12話 俺のモノ、誰のモノ
村がざわつく。それには二つの理由があった。
一つは村の子供5人が行方不明であるという事。
そして、もう一つは幻獣であるグリフォンが村を歩いているという事。
「センセー、ホントに大丈夫ですか?」
〔う、うん。だ、大丈夫!・・・・・・あと少しの辛抱だから・・・〕
「辛抱?何がですか?」
鮎川は何も答えず何も言わず、前を向いて歩く。
先ほどから鮎川の様子がおかしい。それ自体は九条自身も分かっているのだが、その理由が分からない。
「おい!シャルルの場所分からないか?」
トルトンが遠くから走って来ると、九条の肩を掴んだ。
「他の4人は知りませんが、シャルル君は森の奥にある隠れ家に居ますよ」
それを聞くと、数人の大人が森の中へと走り出した。
1時間後、シャルルを含めた5人が親に連れられ森から現れた。
「こいつだ!あの、グリフォン、俺のなのに!あいつが俺から盗ったんだ!」
九条は声のする方に振り向くと、やはりと九条は心底がっくしした。
声の主はやはり、あの少年だった。
「父さん!今すぐ取り返してよ!」
なんだ?父親が傍にいたのか・・・。だからなんか丁寧語が混じっていたのか。
「センセー、すみません。今は鞄の中に入っていてください」
いつの間にか、九条と鮎川の周りに数人の兵士が取り囲んでいた。
九条は鮎川の胴体を掴むと無理やり鞄の中に押し込んだ。
「息子から聞いたよ。君は~息子の所有物を盗んだらしいね。返してもらおうか?」
なるほど、あれだけ態度がデカかったのは、こんな父親のドラ息子だったからか。父親もシルクハットの帽子に黒い貴族服、まるでケチな金持ちを絵に描いたような服装だ。
九条を取り囲んでいる兵士は、あちらの世界の中世ヨーロッパに使われていた鉄に覆われた鎧にそっくりだった。
そして、ほぼ使われていない鏡のような鎧を見るという事は、自分を見る事だった。
『そんな屁理屈で、君に返す気がないのなら私が取り返す必要があるのだが』
父親が右手をスッと上げると、兵士は槍を九条に向けた。
周りの村人は不審な目で九条を見る。
『最後にもう一度言う。君は嘘をついてないんだね?』
『僕は!センセーを・・・・・』
父親の質問に九条は答えようとしたその時!
『絶対命令だ!あんな奴をぶち殺してしまえ!』
グサグサグサグサグサグサ!!!!!
あのドラ息子だ。
腹に十数本という槍が九条を貫通している。
腹に痛みが走る。いや、腹だけではない。横腹も、胸も、痛い。
口から血が出てくる。止めようと思ったが駄目だ、力が出ない。
『ゼ・・・ゼンゼー・・・・・だ、大丈夫ですか?』
『私は大丈夫・・・・レイ君・・・あなた・・・血が・・・』
鞄を見ると、鮎川が鞄の中から心配そうにこちらを見ていた。
どうやら、あの友人の言うとおりのようだ。
『ほ、本当に・・・僕とい・・・・・』
全ての力が抜けた。頭を支える力も、手も腕も口も、そして、心臓も。
槍に刺さった状態で足の力が抜けた、まるで座るかのように九条は生き絶えた。
「ぁぁぁあああぁああああ!!!・・・・・・は!」
急いで腹の部位を触る。
よかった。腹に槍は刺さっていない。
だが、さすがに今の叫びは恥ずかしい。
「なんだ?ようやく自分の物じゃないと白状したか?」
ドラ息子が意味不な事を言っている。
九条はドラ息子を睨んだ。こいつに僕は・・・・こいつの我がままで僕は殺されてしまうのか?
兵士は依然、槍を縦に持っている。逃げるなら今がいいか?
九条は兵士と兵士の間を見る。やっぱり駄目だ。全部均等の幅で脱出することは難しいだろう。
「・・・・・・・逆に聞きますけど、あなた方はなぜセンセーを自分たちの物だと言い切れるんですか?」
九条は半分諦め気味にあのドラ息子の父親に証拠を要求してみた。
二人は、その言葉を聞くと何やら話し出した。
「はぁーー。この息子はグリフォンはメスであると言っておるが。その袋から出してもらえないだろうか?」
「それはお断りします。センセーにふしだらな事はしないで欲しいです」
九条は父親の顔を見ると。すんなり断った。
「ふしだらとな・・・・・それでは、私にそれを見せて貰えませんか?」
おい、いきなり敬語に変わったぞ。というか、こいつ見たことないのか?息子の持ち物は見ない派ですか?
「どうしましょうセンセー」
〔私はかまわないよ。これで事が済めば〕
ほんと、これで事が済めばいいのだが、絶対付けあがるだろ。あのタイプの親子は。
九条は一旦鞄を降ろすと、鮎川の脇の下に両手を入れ持ち上げ鞄から出した。
「おぉーー・・・・・!これが、あの幻獣グリフォンなのか?素晴らしい!」
父親は、今にも掴みかからんと腕を伸ばそうとしている。
やっぱり、出すべきではなかった。
「お、俺のグリフォン!今すぐ・・・・・返せ!」
ドラ息子がゆったり歩きながら両手を伸ばし襲ってきたので、急いで鞄の中にしまった。半分、鮎川も逃げるよになっていたが。
「なんで!鞄の中に入れるんだよ!」
「だって、あなた。目が怖いんですから、センセーが逃げてしまったんですよ」
周りの村人がドラ息子をクスクスと笑う。その笑い声を聞いたのかドラ息子は顔を赤く染める。
早く、死亡ルートを回避できないんだろうか?はやくその分岐点に来てほしい物だ。そろそろこいつらと話してるのも疲れてきたのだが。
九条はドラ息子もといリックとその父親を睨んだ。
「センセーはそもそも僕のではありません。センセーはセンセーで誰の物でもありません・・・・・」
九条は二人に指を指した。
「よって、あなた方の物でもありません!!あなたはそのドラ息子を連れて帰ってください!!」
二人は歯を食いしばり九条を睨んだ。
周りで先ほどからずっと3人を見ている。村民はどちらの味方という訳でもなく、ただ口を閉ざして見ている。
「そんな屁理屈で、君に返す気がないのなら私が取り返す必要があるのだが」
ようやく分岐点が来たか。
2、3日前は、相手はウサギだったが、今回は金持ちだ。
変えてみせる。っというか死にたくないから変えて見せないと、僕が死んでしまう!
「・・・・・・・・答える気はないのか?」
「はい。センセーは僕の所有物でも誰のモノでもないので」
父親が右手をスッと上げると、兵士は槍を九条に向けた。
周りの村人は半ば心配そうな目で九条を見る。
兵士の鎧からは震えるように九条を見る男の目が見えた。
槍もわずかだがカタカタと震えている。
「父さん・・・こいつ笑ってる・・・」
ックックックックックックックック・・・・・
なぜ、僕は笑っているんだ?もうすぐ死ぬのかもしれないんだぞ?
死ぬかもしれないのに、あの未来を見てしまったのに・・・・。
「何がおかしんだ?」
「僕は死なない・・・・そんな、槍簡単に避けてみせる!」
それを言い終えると同時に、ドラ息子が九条に指を指した。
「絶対命令だ!あんな奴をぶち殺してしまえ!」
その瞬間、九条目がけて十数本の槍が刺さってくる。
まさにこの瞬間を待っていた。
「おいおいおいおいおいおい・・・・・・!なんで読めんだよ!」
リックと父親の目線は槍の上にあった。
九条は槍の上に乗った。だが、さすがに兵士にそれほどの腕力はなかった。そのせいで、九条の体勢は崩れ地面に尻をついた。
「おい!クソ兵士ども!何やってんだ!?」
リックは腕を乱暴に横に振り兵士に命令する。
しかし、父親はそれを止めた。
「よせ、もういいだろ。お前はやりすぎだ。そもそも誰がこんなくだらない事を始めた?」
「それはあの男が・・・・!」
「当分、お前は外出禁止だ。・・・・・それとそこの君、なぜあの時死なないと言い切れた?」
父親は突然、意見を変えると九条に対して態度を変えた。
「それは言っても分からないと思います。ですが言えることは一つです。僕はどうやら本当に死ぬはずだったんです」
この言葉の意味を分かっているのか、分かっていないのか、父親の表情はあんまり変わらなかった。
そして、リックの悔しがる顔ときたら・・・・・・・・・え?
どうやら、彼は今日死ぬそうです。




