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やる気なし勇者の異世界道  作者: 国衣任谷
二章
38/57

更新

 そもそも、昇格依頼達成後の集合場所をカルテリオ城城下町に定めたのには理由がある。

 一つは依頼の場所が北、西、南とバラバラな方向であったため、その中央付近に位置するこの町が一番集合に適していたから。

 そしてもう一つは。


「まさか約束を守ってくれるとはな。たったの一年で冒険者ランクAだなんて、スゲー成長っぷりじゃねぇかよ」

「我ながら、結構頑張ったとは思うよ」


 翌日、雄哉たち三人がやってきたのは武器屋だった。

 店長は頭の禿げたタンクトップの大男。雄哉が初めて武器を購入するために入った店である。

 かつて、武器を買い替える時は必ずここで買うから安くしてくれと頼み込んだ事があった。その約束を果たすためにやって来たのである。

 しかも、今回は既製品の購入ではなくオーダーメイドだ。

 雄哉は【デイラッシュ】の頭ごと運んできた頑丈な角を剣に。

 ヨルキは【ガーガリア】の屈強な爪を槍に。

 美咲は【ドロモスタスク】の細長い鋭利な牙をレイピアに。

 それぞれ、昇格依頼で倒した魔物の素材で新しく武器を作ることとなった。

 魔物の素材で武器を作るというのは、この世界では珍しいことではない。というよりも、そこらの鉄を鍛えて作った武器よりも、魔物の素材を加工して作った武器の方が頑丈かつ強いのだ。

 修行を終えた後、もう使わないからと貰った武器も十分に使える物ではあるのだが、ニトには「できることなら早めに新調しておいた方がいい」と言われていた。自分の命を預ける物だからこそ、妥協は許されない。


「素材は受け取った。相応の金は取らせてもらうが、魂込めて作らせてもらうぜ。そうだな、二週間もあれば三つとも仕上げてやる。楽しみに待ってな」

「頼んだ」

「お願いします!」

「よろしくお願いします」


 武器の注文を終えて店を後にする。

 とりあえず、三人は一度宿に戻って二週間部屋を借りた。武器が完成するまでの間は、これからの旅の準備期間とすることにしたのである。

 何が必要かを話し合うために同じ部屋に集まると、雄哉は一つ疑問を口にした。


「そう言えばヨルキと美咲はプレートの情報を更新したか?」

「最近はしてませんね。一応やっときますか」

「私もまだです」


 二人は針を軽く指に突き差し、血を一滴プレートに垂らすことで情報を更新する。


■■■■■■■■■■■■■■■■

 ヨルキ=ルミエス 男 十五歳

 職業   冒険者(ランクA)

 魔力量  154000

 適正魔法 風属性

 習得魔法 風属性魔法 LV8 無属性魔法 LV7 火属性魔法 LV5 水属性魔法 LV5 地属性魔法 LV5 光属性魔法 LV5

 特殊技能 不幸 LV8 魔力効率 LV5

■■■■■■■■■■■■■■■■


■■■■■■■■■■■■■■■■

 美咲 女 十六歳

 職業   メイド 冒険者(ランクA) 

 魔力量  31890

 適正魔法 治癒属性

 習得魔法 火属性魔法 LV7 水属性魔法 LV6 地属性魔法 LV6 風属性魔法 LV6 無属性魔法 LV4

 特殊技能 料理 LV8 魔力効率 LV8 魔力圧縮 LV6 

■■■■■■■■■■■■■■■■



 三人は一斉に黙り込んだ。

 順調に成長している、というのはよく分かる。

 しかし、どうしても目につくのが美咲の適正魔法だ。今までは明記されていなかった部分が、わかるようになっていた。しかし、その属性は聞いたことも無い属性。


「……治癒属性? ってなんだ?」


 ヨルキに向って疑問を投げかける。

 一応、雄哉は魔法についてはいくらか勉強しており、一般教養レベルの知識を持ち合わせている。にも関わらず、治癒属性など聞いたことが無かった。

 と言っても、雄哉はこの世界の住人ではない。かつては奴隷であった美咲はともかく、ヨルキならば知っていてもおかしくはない、と思ったが。


「さ、さぁ……? 僕も聞いたことありませんよ。実在する魔法の属性は無、火、水、風、土、光、闇の7つだけのはずです」

「美咲、心当たりは?」

「すみません、私にもちょっと……使い方もまったくわかりません」


 結局のところ、誰も知らない属性ということだった。

 そして、そんな時こそ。


「なら、図書館に行くか」


 久々に、分からないことがあればその都度頼ってきた図書館へと向かうことにした。



 ◇◇◇◇



 一週間が経った。

 毎日のように図書館へ通い、ひたすら文献を探した雄哉たちだったが、成果は上がらない。

 旅の準備はすでに終わっており、武器の完成を待つばかりなのだが、美咲の適正魔法である治癒属性にかんしては何一つわからないままだった。

 だが、ついに。


「あぁっ! ありました、ありましたよミサキさん! ほんの少しですけど、ここに記述があります」

「本当ですか」

「やっと見つかったか……」


 机に身を投げ出し、脱力する雄哉。

 ヨルキが古びた本を机に広げ、記述部分を指で差す。


「えーっと? 『かつては治癒と呼ばれる属性も実在した。しかし扱いが非常に難しく誰も使わなくなり、現在は衰退。人体からはすでに治癒属性を使う機能が失われたとされる』とのことです」

「誰も使えない? じゃあなんで美咲の適正魔法なんだ?」

「ミサキさんだけは使えるってことでしょうか。それにしたって、機能が無いのに使えるのはおかしいですよね。突然変異……とか?」


 すると、美咲が呟いた。


「試しに使ってみることができればいいのですが……まさかそのためにわざと怪我をするわけにもいきませんし」

「あぁ、そうか。なら怪我人のいるところに行けばいいんじゃないか?」

「え?」



 ◇◇◇◇



 魔王の影響が強くなったせいか、一般人が城下町の近辺という比較的安全地帯でも魔物と出くわして怪我をするという事態が急増しているらしい。冒険者が怪我をするということも多くなり、数こそ少ないが治療院へのリピーターは増えているとのこと。

 つまり現在、治療院は繁盛している。


「あんまり怪我とは無縁だったから、来るのは久しぶりだな……」


 初めて難易度Cの依頼を受けた後、外れた肩を入れてもらった場所だ。以前は人の気配すらほとんどなかったが、今は時々包帯を巻いていたり杖をつきながら歩く人が出入りしていた。

 ドアを開けると独特の薬品臭が鼻腔を襲う。中では診察待ちの冒険者や一般人が数人、待機用の椅子に腰を掛けていた。受付の女性が雄哉たちの来院に気付き、歩み寄ってくる。


「今日はどうされましたか?」

「いや、怪我をしたってわけじゃないんだ」

「少しお願いがあってきました」

「?」


 首をかしげる女性に、美咲が事情を説明。すると。


「治癒属性……? 確か聞いたことがあるような……少し、先生に確認を取ってきます」

「あれっ。もしかしてわざわざ図書館で調べる意味無かったんじゃないですか?」

「かもしれません」


 ヨルキの言葉に苦笑いを浮かべる美咲。どうやらわざわざ一週間かけて調べずとも、ここに来ていればすぐさま解決していたことだったようだ。図書館で調査の発案者であった雄哉はがっくりと肩を落とす。

 しばらくすると女性が戻ってきた。


「お話があるそうです。こちらにどうぞ」


 案内に従って診察室へ。そこでは椅子に座った長髪の女性が、真剣な眼差しをして考え事をしていた。


「先生、お連れしました」

「ありがとう。えっと、治癒属性魔法が使えるかもしれないのはどなたかしら?」

「私です」


 雄哉とヨルキを置いて一歩前に出る美咲。緊張しているのか、少し手が震えていた。


「後ろの二人はお仲間? なら、一緒に話を聞いてもらいましょう。そこに座って」


 促されてベッドに腰を掛ける二人。

 そして、話が始まった。


「まずは自己紹介ね。私はメリィ。医者になる前はカルテリオ城で魔法の研究をしていたわ」


 メリィの言葉に雄哉はピクッ、と反応する。

 魔法の研究をしていたということはもしかすると、勇者召喚の儀式魔法について何か知っているかもしれないと思ったのだ。だがそれは今は置いておく。今回の目的は美咲の治癒属性魔法を詳しく知ることなのだから。


「だから、治癒属性に関しても知っている。それは大昔に誰にも使われなくなってから衰退してしまったものよ」

「そこまでは図書館で調べたから知ってるな」


 雄哉が口を挟むと、メリィは微笑む。


「あら、勉強熱心ね。でも、図書館の資料じゃ詳しくは何もわからなかったんじゃないかしら」

「確かにそうですね。たったの二行しか書かれていませんでしたし」


 結局、あれからも少しだけ粘ったのだがそれ以上の情報は手に入らなかったのだ。

 だからこそ、あとは実験まがいの魔法行使でどのような魔法かを体当たりで調べるしかないという結論に至ったわけだが、どうやらメリィはさらに深く治癒属性について知っているらしい。


「治癒属性魔法が衰退した理由は二つ。一つは使用魔力量が尋常ではなく多かったこと。記録として残っていたのだけど、15万の魔力を費やして使用した治癒属性魔法でも、擦り傷を完治させるのが限界だったそうよ」

「15万……」


 現在の雄哉やヨルキが持つ魔力量の、ほぼすべてだ。それだけの魔力を使っても擦り傷しか治せないとなれば、実用性があまりに低い。


「そしてもう一つが修練の難しさね。そもそも怪我の治療をしないとレベルは上がらないし、大勢怪我人がいるからといってそう何度も使えるわけじゃない。しかもレベルの上昇率も他の属性に比べて20分の一以下らしくて、どれだけ極めてもLV3が限界だったそうよ。だから人々は治癒属性の魔法を次第に使わなくなり、最終的には人体から治癒属性を扱う機能そのものが消失したのね。でも、稀に思い出したかのようにそれを持って生まれる人間もいる。原因はよくわかっていないけれど、それがあなたというわけよ」

「そう、だったんですか……」


 説明を聞いた美咲は目に見えて落ち込んでいた。

 言ってしまえば、治癒属性の魔法は欠陥だらけなのだ。だからこそ衰退した。それが使えたところで、意味は薄い。

 しかし、メリィの話はまだ終わっていなかった。


「というわけで、さっそく見せてもらおうかしら。どんな魔法かこの目で見るのは初めてだしね。次の方、どうぞー」

「えっ!?」


 問答無用で、次の患者がやってくる。

 現れたのは冒険者の男で、右腕を肩から吊っていた。美咲と雄哉たちの姿を見て、男は一歩後ろに下がった。


「あっ、あれっ。まだ診察終わってないんですか? だったら出直しますよ」

「待って待って。ちょっと今から、この子があなたの怪我を治療してみるから」

「はあ……でも、骨折ですよ? 治療と言っても、回復薬を塗るぐらいしか」

「い・い・か・ら!」


 有無を言わさずメリィに椅子へ座らされた男はしぶしぶ幹部を晒す。

 さっそくメリィは美咲に治癒属性魔法の使用を促した。


「ほら、使ってみて。失敗しても大丈夫よ、少なくとも怪我が悪化するなんてことは起きないから。もしもの時は私が治療できるしね」

「じゃ、じゃあ……やってみます」


 仕方なく、美咲は幹部に手をかざして治癒魔法を使ってみる。

 と言っても、今までに一度も使ったことのない魔法だ。どのようにすれば使えるのかどうかも手探り状態である。とにかく、怪我は骨折ということなのでイメージするのは骨と骨の接合。元の正常な位置に骨を戻し、つなげる感じ。

 具現化される。淡いオレンジ色の魔法陣が出現し、雲の切れ目から差し込むような優しい光が生まれた。


「おぉ、暖かい……心地いいですね。痛みが引いていく……」

「……で、でも……っ!」


 十数秒後、蝋燭の火が吹き消されるように光が消滅する。

 すると、男は驚いたように腕を動かした。


「す、すごい! まだ痛みは残ってますけど、骨は引っ付いてますよ! これ、魔法なんですか!?」

「ふふ、秘密。えーっと、うんうん。かなり治癒が進んでるわね。これなら自然治癒に任せても治るわ。回復薬を塗ればすぐにでも痛みは消えるでしょう。完治まではもう少し時間がかかるだろうから、激しい運動は控えること」

「はい、ありがとうございました!」


 頭を下げ、男は診察室を後にする。


「それで、どんな感じ?」

「使えたのはいいですけど……魔力が空っぽになってしまいました」

「美咲は魔力効率LV8と魔力圧縮LV6の特殊技能があったはずだよな。なのに魔力を全部使ってその程度の効果なのか……」

「それは考え方が少し間違っているわね。あの怪我は完治まであと二週間はかかるはずだったわ。怪我の治療を極めて短時間に圧縮できるわけだから、むしろこれはすごいことよ。まあ、燃費が悪い魔法であることに変わりはないけれど」


 メリィは興味深そうに白紙へ鉛筆を走らせていた。

 すると、受付の女性が診察室へと入ってくる。


「あの、先生。次の患者さんをお呼びしても?」

「おっと。そう言えば仕事中だったわね。ありがとう、貴方たち。貴重なものを見せてもらったわ。良かったらまた見せて頂戴。次の人、どうぞー」

「待ってくれ。一つだけ教えて欲しいことがある」

「ん、なにかしら?」


 美咲とヨルキはそそくさと部屋を出たが、雄哉だけは仕事に戻ろうとするメリィを止めた。どうしてもしておかなければならない質問があるからだ。


「カルテリオ城で魔法の研究をしてたんだよな。勇者召喚の儀式魔法について、何か知っているか?」

「勇者……召喚? 聞いたことが無いわね。儀式魔法なら専門外だけど、基礎知識ならあるわよ?」

「……そうか。ありがとう」


 最初からあまり期待はしていなかったのでダメージは少なかったが、やはりそう簡単に日本への帰還方法は見つかりそうになかった。


そろそろ武器が完成する頃。

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