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夜をめぐる三月


春浅い三月

その夜は ひっそりと温かかった


湖の底のような 山間やまあいの県道を走る

月もなく 星もなく 灯火もなく

山の端が 仄かに白い


カ-ステレオから流れる 翳りない夏の日の恋が

行き場を失って空中で結晶し

サイドブレ-キのあたりに降り積もって

ふたりの間に 見えない壁を作るから

声にならない想いが 隣の席に届かない


無人の工事現場の 長い信号待ちで

ひととき 手をつないだ

前を向いたまま

あなたの横顔は 泣いていた


「さよなら」と 「ごめんね」と

ふたつの言葉だけが

私の中で 小石のようにぶつかりあって

乾いた音を立てていた


何も言わず 暗い窓を見て走り

やがて海辺の国道に出て

夜より暗い海を見た


窓を開けると

夜の底に沈む早咲きの花の匂いが

ひんやりと入ってきた


オレンジ色に灯る小さな漁港を過ぎて

海沿いの 長い直線を走る時

ふいに 雲間に月が現れ

海に 光の道を作った

  あのままふたり あの 金色の光の道を駆け抜けて

  二度と帰らない遠いどこかに 行ければよかった




海に沿って半島をめぐる国道を

夜通し 黙って走って 帰ってきた


春浅い三月

埋立地の向こうに コンビナ-トの灯が揺れていた

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