番外編 前世界では
日本。それは、科学と自然が入り混じった国だ。
九条や鮎川、冴島が飛ばされた異世界とは違い、魔物と幻獣は幻の存在である。
幻といえど、それを見たものが書き留めた物は確かに存在する。それはなんなんだろう。
今の我らでは説明できるわけがない。
九条がいなくなって1週間が経った。
洋子は、兄の帰りを今かと待つが、友達から送られた動画を嫌でも思い出してしまう。
そして今日もあの場所に向かった。
それは兄の消息が途絶えた4日目の事だった。
その時は、黙って友達の家にでも泊まっているものかと思っていた。だが、何処に掛けても、居場所は掴めず、もちろん兄に掛けたが電波の届かない場所にいるのか掛からなかった。
「お父さんも死んで、お母さんと私とお兄ちゃんでやっとで暮らしていこうって、それなのに!」
母親は警察署に捜索願を届けに行った。
洋子は机に座り、友達と連絡を取っていた。すると、よく会話する友達の一人からあるURLが届いた。
「これ、洋子の兄貴じゃないの?」
なぜ兄が?、と思いそれをタップした。
それは某有名動画サイトで、その動画に映っている二人の人物のうち一人の男は、確かに4日前に居なくなった男、兄だった。
もう一人の女性の事はよく知らないが、それより兄に落ちていく鉄骨と、その次の瞬間に兄の真下に開いた穴だ。
穴には青空が映っており、わずかに緑色の何かもあった。
「これって、……木?」
その場所は一度通ったことがある場所で、近くに甘酒のおいしい店があると聞いたことがある。
洋子は、急いで家から出るとその現場に向かった。
◇
その場所は意外と大学の近くだと今初めて気が付いた。
母には電話で出かけてくると伝えた。一応安心だ。
「確か、ここら辺……あ!」
見つけることができた。確かに、白いプラスチックの塗装の壁があり、そこの近くには鉄の破片がちょこちょこと散らばっていた。
しかし、そこには何人もの大人がおり、洋子と同じ動画を見ていたのか、兄が落ちた場所であろうそこに群がっていた。
「ちょっと、どいてくれませんか?」
洋子は大人を搔い潜って、その中心部に向かうが、そこには何もなくそれを見た大人は諦めて何処かへ行ってしまう。
兄が消えた場所。そこを何度も触り、それが定かか確かめる。
警察に言ったって、馬鹿にされて無視されるだけだ。母親に言っても一緒だろう。
数分経って、いつまで居ても無駄だと、その場から去った。
だが、それでも何か分かるんじゃないか?と、それから3日間そこに通った。
その日は、いつもより曇っており今にも雨が降るんじゃないか?とそう感じるほどだった。
一週間目はあれほど風が強かったのに、どういう事何だろう。
洋子は一度、またあの場所に向かったその時、
「あれ?洋子ちゃんじゃねーの?」
後ろから男から声を掛けられた。振り返らると、兄の親友で近くに住んでいる正仁がいた。
また、何か面白いことでも考えているのか、ニヤニヤした顔をしている。
「えーと……永井さんですね?」
「なんで、洋子ちゃんはそこまで硬いのかなー?もっと気安くしてよー」
そう言われても、この人は何かヤらしい事を考えてそうな顔をしていて、どうしても警戒してしまう。
正仁は頬をポリポリと搔きながら、こちらに寄ってきた。
「やっぱ、あの動画みたんかな?」
正仁の質問にコクリと洋子は黙って頷いた。
◇
場所は市立図書館。
二人はそこで、パソコンを立ち上げ何度もその動画を繰り返し再生させる。
確かに、その男は兄、九条レイ。そしてもう一人の女性は九条の教授で九条が「センセー」と呼んでいる人物らしい。
「なんで、あいつが!……あーあ、俺も根性あればなー!」
正仁はそう下らないことを言ってはいるが、それより、なぜこの女性が兄と一緒に居るかが問題だった。
もしかしたらこの事件と女性に何か関係しているんじゃないか?
そう洋子はそう感じられずにはいられなかった
。
「この人は、誰なんですか?」
「まぁ、あれだ宗教学を取ってんだが、あいつにそんなモンに興味があるようには思えんけど?」
「結局、何ですか?」
「んーーー……分からんな!」
そうですか。
洋子は大きくため息をつく。
視聴回数はそこそこ高くはないが、コメント数は千を優に超えている。
だが、その内容のほとんどは、
「最近のCGってのはすごいな」
とか、
「そこ行ったが、何もなかったよ」
とか、どーでもーいい物ばかりで重要なものは何も分からなかった。
それでも何か分かるんじゃないか?と下まで降ろしていくと、ふと気になるコメントが目に入った。
だが、それは明らかに他のコメントは違っており、そしてこれは自分達に向けられているものだと分かった。
「ちょっと、これって何か違いませんか?」
「ん?、えーとこれって?」
そこには、こう書かれていた。
『こんにちは、僕らは向こうで待っている。そして、君ら二人は彼とさよならだ』
君ら二人、それは、今、この時間の洋子に言っているのなら、洋子と正仁を指しているのだろう。
洋子はすぐさまそのコメントを書いたアカウントに連絡を取ることにした。
正仁もそれには賛成で、すぐに知り合いに電話をしだす。
しばらくして、そのアカウントから着信が届いた。
『』
空白。何も書かれていなかった。
いや違う。空白ばかりで、一番下には平仮名とアルファベットである単語が書かれていた。
『fるcつs あうり』
それは訳の分からない言葉で、まるで何処かの名所とでも思われたが、そんな場所など聞いたことも見たこともない。
正仁は未だ電話で話し合っている。まだ終わらないのだろうか?
「フルクツ…アウリ?」
日本語に直してみても…と言っても適当に言ってはみたが、やはり分からない。
言葉の間にはfとcとs、途中で間が分かれている。
「ふー。で、何が帰って来たんか?ってなにこれ?パズルか何かか?」
正仁はその言葉をパズルと感じたらしく、鞄からノートと筆記用具を取り出した。
誰に電話を掛けていたのか?と聞いてみたが、「それは秘密」だとはぐかされてしまった。
だが、この暗号らしき単語が兄と何を探す手掛かりになる事、それだけは分かった。
今やるべき事は、この暗号らしきものを解読する。
◇
あれから何時間経っただろうか?
結局、分からずじまいだ。この単語に何か意味を探し出そうとするが分からない。
「何ですかね?この『あうり』って?」
あうり…アウリ?…auri?
英語で翻訳してみたが、出てくるのは『アウリ』とだけ出てくるだけで意味など出てこない。
むしろこれが意味なのでは?などと無駄なことを正仁は言っていたが、日本語でアウリと聞く言葉なんて知らない。
次に上部分の『fるcつs』
「…ん?これって?」
この単語を英語に直してみたら、ある言葉が見えた。
fるcつs…fructus…フルーツ?
いや、英語のフルーツのでは途中にcなんて入らない。
洋子はネットでその単語を調べると、ある言語がヒットした。
「ラテン語?」
それに反応したのか正仁も顔を突っ込んできた。
もしそれが正解だとしたら、これって…
「ゴールデンフルーツ、金の果実?かな」
突然、正仁が答えを当てる。確かに、それで正解のようだ。ネットでは『ゴールデンフルーツ』と出てきたが、正仁の答えの方がなんかしっくりくる。
「なんで?それを?」
「ちょっとラテン語も嚙ってんだよ」
兄と一緒の第二言語を取っているようだが、兄は別の言語を取っている。
自分で勉強をしているのだろう。
正仁は『金の果実』と聞いてある本を、持ち出してきた。
その本には『アダムとイヴ』という少しホコリの被った古そうな本だった。
ポカンとする洋子に正仁はこれだとばかりに嬉しそうな微笑んだ。




