孤独
「…理由を」
緩んだレワレの手から、匙が食事卓に落ちる。
「……伺っても、よろしいですかな?」
匙が食事卓で音を立て終わった時、ガシソは口を開いた。
「復讐、ですよ」
「残念ながら我には── 思い当たる節はありませんが?」
「でしょうな。あのレワレ殿の行いに、悪意は微塵もなかった」
----------
「数年前…」
ガシソは右手の人差し指の先を、自分の鼻根に置いた。
「レワレ殿は、我が命をお救いくだされた」
「コナロ禍の際、ですかな?」
「その際に、イカクフの術をお使いになりましたな」
頷くレワレをガシソが睨む。
「あの治癒術は、厳密には<神律>で使用が許されていないものです」
----------
「確かにそうだが…」
ガシソが椅子から腰を浮かす。
「あの際の術使用には、神律宮の許しを得ている」
食事卓の身を乗り出したガシソの顔が、レワレに近づく。
「仮に、厳密には<神律>に反する行為でも、天導師が認め、命をつなぐためには必要な行いは神もお許しになると<神律書>に記されております」
「…」
「慈悲深き我らの神は、信仰者の命が無駄に失われる事は求めてはいない」
----------
「<神律>を厳守するものと、そうでないものは…」
レワレの身が椅子で落ち着くのを待って、ガシソは口を開いた。
「くぐる<冥門>が違うのは、ご存知ですな?」
ガシソに言葉を発する間を与えず、レワレは続ける。
「あの件で某は、自分が愛するもの達と同じ門を通る事は出来なくなった。つまり某は<冥地>でひとりなのです」
「その…復讐として……」
レワレの背中が、椅子の背にもたれかかった。
「我に………<神律>を…………犯させたと?」
ガシソの口元が緩む。
「加えて、<道連れの確保>の意味もあります」
「?」
「死後にレワレ殿と言う同行者がいれば、某の<死後の孤独>は避けられるのではないかと愚考した次第です」
「??」
「生前の行いにより潜る<冥門>は異なります。なので、確実に同じ<冥地>に行けるかどうかは判りませんが──」
「…<獄穴>はひとつしかない」
「はい。<獄地>は、<神律>を犯した者のみが落とされる場です。同じ地でなら、死後に確実に出会えますからな」
「……」




