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溷惑  作者: 紀之介


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「こ、これは…」


ガシソ宅の食の間。


 眼の前に出された皿にを、レワレは凝視した。


「び、美味な匂いですな……」


「腕もないものが凝った料理を作るなどとんでもないと、意見されましてな」


「に、肉の焼き方は…単純なようで難しいと仄聞します」


「大丈夫ですぞ。人様に出すに値すると、段取りを見守っていたシフエが太鼓判を押しました」


「…」


「故に、安心してお召し上がり頂けます」


 促され、レワレは食事卓の食事匙に手を伸ばす。


 皿の上の肉を、不快音をさせない様に気をつけながら、突き匙と切匙で一口大に切り分けた。


「……では」

 

----------


「ど、どうされました?! レワレ殿!?」


 左手の突き匙で、口元に運んだ肉を噛んだ瞬間。


 レワレは、目から涙を溢れさせた。


「こ、これこそ…我が、長年探し求めていた味……」


----------


「お見苦しいところをお見せしましたな」


 数刻後。


 気を静めたレワレは、ガシソの顔を見た。


「その昔、これと同じ味を口にしたのです」


「…」


「初めて食した際には、奇妙な味だと思っただけだったのですが」


「……」


「いつの頃からか再び口にしたくなり、この肉を探し求めていたのですよ」


「……」


「ついにその味を舌に乗せた喜びで、お見苦しい所を お見せしてしまった」


「………」


----------


「この世界には──」


ガシソは、自分が手にしていた匙を食事卓に置く。


「食材をある味に変える術が存在する事を、ご存知ですかな?」


 唐突な問い掛けを訝しく思いなが、レワレは口を開いた。


「恥ずかしながら、存じませんな」


「まあ、当然かも知りませぬ。何せ<封禁>の術ですし」


「…」


「某は最近、その術の記された<封禁録>を手に入れましてな」


「……その術で、この肉の味を変えたと?」


「はい」


「………で、何の味なのです?」


「<人の味>だと、録には記されておりました」

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