第6話
エリシアが転生してから数日が過ぎた。
エリシアは部屋に閉じこもり、運ばれてきた歴史書や初級魔法書を片っ端から読み漁っていた。
前世の知識とこの世界の常識を照らし合わせ、社会構造を頭に叩き込む日々。
外の風の音や鳥の声が聞こえるたび、窓の外を眺めては「そろそろ出たい……」とため息をついていた。
その日、再びマリア先生が訪れた。
いつものように恐らく魔法で全身を診察した。
「もう完全に安定していますね。魔力の流れも乱れがなく、体の負担も見られません」
「外出しても大丈夫ですか?」
「ええ、むしろ新鮮な空気を吸った方が良いでしょう。ただし、無理は禁物ですよ」
(ついに、外出許可が下りたぞ!)
執事のライルと、護衛を兼ねたメイドのセレナを連れて、エリシアは領主邸の庭園へ出た。
セレナは見た目が高校生くらいの若々しい美少女だが、肩幅が広く、腕や脚はがっしりとした筋肉質。
黒髪のロングを高いポニーテールにまとめ、動きやすそうな軽装のメイド服を着ている。
腰には短剣を差しており、一見して戦闘訓練を積んでいることがわかる。
庭園は快晴だった。
空は抜けるような青。
風はカラッと乾いていて、暑すぎず、心地よい日差しが体を包む。
久しぶりの外の空気は、埃っぽい本の匂いとは別次元の爽快感だった。
「……気持ちいい」
エリシアは深呼吸をし、周囲に誰もいないことを確認してから、右手を空に向けた。
「ファイヤ・ボール」
朱い魔力が収束し、拳大の火球が勢いよく飛び出す。
空高く舞い上がり、ぽん、と爆発音を立てて消えた。
熱波が頬を撫で、かすかな焦げ臭さが鼻をくすぐる。
「お嬢様!?」
セレナが血相を変えて駆け寄ってきた。
ライルも盆を落としそうになりながら、慌てて後を追う。
「お嬢様! 今のは!? なぜ魔法を!? お体は大丈夫ですか!?」
セレナは明らかに動揺していた。
エリシアの前に立ちふさがり、両手を広げて守るような姿勢を取る。
エリシアは少し照れながら手を振った。
「うん、大丈夫だよ。ちょっと試してみただけで……負担なんて全然感じないし」
しかしセレナの表情は一切緩まない。
むしろ眉を吊り上げ、真剣そのものの目でエリシアを見下ろした。
「だめです! まだ五歳の体で魔法の行使は負担がとても大きいんですよ! ただでさえ長年お身体が悪かったのですから、絶対にいけません! 八歳の神儀までは一切禁止です! 約束ですよ!」
懇々と、というよりは、完全に詰めている。
護衛としての威厳が滲み出ている。
エリシアは口を尖らせた。
「えー……でも本当に平気だったし……もうちょっとだけ……」
「だめです」
即答。
一切の妥協なし。
セレナは腕を組み、道を塞ぐように立ちはだかった。
ライルも後ろで困ったような顔で控えている。
エリシアは肩を落とした。
(……まあ、確かに病み上がりなのに五歳の体でいきなり魔法撃つのは周りから見たらヤバいか……)
「……わかった。もうしない」
セレナの表情がようやく和らぎ、ほっとしたように息をつく。
「お嬢様がご無事で何よりです。でも、次やったら本当に怒りますからね」
最後の一言は、どこか、姉のような響きを帯びていた。




