コスモの決死圏
『親知らず』という隠れテロリストに襲われ、執筆が遅れてしまい申し訳ございません。
今回からEP2スタートです。
2186年2月19日 国際標準時間午後11時40分
総司令との対面から2日後。オペレーション『ステイルメイト』が決行された。
医療コロニー『ミルキーウェイ』から116名のイーディア人捕虜と国連の特使を護送し、木星圏でイーディア帝国の占領下にあるコロニー『アカデメイア』へと届ける、この極秘作戦に、2つの惑星の命運が託される。
捕虜たちと特使が乗るのは、『トワイライト・アルテミス』号。『黄昏の星々』が保有する2隻の航空戦艦の片割れで、150年前の『ディフロユールの厄災』時に造られた、世界で最初の宇宙戦艦の一隻だ。
随伴艦は、同じく『黄昏の星々』所属の駆逐艦『カーニヴァル』『フェスタ』『パーティ』、そして巡洋艦『宴』の4隻。
そして、5隻の艦隊を防衛するのは、『宴』所属の<ブレイブナイツ>、『アルテミス』所属の<アルティメットクイーンズ>、<チャーミングビショップス>、<デアリングルークス>の4チーム。<ブレイブ>チームと<アルティメット>チームは、航空機と特機の混成部隊。<チャーム>チームと<デアリング>チームは、航空機特化部隊だ。
当然の事ながら、この規模の戦力が一度に移動するというのは、かなり目立つ。
そこで『アルテミス』艦隊は、過激派の目を誤魔化すために、ある一計を講じる事にした。
*****
地球圏 月から5kmの宙域 巡洋艦『宴』 艦橋
<<緊急任務発令!月基地周辺を航行中の艦艇へ通達。同基地より出港し練習航海中の『トワイライト・アルテミス号』が、エンジントラブルで漂流中。救援可能な艦艇は、直ちに向かってください>>
<<こちら駆逐艦「カーニヴァル」、5分で現場に到着予定>>
<<こちら『フェスタ』、『パーティ』と共に修理ドックを緊急出港、8分で向かう>>
作戦開始を告げる無線通信が、スピーカーでこの場に居る全員に伝えられる。
「……始まったな」
ハグ・ラサールは覚悟を決めるように深呼吸を一つ置くと、通信士へ告げる。
「『ミルキーウェイ』へ連絡。本艦はエンジン不調の修理の為、急行できず。代わりに、<オルニス>による搬送支援に当たる」
「了解、『宴』より『ミルキーウェイ』へ……」
通信士のピィ・イェドは通信機へ向かうと、艦長の決定を復唱する。
その隣で、双子の弟で同じく通信担当のプリオ・イェドが艦内のクルーへ連絡する。
「全クルーへ通達。月基地ワープゲート周辺で遭難事故発生。<サバト>班による救難支援活動を行います。<ブレイブ>チームは総員『第1種配置』についてください」
******
同時刻 『宴』格納庫
<<……繰り返します。<ブレイブチーム>は、『第1種配置』についてください>>
「っ!いよいよか」
耳元のスピーカーから届いた声に、俺は思わず体を強張らせた。
緊張している所為で、吐いた息でヘルメットのバイザーが曇る。
だが、その白い靄が晴れる前に、背後から声を掛けられる。
「よう新入り君。しっかり留守番頼むぜ」
バシッ!
勝気な口調での激励と共に、パイロットスーツ越しでも痺れを感じる張り手を食らう。
「ごふっ」
振り返ると、そろって黒地のパイロットスーツに身を包んだ6人組がいた。
その胸元に光るのは、ナイフとフォークを握った骸骨のエンブレム。<サバト>班の面々がそこにいた。
俺に張り手を見舞ったのは、ビジュアル系メタルバンドのような風貌の女性隊員。その後ろに、<スワン>、<クロヴィス>と、見知った顔が並び、残り3人は初顔だった。
「こらティミー、もうちょい加減なさい」
<スワン>が苦笑を浮かべながら彼女を俺から引き離し、待機スペースを出ていく。
「すまんね。この埋め合わせは、明日の歓迎会でするから!」
そう言い残すと、<スワン>たちは用意されていた武装探査艇<オルニス>に乗り込んだ。
<<<オルニス>発艦します。格納庫クルーは宇宙服のチェックを……>>
警告アナウンスが響き、探査艇はエアロックへと運ばれていく。
それを見送った後、俺も待機スペースから立ち上がると、整備が済んでいた新たな愛機へと跳躍した。
『黄昏の星々』仕様の白と赤で塗られた<アクィラ>。その肩と頭部には、『沈む夕日とAquarius』のエンブレム。<ブレイブ>チームの9人目、TACネーム<アクオス>、それが俺/香住久遠に与えられた新しい名前だ。
*****
およそ20分後
月基地 ワープゲート周辺宙域
まもなく日付が変わるという頃、火星への近道であるワープゲートにほど近い宙域では、『ステイルメイト』作戦の準備が静かに、しかし着実に進んでいた。
表向きは、練習航海中の戦艦の事故と、その救助活動。
しかし実際には、エンジンノズルから漏れ出ているのはただの煙幕。乗員も実習生ではなくイーディア人捕虜116名。そして、救助隊として乗り込んでいくのは『アルテミス号』の正規クルーたち。作戦に無関係な艦艇は、この時偶然、駆けつけられる距離にはいなかった。
しかし、『黄昏の星々』所属の艦艇がこのように集結する状況は、どうしても違和感を生じてしまう。普段から、穏健派の実働部隊として動く彼らに目を光らせている過激派にとっては、なおさらの事。
最高戦力である戦艦『オリオン号』が不在であるとは言えど、何かを企んでいるという事は容易にバレてしまう。加えて、事前に内通者からの注意喚起、例えば『過激派を一掃する為の武力蜂起がある』との情報でもあれば、立直・一発・ツモの3連コンボだ。
結果、目的の為に非合法な手段も厭わなくなっていた過激派は、条件反射で動いたのである。
*****
2月20日午前0時
ワープゲート コントロールルーム
通常2日間かかる火星までの道のりを、一瞬に短縮する伝家の宝刀、それが国連軍月基地に併設されているワープゲートだ。月面から高度200kmに浮かぶその姿は、例えるならば、ハンバーガーとドリンク入り紙コップのセット、というもの。
そのハンバーガーこと管理モジュールにこの日、追加茂武の姿があった。
「勘弁してくれよ。俺、左遷初日なんだぞ」
モニターの向こうでエンジン部分から煙を吹いている戦艦を睨みながら、武は愚痴をこぼした。
3日前まで『NGISS』の保守点検を担当していた彼は、国連軍の防衛艦隊が敗走して帰ってきたあの日に、不審な4人組を見かけたことを、上司に報告した。
すると翌日、つまりは昨日の朝に、突然ワープゲートの管理モジュールへ配置換えを言い渡された。要するに、左遷である。
「くそ、『ジョン・ドゥ』どもめ。あれは疫病神か何かに違いねぇ。……っと、念の為に転移システムにロック掛けておくか」
不満を呟きながらも、武は己の職務を全うしようとする。共に左遷されてきた点検班の後輩たちにも声をかけ、漂流中の事故艦がワープゲートに接触した場合への備えを始める。
ところが、それは突然押し入ってきた一団に邪魔された。
「動くな!こちらは『NGISS』保安隊だ!貴様らを拘束する!!」
「はぁ!?」
この場所の管轄は月基地の保安隊のはず。そう反論しようとした武たちだったが、突きつけられたライフル銃が、それを許してくれなかった。
何も出来ずに壁際に追いやられる武達。その目の前で、保安隊の男達はワープゲートのコントロールターミナルを操作する。
「何をしている!?ゲートの近くには遭難したシップが何隻も……。今起動したら、全部呑み込まれっちまうぞ!!」
武が叫ぶと、最初に部屋に押し入ってきた保安隊員/ジャック・ダークマンは、彼を振り返り怒鳴った。
「だからこそだ!今あの連中を葬らねば、地球がエイリアンに滅ぼされてしまうのだ!」
「本気で『IRSM』の艦艇をワープに巻き込むつもりか?」
後輩の一人が、念を押す様に問いかける。その瞳は不思議な事に、突き付けられている銃への恐れが浮かんでいない。
「本気だとも、そうでなければ、こうして汚名を被る事はしない。あの裏切者共は、ここで確実に抹殺する!」
罪悪感を微塵も覚えていない口調で、ジャックは宣った。
武はソレに絶句し、一瞬頭が真っ白になる。その為、3人の後輩たちが密かに笑みを浮かべた事に気付かなかった。
そして、
「言質は取れたな。やるぞ!」
「「ウィルコ!」」
3人のスタッフが、一斉に保安隊員たちへ反撃を開始した。
「なっ!?」
「貴様らなにwぉあ!?」
銃を蹴り上げ、あるいは脇にがっちりを挟みこんだ後に、迷いのない一撃を急所へ叩き込む。プロの格闘家かと見まごうほど鮮やかな動きで、6人いた保安隊員のうち、ジャックを除く5人が制圧された。
残ったのは、そろって状況についていけずポカンとマヌケな面を晒している、武とジャックの2人のみ。
そしてジャックの方も、すぐさま2つの銃口を突き付けられ、コントロールルームの床へ跪かされた。
手の空いていた後輩スタッフは、ターミナルへ手を伸ばすと、そのままワープゲートを正規の手順で起動させ始める。
それを見て、ジャックは3人の正体に気付いたようだ。
「くっ、まさかお前たちは……」
「さぁて、どうだろうねぇ……<ストラトス>チームから『アルテミス』へ。『レイトショーが始まる』、繰り返す『レイトショー』が始まる。観客の皆様はどうぞご着席ください」
<<『アルテミス』了解。<ストラトス>チーム、スタンディングオベーションを期待してくれ>>
隠し持っていたインカムでどこかと通信を交わした後輩は、今度はルームに備え付けられていた無線機をオンにすると、人格が変わったように慌てた様子で叫ぶ。
「周辺の艦艇へ警告!どこかの馬鹿共がゲートを暴走させやがった。今すぐ退避をっ!」
直後、実際には正常に起動したワープゲートに、オイル汚れのような玉虫色の幕が形成される。
そして、『アルテミス』を軸とした5隻の艦隊は、ゲートへ背を向けながらも、後進の姿勢で幕の中央へと吸い込まれていった。
「……やられた」
見事に過激派を欺き、木星へと旅立った艦隊を見送ったジャックは、床に両手をついて項垂れる。
一方、解放されたものの、訳が判らないままの武は、後輩スタッフだと思っていた男たちに問いかけた。
「お前ら、何者だ?」
「あ〜……ここ以外では秘密でお願いしますね?(ビリリリrrr)」
「ぶぴ!?」
ジャックら保安隊を、彼らの持っていたスタン警棒で気絶させてから、後輩は悪戯っぽい笑みで語る。
「じつは、保守点検は副業でして。本職は『IRSM』防衛部所属、特殊部隊<ストラトスキングス>の隊長なのであります」
「……はい?」
こうしてアルテミス艦隊は、『誤報を信じた過激派メンバーによる暴走に巻き込まれた』という名目で、その目的を秘匿したまま、火星圏へと旅立った。




