第48話
謁見の間。
玉座に座るヴァレリア女王。
その横には、ユーリアン王子だけが座っていた。
セレスティアの姿はない。
エリシア、アリシエッタ、アルフォンス、そしてルイス、ヴィクトル――五人が玉座の前に跪く。
誰もが息を潜め、重苦しい空気が部屋を支配した。
女王が、口を開いた。
「エリシア……聞かせてくれますね?」
エリシアは息を吸い、顔を上げた。
「はい……神に、会っておりました」
女王の目が見開かれた。
「――!?」
その一言が、女王にとってどれほど重いものか、エリシアにも伝わってきた。
女王は身を乗り出した。
「神は……なんと?」
エリシアは、落ち着いて答えた。
「……私の未来の願いを、叶えてやると」
「神には以前にも?」
「神儀の時に、一度だけお会いしました」
「その時にも、何か?」
「『自由に』、とだけ」
女王は背もたれに体を預けた。
「そうですか……」
重い空白。
女王が立ち上がった。
エリシアに近づき、告げる。
「エリシアとユーリアンの婚約だが、ここに――」
言葉が続こうとしたその矢先。
謁見の間の重い扉が、轟音を立てて開かれた。
「女王陛下!!」
入ってきたのは、白と金を基調とした荘厳なローブに身を包んだ女性――教会の大神官長クライリアスだった。
銀髪を厳格に結い上げ、女神の紋章を刻んだ杖を握りしめ、顔は蒼白。
彼女は扉を守る騎士たちを、まるで存在しないかのように押しのけ、強引に室内へ踏み込んできた。
騎士たちが慌てて剣に手をかけ、制止しようとする。
「神官長! ここは謁見の間――!」
「通せ!! 一刻を争う!!」
クライリアスの声は、雷鳴のように響いた。
杖を床に叩きつけ、魔力の波動が部屋全体を震わせる。
騎士たちは一瞬怯み、道を空けた。
女王の眉が、わずかに動いた。
「……クライリアス大神官長。何事ですか」
クライリアスは玉座の前まで進み、息を荒げ、告げた。
「魔王が……復活しました!!」
部屋の空気が、凍りついた。
女王の顔が、初めて――本当に、初めて、動揺に歪んだ。
ユーリアンの体が、椅子の中で縮こまる。
アリシエッタの拳が、強く握りしめられた。
アルフォンスが、息を呑む。
ルイスとヴィクトルが、無言で見つめ合う。
エリシアだけが、神の言葉を鮮やかに思い出した。
――君の未来の願いを叶えてあげよう。
これは、始まりだった。
魔王復活という、王国最大の危機の。
クライリアスは、顔を上げ、全員を真っ直ぐに見据えた。
「古の封印が解け、北の魔境より……魔王の気配が、確かに……!!」
女王は玉座に戻り、腰を下ろした。
「……そうですか」
短く、しかし重い一言。
そして、視線をエリシアへ移した。
「エリシア……神は、本当にそう言ったのですね? あなたの願いを、叶えると」
「はい……陛下」
謁見の間は、静寂に包まれた。
外では、遠くで警鐘が鳴り始めていた。
王国は、今――歴史の転換点に立っていた。




