いが言い出した値段を値切るようなことは絶対にしない。

こういう時はどんだけきついお値段だろうが払えるなら即答でOKを出すべきだと思っている。


「おい、いいのか?」

「いいぞ。昨日までの資金だから、今日アンタに奢る酒代は残る」


そういいながら、謎のチョイハゲミドルエイジマンことアンダーソンのIDに送金をする。

そもそもこのAIを受け取るという作業が本日のCurriculum5で、これだけでも1000ドルは得られるわけだ。

というかステーション内で生きていくにあたって金を使うことがほとんどないので、貯まる一方……使うべき時に使わないんじゃ報酬を得てる意味がないともいえる。


「ともかくそんなわけで他は自力で開発するしかねぇな。タマヨリも手伝ってくれよー、あとでテキスト送るから調べといてくれ」

『承りました、HENTAIゲーム開発以外ならば喜んでお手伝いします』


おおっと、とんでもねぇことを仰りやがりますね。


「ミスター・アンダーソン、タマヨリに何を仕込みやがった」

「何って、お前はジャパニーズだからな、ジャパンの文化を一通り」


それが余計だっつってんだよこのクソおやじ……まあいいだろう、タマヨリの情操教育はそのうちやり直すとして……。


「まあそんなわけで適当なところで仕事を切り上げてくれ。あとは酒の時間だからな」

「まったくカミカゼ・ハラキリ・ジャパニーズってのはせっかちだな。まあだからこそ彼女を託したんだが……ちっとは気合入ったところを見せてくれよ」


気合いだけなら結構いいセンいってるはずなので、彼の期待を裏切るようなことにはならんだろう。


タマヨリとの会話はI.E.S.にリンクされている状態ならばいつでも可能なようだ。

性格面はアレだが出しゃばるようなことはしないみたいで、ボッチ慣れどころかボッチがライフワークと化したおっさんにとって煩わしさがないのはありがたいことだ。

しかし折角の週末の夜がむさくるしいおっさん二人で並んで、バーで酒飲むことから始まるのがちょっと辛いところだ。


さて、この土日はいつもの休日とは違い引きこもり気味に過ごすことになる。

元々インドア派ではあるが、こっちに来てからというもの同期組と飲んだりトレーニング区画で筋トレしまくったりして、地球での生活と比較するとすっかりリア充と化していたから昔懐かしといった風体だ。


『ヤマト、タマヨリは何をすればいいですか』

「そーだな、とりあえず今日明日でやっておきたいのは仮想空間ダイヴ中の肉体の呼吸制御をI.E.S.に全て渡しておきたいからソイツを作るのと、痛覚抑制プログラムだなー。あとは個人サーバに仮想空間を構築したい」


AR上に展開された莫大な物量のテキストをタマヨリと確認しながら、とりあえず作れそうなものをピックアップしていく。

そもそも今までこれらを作ってこなかったのは何故かというと、I.E.S.プログラミングの基礎は確かにここ学んだが、例えばHelloWorldをWEBサイトに表示できるようになっただけの人間が、神経信号の操作なんてことを単独でやろうとしたら心停止なんて未来が見えちゃうからだ。

その点、AIと協業すれば膨大な量のリファレンスの中から適切なパラメータをピックアップして、構築するだけにしてくれるからありがたい。


つまりどういうことかというと、I.E.S.のプログラミングは古き良き英数字の羅列で入力していくという非常に気難しい言語だが、タマヨリが入力方式をビジュアルプログラミング言語へと魔改造してくれた。

俺のARモニタ上には多種多様な人種の、汗苦しい笑顔が印象的なブーメランパンツをはいたマッチョマンがこれまた多様なポージングをしており、そのポージングや人種をチョイスしていくことで構築する形になっている。


「おい、なんでここでもマッチョマンなんだ?」


返事がない……さっきまで必死こいて復習してた俺の努力の時間を返してほしい。


『つまり、タマヨリは割と暇そうってことですね』


ともかくそういうことで、お膳立て段階で半分以上の作業が終了しているといっていい。

量子サーバに高性能AIというコンボはとてもとてもありがたいものだが、俺自身のスキルアップを放棄するわけにはいかねぇのだ。

マッチョ並べのどこがスキルアップにつながるんだといわれてしまうとその通りなので、後で元に戻してもらおう。


「マッチョについてと、性格面その他諸々はあとで説教するが、それは兎も角暇なら遊んでていいぞ」


いい感じに黒光りしているハゲ男のレフトサイド・リラックス――これはI.E.S.を経由する神経信号の向きの処理を行うテンプレート――とバック・ラット・スプレッド――これは仮想空間上での処理のサブルーチンテンプレートだ――を並べながら、彼女に向かってそう言い放つが、冷静に考えてみると周りからすればこれ全部ひとりごと状態だからちょっと怖いな。


当然の話だが、脳波操作で会話すればいいので別に声に出して言う必要はないらしい……そして妄想駄々洩れというわけでもないそうだ。

その区別はどこにあるのだ、とは思うが。


初期画面マッチョの配置は大枠の設計といっていい。

各マッチョの人種やポージングや向きなどはそれぞれに格納されているサブルーチンのテンプレートを示唆しており、『マッチョマンを開く』と魔改造前の言語とともに、各パラメータをわかりやすく調整できるようにスライドバーやらなにやらがたくさん配置されているUIが展開される。

ボディビル界に代々伝わる伝統的なポージング順にこだわると、どういう代物が完成するか想像もつかないが、作りたいものを作るという面においては悔しいことに割と使いやすい。


しばらくそうやって多種多様なマッチョマンを並べたりマッチョマンの中身をいじくりまわしたりしていたが、唐突に『プツッ』という音とともに量子サーバーとの接続が切れた。


「ああああ!鯖が死んだ、何故だ!」

『子猫ちゃんだからさ。ていうかお前いきなり俺のところにハッキング仕掛けるとは気合入りすぎてるんじゃないか』

「なんだ、アンダーソンか」


ARモニタに映像通信で割り込んできたのは謎のチョイハゲミドルエイジマンことダニエル・アンダーソン、休日一発目に見た人類のフェイスがコレかよ。

当然の権利として「なんだじゃねぇよ」とツッコミ喰らったが、順調に構築していたマッチョマン達もといプログラムが吹き飛んだダメージはでかい。

もちろんバックアップは働いているだろうが、最初から総当たりでチェックしなきゃだめだろうなあ。


「それにしても俺がハッキング仕掛けるとは過大評価過ぎるぞ、俺はただタマヨリに『暇なら遊んでろ』といっただけだ」

『俺は暇つぶしかよ』

「いいじゃねぇか、遊びたい盛りの娘の面倒を見るのもオヤジの仕事だ。つーかサーバー落ちたってことはフルボッコにされたわけだな……そろそろサーバーだけでもこっちのコントロールに戻してくれ、プログラミング中だったんだよ」


彼は少しばかり驚いたような顔をして、「まあそうか」などと言いながらコントロール権をこっちに戻してくれたちょろいもんだぜ。

実際タマヨリとの付き合いは寝ている時間を除けば数時間に過ぎないが、そんな俺が知る限り性格は兎も角として体がないだけで人間みたいなもんだ。

疑似と無理やり線引きする意味は分からんが、『生みの親』がアンダーソンであるならば、彼女はチョイハゲミドルエイジマンの娘で間違いないはずだ。


「ああそうだ、丁度いいから依頼を一つ。これからもタマヨリと遊んでやってくれ。ハッキング仕掛けて逆ハッキングされて鯖落とされたっていう事実を考えると、それができるってことだ。タマヨリが成長する一因として丁度よさそうだ」

『あー、うん。そうだな、片手間であっても娘と遊ぶのは父親の務めだよな』

『フルボッコに弄ばれた挙句何もない部屋に閉じ込めらるのはとてもとても辛いのですが』


この宇宙において、弱いというのは悪だ……これは散々っぱら無様に殺され続けた俺からタマヨリに対して伝えてやることができる、数少ないアドバイスのうちの一つである。


「互いにクソザコであることがはっきりしたわけだ」

『ベストパートナーと言えますね』


確かにそうかもしれない。

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