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溷惑  作者: 紀之介


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3/4

孤独

「…理由を」


 緩んだレワレの手から、匙が食事卓に落ちる。


「……伺っても、よろしいですかな?」


 匙が食事卓で音を立て終わった時、ガシソは口を開いた。


「復讐、ですよ」


「残念ながら我には── 思い当たる節はありませんが?」


「でしょうな。あのレワレ殿の行いに、悪意は微塵もなかった」


----------


「数年前…」


 ガシソは右手の人差し指の先を、自分の鼻根に置いた。


「レワレ殿は、我が命をお救いくだされた」


「コナロ禍の際、ですかな?」


「その際に、イカクフの術をお使いになりましたな」


 頷くレワレをガシソが睨む。


「あの治癒術は、厳密には<神律>で使用が許されていないものです」


----------


「確かにそうだが…」


 ガシソが椅子から腰を浮かす。


「あの際の術使用には、神律宮の許しを得ている」


 食事卓の身を乗り出したガシソの顔が、レワレに近づく。


「仮に、厳密には<神律>に反する行為でも、天導師が認め、命をつなぐためには必要な行いは神もお許しになると<神律書>に記されております」


「…」


「慈悲深き我らの神は、信仰者の命が無駄に失われる事は求めてはいない」


----------


「<神律>を厳守するものと、そうでないものは…」


 レワレの身が椅子で落ち着くのを待って、ガシソは口を開いた。


「くぐる<冥門>が違うのは、ご存知ですな?」


 ガシソに言葉を発する間を与えず、レワレは続ける。 


「あの件で某は、自分が愛するもの達と同じ門を通る事は出来なくなった。つまり某は<冥地>でひとりなのです」


「その…復讐として……」


 レワレの背中が、椅子の背にもたれかかった。


「我に………<神律>を…………犯させたと?」


 ガシソの口元が緩む。


「加えて、<道連れの確保>の意味もあります」


「?」


「死後にレワレ殿と言う同行者がいれば、某の<死後の孤独>は避けられるのではないかと愚考した次第です」


「??」


「生前の行いにより潜る<冥門>は異なります。なので、確実に同じ<冥地>に行けるかどうかは判りませんが──」


「…<獄穴>はひとつしかない」


「はい。<獄地>は、<神律>を犯した者のみが落とされる場です。同じ地でなら、死後に確実に出会えますからな」


「……」


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