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ステイルメイト~黄昏の騎士たちと暁の戦士~  作者: ミズノ・トトリ
EP1 暁と黄昏の邂逅
8/18

戦の後の『宴』 2

~回想~


 珍しく、ヤツ姉(ねぇ)の夢を見た。寝落ちする前に、アレの暴君っぷりを思い出したからだろうか?


『久遠(クオン)。大事なお知らせがあります!』


 高2の冬休み。居間でくつろいでいた俺に、早々と大学卒業を決めて遊びまわってた姉が、意味深な笑みを浮かべ、話しかけてきた。


「お知らせ?まさか、またトラブルしでかしやがったか!?」

『違うよぉ。さすがに大卒って歳になってまで、バカはやらかさないよ』

「どうかなぁ。一昨日ゲーセンで、カツアゲ犯をクレーンゲーム機にツッコんで逃げた覆面ゲーマーって、姉ちゃんだろ?」

『ぎくっ!な、何のことかなぁ……。私、ゲーセン行くとき、レスラー(・・・・)マスク(・・・)被る趣味ないし』

「(レスラーマスクだったのか)あそこ、半年前に出禁になってたろ。確か、入り口のドア割ったんだっけ?」

『出禁になってないし!割ったのは私じゃなくて、捕まえた置き引き野郎だし!まぁ、あの一件で要らない注目浴びるようになって、店長さんに許可もらって覆面を……あっ』


 見事に釣られ、自白し赤面するたヤツ姉を、俺は本題へと連れ戻す。


「はぁ。その件じゃないなら、他に何やらかした?」

『やらかしたの前提にするのやめて!?今回は違うんだから……じゃんっ!』


 自信満々に、ヤツ姉は後ろ手に持っていた一枚の書類を、俺に突き付けた。


「……合格、通知?っ、JDFに受かったのかよ!?」

「それも~、『重力圏外特機(とっき)隊』!お姉ちゃん、一足お先に夢、叶えてきま~す♪』

「終わった。日本、いや世界が滅ぶな」


 ソファにぐったりと崩れ落ちながら、俺は天を仰ぐ。


『ちょっと!?縁起でもないこと言わないで!』

「自己中心的な正義感で、町内の不良を『狩ってる』女番長が、人型ロボのパイロットだぞ。安い挑発に乗って、友軍巻き込んだ大乱闘になるのが目に浮かぶよ」

『でもそうなったら、いつもみたいに助けてくれるでしょう、久遠(くおん)?』

「俺もパイロットになるの前提かよ。いや行くけどさ。宇宙には」


 『一緒に宇宙へ行く』という夢は、ガキの頃に2人で誓い合った目標でもあるのだから。


「……くそっ、俺もストレートでJDFに入ってやるから、宇宙で6年、待っててくれよ、姉ちゃん」

『もっちろん!これまでみたいに頼れる助っ人が居ないんだから、大人しくしてる。だから……』


 一転して優しい口調になったヤツ姉に、前から抱き着かれた瞬間、周りの風景が消える。


「一日でも早く、『私』を助けに来てよね。クオン君」


*****


 気が付くと、知らない天井を見上げていた。


「ああ、そっか。俺今、宇宙に居るんだった。てか、なんであの時の夢?」


 別に、あの合格通知を見せられた日が、姉との最後だったわけではない。彼女の訓練生時代、学園祭などでちょくちょく顔を合わせていたから。

 それに……、


「『助けに来て』なんて、言ってたか?」


 夢にしては、あの一言だけが妙に生々しく耳に残った。


「まぁ、今はもっと気にすることがあるか」


 いつもの習慣で、まずは両手を上に伸ばし、自分が2段の寝床の下段にいる事を確認。これを怠ると、つい勢いよく起き上がってタンコブをこしらえる事になる。

 そして、片手で、床の様子をまさぐり(・・・・)ながら、横に転がり出るように床から離れる。仄暗い部屋を見渡すと、4畳半ほどの部屋に二段ベッドは1つだけ、後は机一つと椅子2脚、コーヒーメーカーが1台あるだけだった。

 ボウっと灯る壁のパネルを触ると、部屋の明かりが点き、同時にコーヒーの沸く音がした。


「あれ?」


 メーカーに近づくと、自動で1杯分のコーヒーがガラス製のポットに淹れられる。機械にはメモが張られていた。


『目覚まし代わりに用意しておきました。飲んだ後は放っておいて。後で片づけるから♪

 その後、もしくは先に食事がしたい場合は、下に書いてある見取り図で食堂に来てね。そこならウチのクルーが誰か捕まるはず。

 HAVE A NICE TROU(・・・・)BLE(・・・) by Alshain(アルシャイン)』


「『TRAVEL(トラベル)』と間違えたのか、ジョークのつもりで『トラブル』にしたのか、どっちだ?」

 

 もし、同じメモをヤツ姉が描いたなら、確実に後者だ。アレの頭の辞書では『ブラックジョーク』も『ジョーク』として扱われている。


「はぁ、とりあえず、いただきます。……あっ」


 ポットを取り上げてから気づく。あのアイマスクウーマン、カップを用意し忘れていた。

 こういうところも、ヤツ姉そっくりだ。と、サクラ副隊長に心から同情した。

 ……食堂へ行こう。 


*****

仮想西暦2186年2月16日 国際標準(グリニッジ)時間 午前11時

兵装実験用軽巡洋艦『宴(うたげ)』艦内 食堂


 人型機動兵器に宇宙戦艦、スペースコロニー、果てはワープ航行までもが実用化された昨今でも、太陽系内の星々を行き来するのは至難の業だ。火星の戦場から地球までは、およそ2日の長旅となる。

 俺が回収され、<宴>が火星圏離脱を始めたのは、日付が変わる少し前。メモを頼りに行きついた食堂のデジタル時計は、午前11時。地球までは、残り37時間ほどだ。

 カレーを受け取り席に着きながら、食べ終わったら何か手伝いでもしようかと、席が3分の1ほど埋まっている食堂内を見渡す。

 この艦の正規クルーの姿を探したのだが、厨房の烹炊(ほうすい)班員ぐらいしか見当たらない。周りにいるのは、俺と同様に救助された国連軍の兵士たちだった。

 それも服装を見れば、パイロットに限らず、整備師や砲手、通信士と多岐に渡っている。国籍もバラバラだ。

 

「かなりやられていたからなぁ。『とらふす』は無事でいるか。どこかで被害状況を確認しないと……」


 後方に配置されていた我が母艦の安否を気にしつつ、一匙すくった、その時だった。


「クーちゃん?クーちゃんだよね!?」


 振り返ると、立った状態でも座った俺と目線が合うぐらい小柄な、作業着姿の少女が居た。


「……出雲(いずも)、なのか?」



 東雲(しののめ)出雲(いずも)。訓練学校時代から組んでいた最初の相棒(バディ)、東雲(しののめ)八雲(やくも)の妹。3つ年上の兄貴を支えたい、とメカニックの道を志し、今は俺と同じく「とらふす」に乗り込み、新米整備士として、俺の<アクィラ>の面倒を見てくれていた。

 そんな彼女が今、俺の目の前にいた。


「生きてたんだ、クーちゃん。よかったぁ!!」


 思いもよらぬ場所での再会に、自分の食事を投げ出し抱き着いてくる彼女を、俺は受け止めることしかできない。


「なんで、お前がここに?『とらふす』は?他のチームはどうなったんだよ!?」


 少し考えれば、理由は察せる。彼女のかけている眼鏡は、端の方にヒビが入り、頬にも小さい火傷を負っていた。 

 だが、認めたくなかった。そんな馬鹿なと、頭が激しく拒否する。

 それでも、悲報は全くの容赦なく、こちらにやってくる。


「……クーちゃん、聞いてないの?」


 俺の言葉に出雲は肩をビクリと震わせ、恐る恐る顔を上げると、迷うそぶりを見せてから、静かに告げた。


「巡洋艦『とらふす』は、……轟沈したわ」


*****

数分後 ブリーフィングルーム


 胃が何も受け付けなくなった俺は、出雲と食堂を出て、彼女の案内でブリーフィングルームへ向かった。

 普段は作戦会議が行われるであろう一室では、通夜同然の空気が流れていた。

 中にいた先客数名は、皆うなだれるか、険しい顔で正面のスクリーンを眺めている。


「彼らも私たちと同じ。この艦、兵装実験艦『宴』に救助された人たちだよ。そしてここには、NGISS(エヌギス)から送られてきた戦況速報が開示されているの」

 

 出雲の言葉通り、巨大なモニターには国連軍の被害報告が流れていた。

 

『第4次火星圏防衛戦(第14次対イーディア戦) 損害報告

 参戦国:中露連合軍、日本国防衛隊、イギリス軍、EU連合軍、USA宇宙軍。

(東南アジア諸国軍、中東同盟軍、オーストラリア軍は後方支援活動のみ)

損害 

・艦艇  525隻中 轟沈確認275、大破70、中破3、不明8。

・艦載機 6000機中 撃墜2300、大破1500……』


 全体の損耗率は、5割を超えていた。それを見た俺は立っていられず、近くの席にへたり込んでしまう。


「前衛が食い破られたのは知っていたけど。この被害は、艦隊中央までやられたのか?」


 俺が知る作戦計画では、火星再侵攻のため集結しつつある敵艦隊へ、前衛が艦砲射撃と白兵戦で攻撃を仕掛け、それを俺達、中・後衛が援護するはずだった。

 だが、突然の攻撃で前衛が一瞬で壊滅し、即座に作戦中止と撤退が決定。俺達『リィラ・アクィラ混成部隊』は、前衛の生存者救助と艦隊護衛の二手に分けられ、「とらふす」を含む艦隊は後ろへ転進したはずだ。

 だが、艦隊の轟沈数を見れば、前衛だけでなく、逃げたはずの中・後衛の艦まで沈められた計算になる。


「……、……『とらふす』は最期、どうなったんだ?」


 顔を上げられないまま問いかけると、出雲は暗い声で、機械的に返してくる。


「クーちゃん達が救助に向かって30分ぐらいしてから、主戦場を抜けた敵艦隊の一部が、突貫して来たの。そのうち一隻を、『とらふす』『なるかみ』『あきば』の3隻がかりで仕留めたんだけど、『なるかみ』は途中で轟沈。『あきば』も航行不能になって、『とらふす』は……艦橋(ブリッジ)に直撃弾2発、艦長たち幹部陣が全滅しちゃった」

「……くっ」


 白い口髭をいたく大事にしていた、優しげな雰囲気のじいさんの顔が、脳裏をよぎった。


「機関部もやられて、生き残ったクルーは救命艇で脱出したんだけど。友軍は救助どころじゃなくなってて。漂流していたところをこの艦に収容されたの。生き残ったのは、私たち整備班と、砲撃班の5人だけだった」


 出雲が挙げた乗組員は、20人に満たない。150人近く乗っていた中で、それだけしか残らなかったのだ。


「艦隊護衛に割り振られていた、星野隊や日向(ひなた)隊は?」


 他の航空隊員の安否を尋ねる。結果は聞かずともわかっていたが、確認せずにはいられなかった。


「全員、3階級特進が決定してる。でも、偶々判ったんだけどね?」


 悲しみを押し殺した中に、幽かな喜びを混ぜて、出雲は告げた。


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