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ステイルメイト~黄昏の騎士たちと暁の戦士~  作者: ミズノ・トトリ
EP1 暁と黄昏の邂逅
9/18

戦の後の『宴』 3

国際標準《グリニッジ》時間 午前11時7分

『宴』艦内 特設救護室


「はぁはぁ、ヤクモ!!」


 出雲から聞かされた直後、俺は無我夢中でブリーフィングルームを飛び出し、廊下にあふれた怪我人を目印に、その部屋を探し当てた。


「……でっけぇ声出すなよ、クオン。傷に響く」


 顔の左半分を血がにじむ包帯に覆われ、ベッドに横たわりながらも、我が悪友/東雲(しののめ)八雲(やくも)は、変わらずの悪態を返してきた。

 俺は枕もとの丸椅子に腰かけ、その背後に出雲が立つ。 


「久しぶりだな、いつぶりだ?」

「お前が空母『ふじ』に移ってからだから、1年ぶり?まさかこんな形で再会するなんてな」

「俺もだよ、相棒。ったく、3佐に昇進、栄転した俺がこうして死にかけて、万年2尉で居残ったお前がほぼ無傷とか、どんな冗談だ?」

「……すまん」


 ヤクモに真顔でそう言われ、俺は申し訳なく思ってしまう。

 だが、それを晴らすように、出雲が明るい声で話す。


「こんなこと言ってるけど、クーちゃんが生きてて、兄貴はすっごい喜んでるよ。この艦(ふね)の人が、収容者リスト見て面会させてくれた時も、『クオンの野郎は!?生きてんのか!?』って私より先にクーちゃんの心配してたぐらい」

「おまっ、出雲!なにばらしっ……つぅ……」


 赤面しながら起き上がりかけるヤクモだが、すぐに激痛で倒れ込む。


「ヤクモ!」

「つゥ……、だから声がでかいって。俺の事より、お前だよクオン。『とらふす』は沈んで、所属部隊は全滅したって聞いてたんだ。どうやって生き残った?」

「ちょっと、話せば長い」

「良いから聞かせろ。どうせあと30時間は、なんもできねぇで暇潰すしかねぇんだから」


 そう悪友にせがまれ、俺は東雲(しののめ)兄妹に、これまでの経緯を説明した。


*****


「……イーディア人を捕虜にしたぁ!?このシップに乗ってんのか!?」


 戦闘開始から救助されるまでのあらまし(・・・・)を語り終えた俺に、ヤクモは声を潜めて尋ねてくる。


「ああ。多分、俺達と鉢合わせない為に、別の区画に居るんだと思う」


 俺も周りを気にしながら、3人だけに聞こえるように返す。 

 ここに居るのは皆、異星人と銃口を向けあった者達だ。彼らがラトゥーラの存在を知った時、アルシャイン隊長たちの様に、友好的に接せられるとは限らない。

 現に、冷静に見える出雲は、膝の上で汗の浮いた拳を作っているし、ヤクモも、心電図モニターを横切る波の量が増えている。


「それで、どんなだった?筋肉ムキムキのマッチョマンか?それともインテリヤクザ風か?」

「兄貴、なんで悪人顔に限定するの?」

「えっと、そうだな……」


 気を紛らわせようとする兄妹の漫才を横目に、俺は格納庫での彼女を思い出そうとする。

 だがなぜか、浮かんでくるのは、こちらを見つめる翠(みどり)の瞳だけだった。

 純粋な好意だけが浮かぶ、宝石の様な、綺麗な眼だった。


「……クーちゃん?」


 ふと我に返ると、黙り込んでしまった俺を心配して、出雲が顔を覗き込んでいた。


「あ、いや。俺もちらりとしか見ていなくて。それより」


 動揺をごまかすように火照った顔を揉みながら、俺は出雲に問いかける。


「こっちも出雲に聞きたい事があるんだ。お前、各国の部隊編成とか兵科とかに詳しかったろ?」


 聞きたかったのは、俺達の恩人<ブレイブナイツ>について。

 整備士を志す以前からのミリタリーマニアであり、地球連合軍のすべての兵科に通じていると豪語している彼女なら、と考えての事だ。本当は、サクラ副隊長から聴けたはずだが、その前にぶっ倒れてしまったから。 

 しかし出雲は、質問の意図を汲み取ってはくれたものの、静かに首を横に振った。


「残念だけど、あの<ブレイブナイツ>って部隊の事は、私にも判らない。『IRSM(イラサム)』に関係ある、ってぐらいしか」

「ああ、その辺の事なら、副隊長殿から聴いた。『IRSM』の防衛部『黄昏の星々』の遊撃部隊が、<ブレイブナイツ>だって」

「やっぱり……そうなのね。新しく建造されたのでなければ、『宴(うたげ)』なんて奇抜な名前の艦(ふね)、一隻しか存在しないわ。『宴』型兵装実験巡洋艦の一番艦『宴』」


 今から3世代前、つまり第7世代の艦艇に使われる兵装や機材の試験運用を目的に、日本の大手企業を中心として造られた艦。10年ほど運用された後、我が母艦『とらふす』を含む第10世代の艦が導入されたのを機に除籍されて、2番艦の『サバト』、米軍所属だった同世代の『カーニバル』級駆逐艦3隻と共に、『IRSM』に払い下げられたという。


「払い下げは『IRSM』側からの申し出だったらしいわ。火星圏より外縁宙域での活動の為、だったかな?軍の技術部も同じ国連傘下の組織、つまりは身内に渡るって事で快諾したみたい」

「『IRSM』って医療関連の組織だろ?なんで医者が武装する必要があるんだ?」


 確かに、紛争地域での活動は、戦闘や不意の武力衝突に巻き込まれる危険がある。だが、同じ国連所属という事なら、それこそ連合の正規部隊による警護を受ければ良いんじゃないのか?


「政治的な対立に関係なく活動する為、らしいよ。地球の中東地域や金星圏コロニー群のように、国連加盟国同士の代理紛争が起こっている所だと、正規軍は自由に動けないから」

「代表的なのは『ギュムナシオン17』コロニー群だな。中露連合と米国が領有権でモメている。睨み合っているのが世界のリーダー同士ってんだから質(たち)が悪い。『ディフロユールの厄災』から150年、宇宙人との戦争が無ければ、20世紀後半の冷戦が再現されてたかもしれねぇ情勢だ。まぁ、今でもキナ臭い噂話は流れてるんだけどな」

「キナ臭い噂?」


 俺と出雲が首をかしげると、八雲はちらりと周りを気にする素振を見せながら、近くに来いとジェスチャーを送る。

 2人で枕元へ身を寄せると、八雲は小声で語りだす。


「お前ら『増援組』の耳には届いてねぇだろうが、前線の兵たちの間で飛び交っている話があるんだ」


 曰(いわ)く、戦闘の最中に国籍も所属も不明な部隊が目撃されていて、開戦の発端もその謎の勢力である。

 曰く、某国の軍部が、非合法な実験や兵器開発を行なっており、謎の勢力も関係している。

 曰く、大量のイーディア人捕虜が、極秘施設に収監され、情報取得の為に拷問を受けている。


「それって、よくあるデマや陰謀論の類じゃ……」


 ゴシップ好きな出雲でも、この話には懐疑的だった。

 しかし八雲は、何か心当たりがある様子で、真剣な眼差しをこちらに向けている。


「俺もそう思っていたさ。今日この時、このベッドに寝かされなければな」

「それって、この艦が、<ブレイブナイツ>が、その噂の正体だって?」

「そもそも、『IRSM』はこの戦争で、イーディア帝国どころか地球軍にすら味方しねぇって、『中立宣言』をした組織だぞ」


 ヤクモの言葉で、俺もハッと思い出した。

 開戦と同時に木星圏のコロニー『アカデメイア』がイーディア帝国軍に占領され、その際コロニーに駐留していた『IRSM』の職員が大勢取り残された。

 元々、戦争への反対意見を表明していた『IRSM』は、この直後に地球・イーディアの双方に対し『中立』を宣言。如何なる武力を用いた協力も支援も行わない旨を通告したのだった。


「そんな連中が、なんで戦場にいる?おかしいだろう」


 ドキリッ、と、俺の心臓が軋んだ。

 正体不明の部隊、考え方によっては、<ブレイブナイツ>は正しくソレだ。


 格納庫で遠巻きに見た、赤いアイマスクをつけた隊長の女。彼女から、何か異様な気配を感じなかったか?


 カスミ・アルシャインという人間について考え、胸の奥に妙なざらつき(・・・・)を覚えていると、不意に八雲が俺の胸ぐらをつかんだ。 


「いいか、クオン。俺はこんな身体だから、もう何が起こっても覚悟はできてる。だが出雲は別だ。だから頼む、もしもの時は、俺に代わって妹を守ってくれ!……くぅ!?」

「ヤクモ!」

「兄さん!!」


 くの字に折れ曲がり苦しみだした悪友に、俺達は飛びついた。

 心電図から嫌な警告音が発せられ、別の負傷者を手当てしていたドクターたちが集まりだす。


 引き剥がされ、俺達は見守る事しかできなかったが、八雲の容態はすぐに安定し直した。

 幸い、傷口が僅かに開いただけで命に別状はないそうだが、俺達はヤツを安静にすべく、その場を退去させられた。


『妹を頼む、クオン』


 悪友の言葉が無意識の内に、俺に出雲の手を握らせていた。

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