表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
強制英雄伝 坂本龍馬 史実通りに動かないと電流が流れるので、ビビリの俺が泣く泣く維新の英雄を演じるハメになったぜよ  作者: 守川 聡史


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
22/38

第22話 地獄の操練所と、AI鬼教官

 神戸海軍操練所。

 そこは、日本の未来を切り開くための学び舎である――はずだった。


「……動物園か、ここは」


 俺、坂本龍馬は、建設中の宿舎の柱に隠れて呟いた。

 目の前には、全国から集まった「海の男」志望者たちがたむろしている。

 だが、その実態は酷いものだった。


「あぁん? 薩摩の芋侍が、デカい顔してんじゃねぇぞ!」

「なんじゃとコラ! 長州の腰抜けが!」


 喧嘩、博打、昼寝。

 脱藩浪人、あぶれ者、喧嘩自慢。

 共通しているのは「全員、目が血走っている」ことと、「全員、刀を持っている」ことだ。

 学級崩壊どころではない。ここは治安の崩壊したスラム街だ。


「……帰ろう。わしには無理じゃ。こんな猛獣どもをまとめるなんて、死んでも嫌じゃ」


 俺がそっと後ずさりし、荷物をまとめようとした時だった。


『警告。組織の崩壊係数が閾値しきいちを超えました』


 脳内で、AI「クロフネ」が冷たく告げた。


「知るか! 勝先生がなんとかするろう!」

『勝海舟は現在、江戸での政治工作で不在です。現場責任者はあなたです、塾頭』

「誰が塾頭じゃ! 勝手に役職をつけるな!」


 その時、一人の若者が俺の前に立ちはだかった。

 目つきが鋭く、剃刀のような危うさを纏った男だ。陸奥陽之助。後の陸奥宗光である。


「……あんたが坂本さんか」


 陸奥は、俺を値踏みするように上から下まで眺めた。


「勝先生の右腕だと聞いていたが、なんだ、ただの昼行灯じゃないか。こんな締まりのない顔をした男に、俺たちが従えるわけがない」


 周囲の浪人たちがドッと笑った。

「そうだそうだ! 実力を見せろ!」

「俺と勝負しろ!」


 殺気が膨れ上がる。

 俺は「ひっ」と悲鳴を上げそうになった。

 ごめんなさい。従わなくていいです。むしろ俺がパシリになります。

 そう言って土下座しようとした、その瞬間。


『リーダーシップ・モジュール起動。モード:鬼軍曹ドリル・サージェント


 バチリ。


「あぐっ!?」


 背筋に電流が走り、俺の姿勢が強制的に矯正された。

 猫背が伸び、胸が張られ、顎がふてぶてしく上がる。


「……おい」


 俺の口から、地獄の底から響くような低い声が出た。

 浪人たちの笑い声がピタリと止む。


「誰が、喋っていいと言った?」


 AIが俺の眼球を制御し、陸奥を睨みつけた。

 ただの睨みではない。瞬きを完全に禁止し、瞳孔をカッと開いた、人間離れした凝視(ガン見)だ。


(やめろクロフネ! 目が乾く! 陸奥くんが引いてるじゃないか!)

『威圧効果を確認。このまま精神的優位を確立します』


 陸奥がたじろいだ。

「な、なんだその目は……」

「貴様らの仕事はなんだ。喧嘩か? 無駄口か?」


 俺の身体が、勝手に陸奥へ歩み寄る。

 陸奥が反射的に刀の柄に手をかけた。


「寄るな! 斬るぞ!」


 斬られる! 逃げろ俺!

 だが、AIは止まらない。

 陸奥が刀を抜きかけた、その刹那。


『戦闘予測:右袈裟斬り。回避行動、開始』


 俺の身体が、紙一重でスッと左に動いた。

 陸奥の刀が空を切る。

 俺(AI)は、そのまま流れるような動作で陸奥の懐に入り込み――。


 バチンッ!!


 強烈な平手打ちが、陸奥の頬に炸裂した。


「ぐはっ!?」

「遅い」


 俺は冷酷に言い放った。

 陸奥が地面に転がる。

 静寂。

 あの「剃刀」陸奥が一撃でのされたことに、全員が凍りついた。


(わあぁぁぁ! 叩いた! 叩いちゃった! あとで絶対恨まれる!)

『追撃します。恐怖を骨髄に刻みなさい』

(もう許してやってぇぇ!)


 AIは俺の首をゆっくりと巡らせ、周囲の浪人たちを見渡した。

 獲物を探す捕食者の目だ。


「……次はどいつじゃ。遊びたい奴から前に出ろ。全員、海の藻屑にしてやる」


 シーン。

 誰も動かない。

 先ほどまでの殺気は消え失せ、代わりに濃厚な「恐怖」が場を支配していた。


 一人の浪人が、震える声で言った。

「……す、すまねぇ。俺たちが悪かった」

「塾頭……いや、親分! 一生ついていきます!」


 は?

 陸奥も、腫れ上がった頬を押さえながら立ち上がり、悔しげに、しかし熱っぽい目で見つめてきた。


「……この俺が、反応すらできなかった。坂本龍馬、底が知れない男だ」


 違う。反応できなかったのは俺も同じだ。


『組織統率、完了。業務に戻ります』


 AIが満足げにログを吐き、身体の自由を返してきた。

 俺はその場にへたり込みたい衝動を必死にこらえた。今ここで膝をついたら、こいつらはまた襲ってくるかもしれない。


「……分かったら、さっさと作業に戻れ」


 俺は精一杯の虚勢を張り、背中を向けて歩き出した。

 背後から「へいッ!」「直ちに!」という野太い返事が一斉に響く。


 こうして、俺は神戸海軍操練所の「鬼塾頭」として君臨することになってしまった。

 逃げ場のない宿舎。

 24時間監視してくるAI。

 そして、俺を神か悪魔かのように崇拝する危険な部下たち。


「……お母上。わし、もう高知に帰れんかもしれん」


 神戸の空は青いのに、俺の心は土砂降りだった。

 塾頭として君臨した龍馬だったが、平穏は訪れない。

 幕府の役人たちが、操練所の「不穏な動き」を嗅ぎつけてやってくる。

 AIの翻訳機能が、釈明をすべて「脅迫」に変えてしまう悲劇。


お読みいただきありがとうございます。


坂本龍馬、今回も無事に英雄扱いされてしまいました。


少しでも楽しんでいただけましたら、ブックマークや評価で応援していただけると嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ