新調
試しにしばらく治療院に通い、患者の治療を一日一回のペースでやってみたところ、美咲は『治癒属性魔法LV1』を習得するに至った。とはいえ使い勝手は非常に悪く、実用性は今のところ皆無である。
旅の準備はすでに終わっているため、雄哉たちは難易度DやCの依頼を軽く消化しながら武器の完成を待った。
そして、約束の二週間が経過した日、武器屋に訪れる。
出迎えたのはやはり筋肉隆々の巨漢店長。顔には実に満足そうな笑みを浮かべていた。
「おお、いらっしゃい。そろそろ来る頃だと思ってたぜ。武器なら完成してる。持ってくるからちょっと待ってな」
一度奥に引っ込み、再び戻ってくる店長。強化魔法まで使い、三つの武器を同時に持ってきた男は一つずつ丁寧に雄哉たちへ武器を手渡した。
「素材がよかったからな、どれも俺が人生で作った最高傑作の武器に仕上がったと自負してるぜ」
「へぇ……」
「おぉー……」
「これは……すごいですね……」
雄哉、ヨルキ、美咲の順に、手にした武器を見て感嘆の声を漏らす。
まず店長は雄哉の剣を指差しながら口を開いた。
「その剣の名は『オスクロークソード』。【デイラッシュ】の角は死ぬほど頑丈でな。加工するのに一番時間がかかったが、おかげでとんでもない化け物武器になっちまった。多分、そいつを壊せる魔物は現状存在しねぇぐらいに頑丈だ。あとオーダーの通り、闇属性魔法の魔力消費を抑える魔法陣も刻み込んでおいた。素材との相性がよかったみたいでな、使用魔力量を10分の1以下にまで抑えることができる。適正魔法が闇属性なら、これ以上ないってほどの武器に仕上がったぜ」
「すげぇ……!」
説明を聞いて興奮を抑えきれない雄哉。
鞘から剣を抜き出してみると、幅7がセンチ、長さが90センチほどある暗黒の刀身があらわになる。光が吸収されているのか、空間に穴があいてしまったのではないかと錯覚してしまうほどの黒。暗闇でこの刃を視認することは極めて難しいだろう。刀身には複雑な文様が掘り込まれているらしいが(あまりにも暗く確認はできない)、特殊の加工がされてあるのか表面は滑らかだ。雄哉の手にずっしりと来る重みは不思議と馴染み、取り扱うのに問題はなさそうだった。
「ありがとう、最高だ。金額は?」
「800万リアンってとこだが、大丈夫か?」
「俺だってもうランクAの冒険者だぞ、貯金はある。買わせてもらうよ」
「頼もしく成長しやがって。毎度あり!」
美咲をランクBにまで上げる過程や修行中に倒した魔物の素材を売り払っていたため、依頼は受けておらずとも貯金はあるのだ。雄哉はあらかじめ用意していた金を直接店長に渡し、正式に武器を買い取る。
次に男はヨルキの槍について説明を始める。
「で、そっちの槍が『ヴェントクク・ランス』。ガーガリアの爪は鋭さが売りでな。そこら辺の岩なら武器強化を使わなくても斬り裂けちまうほどだ。素材には無かったが、柄もこだわらせてもらったぜ。頑丈でよくしなって、耐久性も抜群の『レイの木』を加工した。そう簡単にぶっ壊れたりはしないだろう。キッチリ風属性魔法の威力を1.5倍近く上げる魔法陣も刻んである」
「1.5倍ですか!」
ヨルキは目を大きく見開きながら自身の持つ槍を見上げる。
槍は全長およそ2メートル。その先端部分30センチほどが穂先となっており、爪を加工したとはいえその光沢は金属のそれよりもまばゆい。重量は軽めだが扱いやすく、武器強化による切れ味の上昇を加えれば相当の威力を発揮することだろう。ヨルキの適正魔法である風属性魔法も刻まれた魔法陣により強化されることとなるわけで、そのスペックは凄まじい。
「値段は600万リアンだ」
「はい、大丈夫です!」
ヨルキもまた今まで貯金してきたお金を渡し、槍を受け取る。
最後は美咲のレイピアだった。
「お嬢ちゃんが持ってるのは『アオーロレイピア』。【ドロモスタスク】の牙には元から魔力を蓄える性質があってな、魔力貯蔵魔法陣をそこに加えることで最大20万の魔力を蓄えておくことができるようにしておいた。もちろん武器としても優秀だぞ。刺突の貫通力はうちで売ってるどのレイピアよりも高いだろうぜ」
「20万……!?」
美咲がその魔力貯蔵量に仰天しながらも、グリップを握って鞘からレイピアを抜くと、白銀の美しい刀身が姿を現す。美しい曲線を描くナックルガードと相まって芸術品のような印象も受けるが、その能力は馬鹿にできない。何より、20万という莫大な魔力の貯蔵量は美咲の魔力不足という弱点を補うどころか、雄哉とヨルキの魔力量をも凌駕しているのだ。オーバースペックと言ってしまってもいい。
「価格は700万リアンだぜ。加工自体はさほど難しくなかったが、魔法陣を組み込むのにかなり金がかかっちまってな」
「いえ、大丈夫です。ありがとうございます」
美咲は引き出していおいた貯金で支払いを済ませ、正式にレイピアの所持者となる。
これで全員が武器の購入を終えたわけだが、男の話はまだ終わらない。
「それからお前にはもう一つ渡すもんがある」
「俺か?」
雄哉を指差し、武器屋の店長は最後に持っていた鞘付きの得物を差し出す。
それを受け取った雄哉は目を白黒させた。
「なんだ、これ? 頼んでないけど」
「実は剣を加工してる最中に素材が多少余っちまってな。換金して俺の利益にしてもよかったんだが、気まぐれでためしにナイフを作ってみた。バタフライ・ナイフ、まだ使ってるんだろ? でも、あれじゃあこの先やっていけない。金はいらねぇから、受け取っときな」
「ナイフか……」
雄哉は刃渡り20センチの、いわゆるボウイと呼ばれる種類の大型ナイフ。以前購入したバタフライ・ナイフと同じ刃長だが、形状はまるで違った。
鞘に入れて持ち運ぶタイプのナイフで、キリオンと呼ばれる指を守るための突起物がグリップの上あたりから上下に付いている。刃はオスクロークソードと同じく深い闇のような黒。おそらくこれもまた、尋常ではない頑丈さを持っているのだろう。
護身用などではなく、完全な戦闘用ナイフ……いわゆる、ボウイナイフ。一年ほど前の雄哉ならば、まず間違いなく握る事すらためらっていたはずだ。しかし、今は。
「ありがたく貰っとくよ。もともと護身用のために買っただけのバタフライ・ナイフがこれからも使えるとは思えないしな」
「存分に使ってやってくれ」
鞘に刃を戻し、ナイフも受け取る。
そもそもバタフライ・ナイフは折り畳み式という時点で強度に問題があった。戦闘をする上で強化することにより今までは何とか使うことができていたが、やはり戦闘用に特化したナイフに比べれば攻撃力は圧倒的に劣ってしまう。せっかく作ってくれたと言うのなら、受け取らない理由などない。
「そんじゃ、俺からは以上だ。毎度あり!」
そう言って店長は店の奥に引っ込む。
雄哉たちは感謝を述べながら武器屋を後にした。
◇◇◇◇
新しい武器を手に入れ、旅の用意は万全。
準備はすべて整った。
武器を新調した翌日、さっそく三人は旅に出るべく宿を出る。
しかし。旅の初日に待ち構えていたのは、地獄だった。
次回から三章に突入します。やっと物語らしくなる……んじゃないかなぁ。




