日本で古来より口伝にて伝わる日の出を祝う儀式
文中に書いたと思い込んでいたどうでもいい2222年地球環境の設定が、消し飛んだSSDの中だったということに気づいたのが今日。
覚えていたらどこかで挿入するとしましょうか。
脳から体まですべてを酷使しまくった翌日、UTC4:30にさわやかに目覚めてしまった俺は、バッキバキの体を引きずりなんとか通路に出ていた。
前日のロングランによってなんとか脳みそから余計なものをある程度は追い出せていたようで、食堂のあの状態を思えばかなり頭がクリアになっているのを感じる。
流石にこの時間では誰もいないか、と思ったが思ったより通路を歩く人を見かける気がする。
「あーすんませんおはようございます。なんかみんな朝早いんすね、どっかいってるんです?」
見知らぬ先輩ステーション職員――念のため申し上げておくとここで声をかけたのは男性職員だ――に話を聞いてみると、
「光ルームで目覚ましをする奴もいるし、グリーンルームで森林浴をする奴もいる、この時間動いてるのはそういう奴らだよ」
というお返事をもらえた、ありがとうごぜぇますだ。
地球外にいると地球的な24時間が1日という枠に納められないが、地球人は長らく太陽の周期に合わせて生きてきたため放っておくと体内時計がくるってしまう。
そのため"朝"に合わせて光ルームで強い光を浴びて体内時計を合わせてやらないと、それだけでストレスとして蓄積されてしまうそうだ。
グリーンルームもストレス緩和のためのものだろう、ステーション通路にも、もちろん俺の個室にも観葉植物は結構置かれている。
個々の観葉植物の酸素供給量なんてたかが知れているのでそれ目的でないのは明白だったが、なるほど少しでも地球の自然環境を目に入れることでストレス緩和を図っていたんだな。
俺は光ルームで、光を出す装置に向かって両腕を上げ手のひらを向けて「タイイイイイイイイヨオオオオオオオオオ!」と叫ぶ日本神道由来の神聖なる儀式を行い朝を祝う。
誰が考えたのか今となっては知る由もないが、伝え聞いたところによると甲高い声で叫んではいけない。
ちょい渋気味のイイヴォイスで、姿勢よく大声で元気よく発声する必要がある。
もちろん最初から最後まで全部嘘だが、周りの職員にはそういう儀式なのだと真顔で伝えたし、それは結構好評だった。
全身に強く暖かい光を浴びながらバカをやると存外スッキリするもので、ストレス解消行動としていいんじゃねーかと昨日からのノリではっちゃけただけなのである。
ステーションの早朝、「タイイイイイイイイイヨオオオオオオオオオオオ!」と叫ぶ職員が現れだしたのはそれからだ。
その後グリーンルームに入ったが思わず笑ってしまった――この区画だけでとんでもないコストがつぎ込まれているのがよくわかるからだ。
足元は土と岩と沢山のコケで覆われていて、背の高い木から背の低い木まで多種多様な木々があり、下を見れば色々な草が生えていて、小川まで流れている。
木が生えているということは結構深いところまで土で埋められているということだし、小川の水源は循環型のはずだが、地上の一部を火星の軌道ステーションで再現しようってんだからどれだけ金使ったのやらという話だ。
しかし、それに見合った効果はあるといっていいだろう。
濃密な土と水とコケと、草木の匂いに包まれたこの部屋は立っているだけで頭がすっきりしていくのがわかる。
こういうのが好きなやつはいるのもよくわかる。
地球にいたころは意識すらしなかったが……これはとてもとても必要なものだ。
その後はリラクゼーションルームにいて機械のマッサージを受けた。
前日の無茶なロングランのダメージを少しでも回復させるためだが、よく見ると整体区画や針灸師の区画まであるのがわかる。
ステーションの日本人職員のリクエストがあったのかもしれないし、日本居住経験のある外国人の発案かもしれないが笑ってしまう。
「ヴァーーーーーー、出来るだけぎりぎりまで寝ていたいがこうなってくると早寝早起きも悪くねぇなー」
「そうだぞ、早寝早起きはいいものだ」
誰だお前と声が聞こえてきたほうに首だけ向けると、もう少ししたら爺と呼ばれる年齢と思われるチョイハゲ・ミドルエイジマンが同じようにマッサージを受けていた。
早寝早起きはいいものとそいつはいうが、がっつりと刻まれている目の下のクマは、ワタクシめは徹夜明けでございますと強烈に主張している。
「どーも、俺はヤマト。おっさんだがヒヨッコ研修生だ」
「ああ知ってる。しかし宇宙で40歳未満はまだまだクソガキだ。安心して死ぬまで仕事しろ」
とんでもねぇことを当然のような顔して言い放つジジイだったが、俺の中ではよくあることなので気にしない。
会社にもよるがブラックを極めるような組織において、40歳なんて若手であるというのは言葉だけじゃなくて実際そのとおりって場合がままある。
年齢や経験を積めばいいってわけではなく、若い奴は若さゆえに逃げ場が豊富だし、スクスク育つと当然の権利として転職されるので、たまたま入ってきた中途のおっさんが辞めなければいつまでたっても新人っていうパターンだ。
ディスカバリーはどういうパターンかわからんが、地球の評判的な意味でガラッティのような新卒が直で入社するパターンは絶望的に低いはずだ。
ならば確かに俺程度の年齢なら、ケツに殻のついたヒヨコだってのは十分にあり得る。
時計を見るとなかなかいい時間だ、飯でも食ってゆっくり茶でも飲んで、飽きたら個室で火星でも眺めてりゃ今日のカリキュラムの時間になるだろう。
「じゃあ俺は行くぜ。そういやアンタの名前聞いてないんだがー……」
「zzzzzzz」
大口開けて思いっきりいびきをかいてた……俺は苦笑しながらおやすみとだけ言い食堂へと向かう。
「どうして俺はこんなに女と縁がないんだろうな、このステーションでもすげーいっぱい女性が働いてるんだけどな」
ガラッティは同期でシルビアは教官だ、二人とも美人だから不満なんてあろうはずもない。
そうじゃなくて、ナチュラルに出会って会話する相手が毎度男ばかりってのはどういうことかと、俺が言いたいのはそういうことなのだ。
所謂日常休憩回という奴です。
二子山がプルンプルンしたり肌色が割り増しされたりするのは、私にとっては圧倒的非日常なので、遺憾ながらやむを得ずといったところです。




