カンゲイカイ 1
2186年2月20日 国際標準時間午前0時30分
火星圏 とある宙域
ステイルメイト作戦/『アルテミス』艦隊 巡洋艦『宴』 艦内
「え~、それではっ!『ステイルメイト作戦開始記念!過激派ざまぁみろ&クオン君、<ブレイブナイツ>にようこそパーティ』を開催しまぁす!」
「「「「「イェーイ!」」」」」
「はぁ、もうちょっとマシな名前はなかったのか?」
「あ、あはははは……」
呆れて頭を抱えるサクラ副隊長の横で苦笑しながら、俺は次々に突き付けられてくるグラスに、自分のグラスを当て返していく。
ここは『宴』の艦内食堂。5日前は救助された兵士たちでごった返していたこの場所は現在、<ブレイブナイツ>隊の貸し切り状態となっている。
厨房カウンターの上には、即席で作ったであろう横断幕が掲げられ、アルシャイン隊長が宣ったとおりの文言が目に飛び込んでくる。
*****
事故を装って艦隊を集結させ、『偽情報を信じた過激派工作員によるテロに巻き込まれた』という形でワープするという、ステイルメイト作戦の第1フェイズは、無事に成功した。
現在、戦艦『トワイライト・アルテミス』号を旗艦とする5隻の捕虜護送艦隊は、火星の衛星軌道上を通過中。
先の戦いで地球・イーディア帝国の両陣営は大きな損害を被り、どちらもこの宙域からは完全撤退している為、予定では一発も撃つことなく『アカデメイア』へたどり着ける事になっている。
その為、最低限の警戒を各部隊交代制で行なうものの、一発も撃つことなく、木星圏のコロニー『アカデメイア』までたどり着ける予定だ。
そして、『宴』の担当は6時間後。という訳で、新人である俺の歓迎会が開かれたのである。
*****
「では演目ノ一!。まだクオン君と顔合わせしてないメンツもいるから、全員で改めて自己紹介っ!」
「「「「「うぇーい!」」」」」
隊長の音頭に、ノリの良い隊員たちが反応する。
「まずは私っ!誰もが知る<ブレイブナイツ>の隊長。宇宙を駆ける鷲こと、<ブレイブ1>カスミ・アルシャイン。その真紅のマスクの下には、どんな野望を秘めているのやら!」
「自分で言うか?お前の紹介なんぞ、『アホウなトラブルメーカー』の一言で十分だ」
そう言ってコーラを煽るサクラ副隊長。そんな彼女に、隊長は頬をぷくりと膨らませながら、マイクを突き付けた。
「言ったわね!じゃあ私も勝手に言ってやる!鬼の副隊長っ、金ぴかマニア!」
「待て、鬼は構わないが金ぴかマニアとは聞き捨てならん!」
「(構わないんだ……)」
マイクを奪い取ったサクラ副隊長は、コホンと咳ばらいを一つ、落ち着きを取り戻してから話す。
「私は<ブレイブナイツ>副隊長、<ブレイブ2>華桜・レイモンド・ハードロックス。中国大陸は葱嶺山脈に暮らす、龍人族の出身。父親はイギリス人だがな。龍人族にとって『金』は魔除けの色なんだ。マニアではない!……まぁ、そこは置いといて。チームではソコのアホウのお守役と、航空機班の指揮官を担当している。以上」
隣には俺が座っている為、副隊長はマイクを、テーブルを挟んだ向かい側に渡した。
ゲルマン系の青年、<スワン>がソレを受け取る。
「次は僕ですか?何度か顔を合わせているから、必要ないとは思うんですけど、一応。<ブレイブ3>ジーク・ムゼーウス。特車<デネブ>と工作艇<オルニス>のドライバー、兼サバト班の班長。宇宙ではお留守番になる事が多いですが、地上戦や白兵戦ならお任せあれ……こんな感じですかね?」
控えめな態度で語り終えたムゼーウス班長は、そのまま隣へマイクを回す。
カウガールの格好をした若い金髪碧眼の女性だ。
「<ブレイブ4>、クリスティーナ・ハーグマンよ。この隊でのポジションは航空班、ネームは<スバル>。普段は<リィラ>を使うけど、本職は爆撃機乗りよ」
「ば、爆撃機、ですか?」
まだ少女の面影が残る見た目とかけ離れた単語に、俺は思わず聞き返す。
すると、サクラ副隊長が代わりに答えた。
「彼女は元々、アメリカ空軍の爆撃部隊に居たんだ。だが、中東の某国に派兵されていた際、駐留していた航空基地が地元の過激派組織に襲われてな」
「脇腹にライフル弾を一発食らっちゃったの。でもその時、偶々『IRSM』も現地にいたおかげで助かって、その縁で移籍したって訳。クオン君は隊長と同じ特機班になるんでしょう?私達『3羽ガラス』がしっかりサポートしてあげるね」
「……よろしくお願いします」
「この流れだと、次は私か」
クリスティーナの隣に座る日本人女性が、ポテチを飲下しながらマイクを取る。
「『三羽ガラス』こと航空班の3人目、<ブレイブ6>、八咫黒羽。<クロヴィス>だ」
「あれ?貴女は確かサバト班にも……」
「班長が言っていただろう?サバトチームは宇宙ではヒマを持て余す。だからパイロットとレンジャーの二刀流として所属している」
冷徹だが、どこか自慢げに語った黒羽は、そのままマイクを隣、残るサバト班の3人へと渡した。
隊長の音頭に盛り上がっていた人たちで、全員がデスメタルバンドのような奇抜なメイクを施している。右から順に、スキンヘッドで頬に闘牛タトゥーのマッチョマン、赤いモヒカンヘアでガングロな女性、そしてドクロのマスクで口元を隠している青年という有様だ。
マイクを受け取ったのは、真ん中に座る赤モヒカンの女性、先ほど格納庫で俺の背中に張り手をかましたのも彼女だった。
「アタシはティミー・スピカ、<ブレイブ5>でTACは<ヴァルゴ>。ついでに、インディーズバンド、『Spring Big Curve』のヴォーカルだ」
なんとっ!デスメタルバンドのような、ではなく、ガチなバンドメンバーだったとは……。
驚く俺を無視して、スピカはしゃべり続ける。
「こっちの『ミノタウロス』っぽい巨漢が、ドラムのアレク・トラス。<ブレイブ7>で<ボーテス>。で、隣の骸骨はベースで<ブレイブ8>のデネボラ」
「TACネームは<レオ>だ。よろしく」
なるほど、『おとめ座』『牛飼い座』『しし座』だから『春の大曲線』なのか。……しかし、なぜバンド?
「活動資金を稼ぐチャリティーの一環だよ。他にも動画配信やグッズ販売、合法的な資金調達のために、何でもやってるの」
意外性がウケて、予算の3割ほどが彼らのチャリティー収入で成り立っているという。
「まぁ、今は関係ない話だから、頭の片隅に放っておいて良いよ。それより、最後にクオン君から、自己紹介をどうぞ」
「あ、はい……おっと!」
そう言われながら回ってきたマイクを、俺は取り零しかけるが、どうにかキャッチした。
そして、8人の視線が集中し、込み上げてくる恥ずかしさを吐き出すように、声を絞り出す。
「こ、この度っ、ブレイブナイツに配属となりまたっ!カシュミクオ、香住久遠ですっ!」
噛んじまった……。
だが、そこにアルシャイン隊長のフォローが入った。
「こんなふうに、人前でガッチガチになるクソ真面目君だ。やったねサクラ、負担が減るよ」
満面の笑みを浮かべながら、隊長はどこぞのネットスラングめいた言葉を贈る。
スパン!
それに対するサクラ副隊長の返礼は、どこから出したのか、巨大なハリセンによる顔面ビンタだった。
「自覚があるなら自重しろ!……ったく。クオンはアホウと同じく<アクィラ>パイロットだ。コールサインは<ブレイブ9>、TACネームは<アクオス>。出撃時は、隊長と2マンセルを組む事に成る」
「いきなり隊長と組ませるんで?最初は航空班に混ぜた方が良いんじゃ……」
ムゼーウス班長が、戸惑い気味に発言する。
だが、副隊長はそれに対し、首を横に振って返す。
「クオン、もとい<アクオス>の腕なら、アホウの無茶な軌道についていける。現にイーディアのエース、<クットスエ>との一騎打ちで生き残ったのだからな」
「ほう」
「へぇ、すごいじゃん」
「なるほど」
不安を露わにしていた隊員たちだが、<クットスエ>の名前が出た途端、一転して納得の顔になった。
確かにラトゥーラは強敵だったが、その価値は、どうやら俺の認識以上のものだったらしい。
「まぁ、次に哨戒の当番が来た時にそれで不都合があれば、<スワン>の提案通り、航空班に組み替える。それでいいな、隊長」
「うん、OKだよ~。あとは、ウチのローカルルールとかをちょっとずつ皆で教えてあげてね~」
そう投げやり気味に言いながら、隊長はマイクを片付けると、最後に宣言した。
「以上で自己紹介タイム終わり!さ、あとは好きに飲み食いしようぜ野郎ども!あ、この後クオン君と艦内ツアーに参加したい人は、今のうちに名乗り出といてね」
そう言い終えた直後、隊長はオードブルへ手を伸ばし、ジャーマンポテトをごっそりとよそった。
「あ、隊長ずるい!」
そして、<ヴァルゴ>の悲鳴を皮切りに、隊員たちの興味は俺から料理へとすっかり移り変わってしまった。
「……はぁ、大学のサークルみたいだな」
地球の命運をかけた作戦の最中とは思えぬ賑やかさに圧倒されながらも、俺は自分の胃袋が訴えかける欲に従い、食料の争奪戦へと加わる。
これが艦内食堂で開かれた『歓迎会』の、顛末である。
<ブレイブナイツ>隊 各員の担当まとめ。
・特機班(<アクィラ>パイロット)
:カスミ・アルシャイン(ブレイブ1<ホーク>)/隊長
香住久遠(ブレイブ9<アクオス>)
・航空班(<リィラ>パイロット)
:華桜・R・ハードロックス(ブレイブ2<ハープ>)/副隊長
クリスティーナ・ハーグマン(ブレイブ4<スバル>)
八咫黒羽(ブレイブ6<クロヴィス>)*サバト班と兼任
・サバト班(白兵戦闘・特殊工作担当)
:ジーク・ムゼーウス(ブレイブ3<スワン>)/班長
ティミー・スピカ(ブレイブ5<ヴァルゴ>)
アレク・トラス(ブレイブ7<ボーテス>)
デネボラ(ブレイブ8<レオ>)
・チャリティバンド『Spring Big Curve』
:ティミー・スピカ(ボーカル)
アレク・トラス(ドラム)
デネボラ(ベース)




