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頭の中に夢や希望を残す方法は、古の日本人が教えてくれた

頭空っぽにして色々リセットする手段は、人それぞれ持っているものと思われます。



座学で学べるものは多岐にわたる。

航法や天文学、まあその他色々だが脳みそに情報をぶち込むお仕事ってのは本当に大変だ。

わかりやすいところでいえばI.E.S.アプリケーション開発の言語習得やサーバープログラミングなどだが、AIについても学ぶことができた。

AIと一口に言っても多岐にわたるが、太陽系地球人が宇宙に上がった時に言うAIは疑似人格を搭載したものらしい。


実のところI.E.S.と違ってこの手の高性能AIが民間にまで降りてきたのは最近の事だ。

今では当たり前のように地球上の人類もAIのサポートを請けられているが、軍事用でさえ疑似人格AIを使うようになったのはここ30年ほどの事と言われている。

それまではI.E.S.はAIの補助なしに使用されてきたが、その理由はI.E.S.自体が便利すぎるというところにあるだろうか……完璧に使いこなすにはあまりにも自由過ぎるのでやはりAIが必要になるだろうが。


ゲームなどに搭載されているAIもまるで人間であるかのようにふるまうが、宇宙側でいうものと地球側でいうもの、つまりAIの設計思想はまるっきり別のものだということ。

ゲームのものはプレイヤーのプレイングスタイルに合わせて多数ある言動の組み合わせの中から最適と思われるものをチョイスして演じられるもので、故に疑似人格と呼ばれている。


では宇宙で利用されているものは何かというと、使用者の許可の範囲内で自立して思考し成長して行動するAI……しかしあくまで人ではないので疑似人格と言い張って……単語の上では同一なんだよなあ。

この辺の機微はAIエンジニアではないので、コレだという言葉を俺は持っていない。


ともかく、俺からすればそりゃもう完全なる"人格"だよと思うが、あくまでその存在は"ヒト"ではないと強調しているところから察するに、線引きをしなければならない事態がどこかであったのかもしれない。

いつか語ったかもしれないが、業務上の決まり事っていうのは失敗の歴史を積み重ねてできるものである。

 

さてその疑似人格AIの何が重要かというと、俺たちパイロット一人当たりにつき――あえてこう表現するが異論も反論も認める――"一人のAI"が配布されるということだ。

現在は本当にプレーンな状態なので、個人の状況に合わせて初期成長をさせるためにI.E.S.接続下の俺たちをモニタリングしているそうだ。


例えば俺に配布される奴ということになると、俺の言動や各カリキュラムの状況から何が俺に足りてないのか、俺が何を求めているのかがわからないと提案の一つすらできないわけで、初期教育はどうしても必要だとのこと。

ならありとあらゆる情報を全部ぶっこめばいいじゃんと思うが、成長型の人格AIなので、必要以上にあたまでっかちにしてもいいことはないとのこと。


とはいえ初日5本のカリキュラム、

休憩を除けば実時間は5時間にして仮想空間時間40時間のスケジュールは、俺たちの心をミキサーにかけたうえで寒天で固めて破棄処分するには十分すぎた。


ゲーム好きを自称する以上フルダイブ童貞でないにも関わらず、8倍速はフルダイブしてすぐに脳ストレス値の黄色い警告表示が視界の隅に出ていたし、それぞれのカリキュラム終了前くらいにはもう真っ赤なウィンドウがそこかしこにポップアップしているという惨状だ。

休憩に合わせてログアウトしてもしばらくは動くというか目を開けていることすら難しい疲労感で、本日の3番目のカリキュラムに入るころには全員ラーヒズヤが如く休憩だろうが何だろうが一言もしゃべらなくなっていた。


こんだけ余裕を感じる隙すら無い状況に陥ったのはいつぶりだろうか?

俺は一般人だからよほどのことがないとここまで追い込まれたりしないわけで、少なくとも片手で数えられる程度の凄まじいしんどさといえるだろう。

ITドカタ界にいた当時は似たような状況にしょっちゅうなっていたかもしれないが、脳処理2倍か8倍かではやっぱり全然ストレス値が違うもんだ……年齢のせいではないと思いたいところではある。


「ぐーるぐるぐーるぐるぐーるぐる、ぐーるぐるぐるぐーるぐる」

「いかん、クレリアが壊れた……しかし救護室に運び込む余力がない」


ガラッティ(イタリア人)が完全無欠の無表情を貫き、死んだ魚のような目と真っ青な顔色で変な歌を歌いながら納豆をかき混ぜ続けている……そろそろ108回転は越えたはずだ。


ラーヒズヤは静かに静かに、まるでウサギがキャベツを食べるかのような様相でまばたきもせずナンを超高速でチビチビとかじっている……こいつも現実逃避中か。


研修組隊長格のハーヴェイとしては気になるところなのだろう、しかし現実は俺もハーヴェイも状態としては限界突破している二人と大差なく、二人揃って死にかけのオヤジにすぎない。

 

「ヤマト、お前は余裕あるか?俺はない」

「俺だってねぇよ……飯食う余裕すらない」


うまい飯を食う為なら命だろうが名誉だろうが惜しくないといってもいい性質を持つ、そんな日本人の俺がこれってのはちょっと異常だ。

基本的にずっと腹がペコちゃんなのは学生時代からあんまり変わらない……もっとも食は年齢相応に細くなりつつあるはずだが。


ガラッティの目の前にあるのは納豆だけ、うさぎちゃんモードのラーヒズヤはともかく、俺とハーヴェイの前にあるのは水だけだ。

 

「ううむ、軍で精神的にどうしようもなくなったときは死ぬほど走ったもんだが」

「それだ!カリキュラム1のあとショップ区画にいったんだが途中にトレーニング区画があったぞ」


古くより伝わる日本の格言として、『頭空っぽのほうが夢詰め込める』というのがある……逆に言えば頭がへんなもので埋め尽くされると夢や希望が追い出されるってことで、小学生のころ先生がどや顔でそう言ってたのを覚えている。

夢や希望がなければ明日への活力なんて生まれるはずもなく、このまま放っておくと重大な問題に直面することになるのは火を見るより明らかってわけだ。

仮想空間で死ぬほど脳みそを酷使したところで体が疲労するわけじゃない、そのバランスをどっかでとる必要があるに決まっている。


「よっしゃ行こうぜ」


ハーヴェイにこぶしを向けるとガチコンと合わせてくる、想定外の威力ですごい痛いがこのノリの良さは大事にしたいところだ。

ラーヒズヤはボディービルダーでもある、トレーニング区画と聞いて黙っている男ではない。

いやコイツは素で喋らない奴なので黙ったままだが、救いの神が来たという文字が表示されそうな勢いの表情をしている。

ガラッティは気晴らしできるなら何でもという感じで、納豆を掻っ込んでヌチャァという擬音とともに笑顔を見せた……『イタリア半島の糸引き姫』なる異名の面目を保ったというところか。


その日俺たち……少なくとも"俺は"もう足腰が立たなくなるまで無心で走り続けた……うん、ただの体力不足です。

運動しすぎたおかげで飯が食えなくなるという理不尽すぎるミステイクを犯したが、それでもベッドにキミモミ・ダイヴをした数瞬後にはアホ面丸出しでスヤァできたので、俺たちの行動はあながち間違ってたわけじゃないんだろう。

宇宙に出るための初等教育は、スパルタ式です(慈愛の心

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