日給5000ドルの底辺オヤジ
底辺だと思ってたらお金持ちになっていたオッサンのお話。
無茶をした理由は本日が週末であることが一つ。
もう一つは真っ赤なDangerの警告が出たままでも2~3コマ分ならば、座学くらいは受講可能だと初日すでに体験済みだということだろうか。
結局4回目の死亡と同時にネットワークから叩き出されたが昼休憩の1時間で多少回復し、午後のカリキュラムでログイン不能状態にはならなかった……グリーンルームやリラクゼーションルームを利用したのがよかったのかもしれない。
人類の適応力というのはなかなかの代物で、訓練初日にあれほど死ぬ思いをしたフルダイブも、ただ仮想空間にいて座学の講習を受けているだけならばどうにでもなるというレベルに落ち着いていた。
「いうても午前中に無理しすぎたなあ、つうかアレなんなんシルビア強すぎでしょ」
「俺が積み重ねてきた自信が木っ端微塵なんだがだれか慰めてくれないか」
俺がヌッ殺されまくるのはまだいい。
あんなんでもこの色んな訓練乗り越えまくって更に実戦で実績を積み重ねてきた女なので、俺より強いのは当たり前である。
だからこそ、この気のいいマッチョマンたるハーヴェイが愚痴る気持ちもよくわかる。
だからシルビア、隣の席に座ってハーヴェイに向けてニヤケ続けるのはやめてあげてくれないか心折れちゃう。
「今はそんなもんだと思って殺されておいてよ、そのうちいい感じに収まるようになってくると思うしー」
「今時アニメでも聞かないようなトンデモセリフね!」
ガラッティのツッコミを皮切りに、現実は小説より奇なりってかHAHAHAふざけんな!と全員一斉にツッコミを入れたところで、シルビアは満足げな顔して逃げていった。
最もラーヒズヤはキャベツに味噌つけただけのものを、シャリシャリと音を立てながらウサギさんのように食べているのでいつもどおりだが、彼はストレスがたまるとウサギ化するクセがあるのかもしれない。
多分今回のはフルダイブによるストレスというよりは、彼女に歯が立たなかったというゲーマーとしてのプライドだ。
「今日はお試しだったけど、来週からはアレもカリキュラムに組み込まれてくるんでしょ、やっていけるのかなあ」
クソでかい溜息をついてからエールを煽っているガラッティの愚痴ももっともで、俺からしても不安感しかないが、まあやるだけやるしかないのは以前申し上げました通り。
しかしまあ、あんな非現実的な現実――もっとも仮想空間だが――を見せつけられると上がりかけた士気も下がるってものだ。
「まあとりあえずやるだけやるしかないだろう、それにしてもあの仮想空間には驚いた、軍にいたときの現実世界での格闘訓練の時と全く同じ感覚、つまり地球上での訓練と完全に同じに思えた」
ハーヴェイの言葉を詳しく細くするなら、感覚上での話だけど地球にいたころの軍の仮想空間よりもこっちの仮想空間のほうが正しく地球の環境をシミュレートできてるってことだ。
それがどういうことかというと、地球上でシルビアとハーヴェイが喧嘩したらハーヴェイが多分負けるってことでもある……恐ろしいなあオイ。
ちなみに戦闘訓練時の仮想空間は体育館みたいな内装の建物でやっている。
多分そのうち受け身とかそういう訓練もやるんだろう……多分。
「まーとりあえず明日明後日は休みなんだ、先の事で悩んだって仕方ねぇよ。死んでから考えようぜもう」
そんなわけで俺はヤケクソモード。
実際悩んで解決することならいくらでも悩むが、そうじゃないなら悩むだけ無駄なのである。
全員で酒かっくらって管巻いているわけだが、平均的ジャポネーゼからは「水を飲むように酒を飲む」と評される俺ですら、コイツらに囲まれると飲み比べしようぜとはならない。
こいつらの飲み方はなんと言うべきなんだろうか、呼吸するかのように飲んでいるというべきだろうか……ロシア人がいないだけマシだということは、経験上確実だ。
「ひとつ分かったことは、地球上で噂されている人的損耗の話のうちの一部は事実だということだ。心が折れておかしくなってしまっても不思議ではない」
「一部っつーかほとんど全部じゃね、だけどブラックっていうのとはちょっと違うような気もする。ここは初期教育だけでもアホほど金かけてるぞ」
珍しいラーヒズヤの長話に俺が合の手を入れる。
彼や他の同期がそれに気づかないはずもないが、何となく必要な気がした。
「実はこの間ステーションの職員とディナー行ったときに聞いたんだけど、カリキュラム最後の1か月に入る前にステーション担当企業のエントリーモデル艦を1隻貰えるらしいのよね」
「へぇ、そのエントリーシップはいくらなんだい?」
「5億ドルよ」
ファッ!?と思わず叫びそうになったが、ハーヴェイのクソデカい「オーマイガッ」のシャウトで思いとどまることができたし、5億ドルって円換算だといくらだっけとか考えたりもした。
この会社は1つの仕事に対していくらという感じで給与が支払われ、それは訓練カリキュラム課程の俺たちにも適用される。
具体的に言うと、俺が初日に受講した1つ目のカリキュラムは「Day1-Crriulum1」という名称があり、クリア報酬が1000ドルとなっている。
今のところ1日5コマの座学を5日修了したがすべて同じ値段だが、訓練課程なので多くは望まないといっても地上であればこの時点で過剰な報酬と言っていいだろう。
だがその直後にプレゼントされる艦船のお値段が5億ドル、一体ディスカバリーは一人育成するためにどれほどの金を注ぎ込んでいるのだろうか。
そしてそれをやってもなお成立する企業ということは、どれほどの金が宇宙に眠っているのだろうか、という疑問に行き着くのは当然のことのはずだ。
今のところ俺が言えることがあるとすれば、誰も羨ましがってくれそうもない日給5000ドルの男に成ったということである。
俺はニートどころか食い詰めた失業者すらも裸足で逃げ出す株式会社ディスカバリーの社員様なのだ。
仮に合コンで給与を言い放ったところで、プリチーなガールもビューティーなレディも、誰も俺のほうを見ようとないだろうというのは十分予見できる。
年齢や見た目部分は全部横に置いとけ、俺との約束だ。
なおガラッティがサラっとデートめいたイベントが発生したと吐き出しているが、雄どもは皆おっさんなので当然そこに突っ込んだりしない。
デートしたけりゃ自分が誘えばいいだけだからだ。
ただ単に、納豆フルコースに付き合わされるというだけだ。
いい子ちゃんしてたガキの頃とは違い、ブラック・カンパニー・ソルジャーになってからずいぶん図太くなったと我ながら思っていたが、それでもこれに耐えきれるかどうかは神のみぞ知るとしか言いようがないと感じていたのだった。
艦船のお値段は太陽系換算でいうと目玉が飛び出て恒星間旅行に行ける気分ですが、銀貨規模でいうとなんてことない値段設定とするためにこの価格です。
この物語の風呂敷はタイトル内では太陽系の中だけで済ます予定で書き始めましたが、次を書こうと思っても天の川のほんの一部まででとどめたいところです。




