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25話 幼き獣の警告

 実際、九条には思い当たる節がある。


 この世界に初めて来たときの事だった。

 この世界で初めてであった人。それは人ではなくその殻を被った悪魔であった。


 自らを悪魔と呼ぶ彼は、ルシファーを名乗っていたのを鮮明に憶えている。

 だが、一番驚いた事、それは彼が身に着けていた物。

 まだ、地元の服を来ていたのなら合点が言った物を、彼が来ていた物、それは中学生で着るような黒の制服だった。


 そして、アルの言っていた女の服装。

 もし、それが、ルシファーと共通している物ならば、それはきっと悪魔であるとしか思えないのであった。


「それは、……どう説明したらいいのか……ん?」


 九条は、コンラードに説得しようとしたところで、ふと思い出した。

 九条がコンラードと初めてであった時、話していた言葉。まるであれは呪術者(それ)を探しているような話し方だった。


「あなたが、探している物はいったいなんなんですか?」


 九条は、コンラードを問い詰めるような言い方で、それでも九条なりに優しく問いかけた。

 だが、厚い装備を纏った彼は顔を背け、言えないとジェスチャーを取る。


「もし、仮にこれが―――」


 それを言おうとした時だった。

 鞄の中から、鮎川が小さい鷲の顔ごと外に出て、けたたましく鳴いた。


〔ゴメン!今更こんなこと言うのは本当にごめんなさい!でも逃げて!手遅れなの!〕


 だが、その声はしっかりと九条の頭へと伝わっていく。

 鮎川の言っている意味に九条は困惑を隠せなかった。だが、九条よりも驚いていたのは彼の目の前にいる二人。


「幻獣が……人の言葉で喋った?」


 これはもはや、しまったとしか言いようがなかった。

 コンラードは、その興奮を隠せず震える手で、幼く珍しき獣に手を伸ばす。咄嗟に九条は彼女を自分の後ろへ回す。


「センセー!なんでそんな全員に伝える必要なんてないでしょう?!どういうつもりですか?!」


〔そんな事を言っている暇ないでしょう?!もうこの世界は失敗なの!〕


 この世界?失敗?一体センセーは何を言っているんだ?

 この声は二人にも伝わってしまったようで、自分がおかしいのか、それともこの幻獣が特別なのか、訳が分からなくなってしまっているのが目に見えて分かった。


「おい!あんた、そこのグリフォン!今のはどういう事なんだよ!」


 アルは九条の腹の横から微かに顔を出す獣に、指を指して叫ぶ。それは脅すとなんら変わらない物だった。

 九条はそれに気が付くと、隠すように鮎川の柔らかな羽毛の顔を自分の後ろに隠す。


「それを言って、何になるんですか?今やるべき事は、来た道を戻る事じゃないんですか?アル君」


「それは……」


 九条の言葉に、アルは言葉を失う。それと同時に我に返った。そして、少し興奮ぎみのコンラードに退くのである。

 一方、自分のせいでこの様になってしまった事に、特に気にもしないと鮎川は、今すぐにでも逃げるよう、九条に必死に伝えたいのであった。


〔レイ君。あなただけでも良いの。あなたさえ生きていれば、それで……〕


「何を言ってるんですか?そんな事、僕の知っているあなたではない」


〔いいの!それで!これが終わったら、全部言うから!此処さえ凌げば、以前あった事も全部言うから、そしてたらあなただって私の言っている意味が分かるから!〕


 九条は、鮎川の目を見る。その目は嘘を言っているようには見えなかった、ように思いたかった。

なぜなら、彼の視界に映る彼らに死の未来など全く映っていなかったから。


それは鮎川の言っている事が嘘を言っているようにしか聞こえない理由であるのに、十分足りた。


「なー!お前さー!それどこで手に入れたんだよ?!…まさか、喋るなんてなー、しかもきっちり手なずけるしよー」


 ここの中で、一番の危険人物のコンラードは、ズンズンと九条の目の前に歩み寄ると、


「そいつを寄こせ」


 と言った。


「そ、それは無理です」


 九条は、その圧迫感に押し負けそうになる。


 コンラードは、次は九条の顔面に顔を近づけ、目を合わせると、恐ろしい声で、


「俺の声が聞こえないのか?!そいつを寄こせと言っているんだ!俺の命令に従え!絶対命令だ!」


「僕は、あなたの部下になった気はあ、ありません!」


 九条は、鮎川を胴体ごと掴むと、スッと鞄の中に器用に一瞬にいれ、馬車から飛び降りた。

 そして、必死になって森の中へと逃げていくのであった。


 こんな事になるなんて、どういうつもりなんだセンセーは?!


 後ろからは、傲慢な男の叫びが聞こえる。


「今すぐ、奴を捕まえろ!殺してでもいい!奴の背中になるバッグには絶対に手を触れるな!」


 まさか、この世界に来て、あの無駄だと思っていた運動が報われるとは思わなかった。

 そのおかげで、少し横腹には違和感はあるものの、なんとか兵士との間が広がっているような気がする。


「ハァ…ハァ…ど、どうしてこんな事を言ったんですか!センセー!」


〔今は!逃げることに専念して!〕


 クソ!なんで?!


 だが、幾多も戦ってきた男たちには九条が勝てるはずもなく、九条の後ろからは、正確に頭を狙って、矢が飛んできた。

 九条は、何とかそれを避けていく。

 攻めてくる様子はない。九条は木の陰に隠れて、向こうの様子を伺うと同時に、横腹を押さえて息を整える。


〔レ、レイ君大丈夫?〕


「これが大丈夫に見えたりしますか?lッァッハァーハァー」


 どうすることなく、九条はただ飛んでくる矢が自分に当たらない事を祈った。だが、


 ズドン!

 九条のいる木に矢が刺さった。その矢先は硬い鉄で出来ているようで、そして九条は屋に映る自分の顔を見てしまった。


 そして、そこに映る物も最悪な結末を。最悪な物語の終わりを。


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