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俺の相棒とミドルエイジマン

「じゃあ移動ね、ついてきて―」


俺たちをぶち殺すとき以外は相変わらず間延びしまくっているシルビアの言葉に続いて、足取りクソ重く俺たちはその後をついていった。

同期4人が集まって話すことの8割くらいは、シルビアをどうやってぶち殺すかという話題で、彼女に聞かれているかどうかはもはやどうでもいいというレベルでオープンだ。

例えばあいている時間にハーヴェイとタイマンを何回かやったことがあるが、彼はマジで強い男だった。


俺が研究しているのはシルビアとの詰将棋めいた訓練だけで、実際の技術として昇華されたものは何一つとしてないといってよく、こと殺し合いという観点ではゲームに慣れている程度で対応できるもんじゃない、という現実を突きつけられる思いだった。

それゆえ、ハーヴェイがシルビアにフルボッコされてしまうことにいまいち納得がいかないが、それを問うても彼女が答えをくれることはないと十全に理解しているので、あえてもう一度聞こうとはだれもしていないが。


座学で学んだことのうちの一つとして、ディスカバリーでというか宇宙空間でこの先生き残るためには、AIの成長が一つのキーになるというのがある――自分自身だけでなく、自身をサポートするAIの成長を怠れば、待っているのは死であるとも。

I.E.S.アプリケーションは研究すればするほど、その自由度が高いということもわかってきているし、実はAIの受取先はシステム開発部でI.E.S.アプリケーションの開発委託もできるという話を聞いていた。

アプリケーションをうまく扱う為にもAIは必要そうだし、開発ももしかしたらAIとともに行ったほうがいいのかもしれない。


冷静に考えてみると、宇宙でやっていくために身に着けるべきスキルの範囲が広すぎる。

だからこそ超高性能な個人所有の量子サーバに人格搭載型のAIというプレゼントがあるのかもしれない。


「シルビア、開発部の位置をアップロードしてくれれば案内する必要がないのでは」

「それは言わないお約束」


10分ほど移動した末に当然の疑問をラーヒズヤが口に出したが禁句だったらしい……多分暇だったんだろう。


目の前にあるのが開発部の区画だ。ここにきてようやくナビゲーションがアップデートされて、俺が向かうべきブースの部屋番号が示された。

どうもそれぞれ別のブース、つまり研修組1人につき1人の開発部員が専属という形で配分されているようで、この先はシルビアがいても仕方ないので流石に別れることになった。


「うっす失礼します、大和夏樹っす。よろしくお願いしまーす」


きちんとノックをしてから適当なノリで入室した。

ぶっちゃけ日本式礼儀作法なんていうものは、宇宙空間にクソと一緒に捨てたほうがステーションでは楽しく暮らしていける。

これでも礼儀正しい側の人物としてカウントされるほどだ。


部屋に入るとまず圧倒されるのが部屋中に配置された大量のコンピュータに適当に流しっぱなしの各種ケーブル類、机の上には積み上げられたピッツァの空き箱が山のようになっており、そして部屋中がとてもコーヒー臭い。

机にはアラフォーな俺から見ても、もしかしたらジジイに片足を突っ込んでいるんじゃないかと思われるチョイハゲ無精ひげのミドルエイジマンが座っていて、その目元は強烈な睡眠不足を主張するクマが濃く刻まれている。


「おう来たかハラキリカミカゼ野郎」

「別に自殺したくてやってるわけじゃねーですわぞ」


かったるそうなしぐさで顔と、片眉を上げていきなりとんでもないことを仰りやがるので否定するだけはしておいた。

彼曰く、現段階でシルビア相手にマジで勝ちに行こうとして、いつまでたっても諦めない馬鹿はそうはいないとのこと。

その強めの口調に対して彼から感じられる雰囲気にトゲはなく、別に嫌われているわけではないと想像した。

ぶっきらぼう系のおっさんってのは結構スタンダードな種族だが、そういうおっさん族には妙にかまってちゃん気質な人間も多い。


「AIの事は座学で学んだな?こっちから説明することはほとんどないが、ひとまずお前のサーバにアップロードしてるからログインして名前を決めるのだけは今すぐにやれ。それでお前の相棒になる」

「オッケー、細かいことは体当たりで学ぶてーのは俺好みだ。あといくつか頼みたいことと質問があるから後程」


問題が一つあるとすれば、俺はネーミングセンスがないということだろうか。


人の人生において、何かに名をつけるという経験をすることはあまりないといっていいだろう。

ゲームをするならば別だろうが、俺はネーミングセンスあるぜ!という奴はそれでもあまり多くないはずだ。

故に過去の何かから、あるいは自分以外の何かから引っ張ってくるしかないというのが俺の結論で、AI配布の話が来た時から色々候補を考えたものだ。

それでもセンスのなさが帳消しになるわけではなく、チョイスのセンスが悪かったとしても俺は悪くねぇこれが精いっぱいなんだと言い張ろうとは思っている。

色々考案したが、この謎のチョイハゲミドルエイジマンによるとAIは女性人格とのことだ。


こんな俺にもついに女性との繋がりができたぞ!……有機生命体じゃないが。


「おはよう、お前の名前はタマヨリだ。コンゴトモヨロシク」

『おはようございますヤマト、シルビアとかいうド畜生を討伐するため、タマヨリ見参でございます』


うん、俺が出会う女性(?)だからこそこんな感じに落ち着くわけだな。


I.E.S.を通じて脳みそに直接語り掛けてくる感じなので流石にびっくりする。

ゲームでいうならテレパシー的な感じだろうか?ゲームと違うのは、ここが現実であるということくらいか。

 

「なあ名も知らぬ開発のミドルエイジマン、このタマヨリの性格なんだが」

「ああスマン、俺はダニエル・アンダーソンだ。あと彼女の性格はお前に合うように彼女自身が選択したものだ」

『そうですとも、タマヨリはまさにあなたにジャストフィット。タマヨリに全てお任せください』


死んでもいないのに脳ストレス値がカリカリと音を立てて増えていく気がするが、ARモニタは異常を検知していないので気のせいということにしておこうか。


「ホントはこんなつもりじゃなかったんだがな、適当なものを放り投げて終わりにするつもりだったんだ。オメェの諦めの悪さを気に入っちまった俺のミスだなあこれは。彼女は俺の特製品だ、下手な扱いしたらぶち殺してやる」

「そいつは悪かったな、今度酒でもおごるからとりあえず俺の質問と依頼を請けてくれ」

「今度といわず今日奢れ、思い立ったら吉日ってのはジャパニーズの言葉だろうが。名前決めたんならあとは仕事の時間だ、さっさと要件を言え」


アプリケーション開発はもともと自分とAIで行うつもりだったが、ふと思いついたことがあったので急遽ねじ込むことにした。

俺の良そうではできるはずという代物で、だがどうやったらそれができるのかという基礎的な知識はないので頼んだほうが早そうなものだ。

VRというかI.E.S.の接続部が頸椎で、置換手術が必要というのは某SF作品の影響があるというのは隠しようがないですが、VRMMOにありがちなフルダイブという機能を使うにあたって最低限必要なだと結論付けたっていうのがあります。

その理由が第三世代VRとして位置付けたアレとなります。

HMD形式だとどう考えても夢遊病患者製造機にしかならないというイメージしかわかないですし、ネットワークダイブ機能があるならHMDである必要性がありませんので。

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